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第8話 本当の気持ち

「……え?」

「どうしました? んっ、このハム美味しいですね」


 この人畜無害そうなパタパタマリスが魔王の子供?

 ……ほんとう?


 ただ、魔族は嘘をつかない。

 これは、歴史が証明していることだ。


 とはいえ、それが絶対とは思わないけれど。


 聞きたい事は山ほどある。

 けれども、まず一つ聞いておかないと。


「マリス」

「はい?」

「……人間を、恨んでる?」


 魔王や魔族は、人間と数百年も争っていた。

 きっかけはわからないが、残虐非道な行いを見てきたのだ。


 それだけで十分だった。


 しかし、マリスははハムを食べながら、あっけらかんとしていた。


「いえ? だって、別に僕は何もされてないですから」

「でも、父親が殺されたんだよ?」

「そうですね。ただ、僕たちはそういった感情がないんですよ。これを話したのも、生物学的な意味でお伝えしようと思っただけです」

「……ほんとう?」

「はい」


 とはいえ、確かに魔族は仲間という認識が薄かったのは知っている。

 人質は意味をなさないし、平気で同胞を見殺しにするのを見てきた。


「父親といっても、会ったのは数回程度ですし、人間と違って赤ん坊から育てられたわけではありませんから」


 魔族は産み落とされたあと、教育係と呼ばれる魔族が、世界の常識を教えるらしい。


 ただこれは簡単だ。人間を、殺せと。


 その中でマリスは異質な存在だったらしい。

 疑問を抱き、なぜ殺したほうがいいのかもわからなかったという。


 例えが適切かどうかわからないが、人間の中にも悪党はいるし、殺人衝動に駆られるものもいる。

 そう考えると、逆は何もおかしい事じゃないかもしれない。


「次は僕もいいですか?」

「ああ、ごめんね。何でも大丈夫だよ」

「エリンは、魔王を倒せなくて悔しかったのですか?」


 その言葉に、ドキッとした。

 私が七番目だということは、マリスに話した。

 というか、そもそも知っていた。


 まあ、敵側なんだからそれくらいは当然だろう。


「僕は人間を殺せなくて悔しいとは思いませんでした。でも、エリンはどうかなって」

「……どうだろう。マリスの手前言いづらいんだけど、確かに喪失感というか、なんだか心に穴がぽっかり空いてるよ。でもそれは、魔王を倒したかったわけじゃなくて、これからの人生をどう生きるかわからなかったからかな。なんか、ごめんね」

「いえ! 目標か、考えたことなかったです」


 もしこの手で魔王を倒していたら、私は王都に残って仕事をしながら日々忙しくしていただろう。

 それこそ、この二度目の旅はなかった可能性が高い。


 つまり私は、魔導書を集めるのは建前で、実は何か達成感が欲しいのだろう。


 魔族と人間が分かり合えるのか、それも気になるが、本当の気持ちはそうかもしれない。


 仲間と話していると、こうやって心の底の自分に気づく。

 

 とはいえ不謹慎がすぎる。マリスの親を殺せなかった、だから、どうしたらいいか困っているのだ。

 しかしマリスは本当に気にしていないらしい。


「ありがとうございます。僕は人間のことは仲間から知りました。仲間想いで、愛情があって、不利益なことをする。正直、僕は頭ではわかっていても感情では理解していません。お礼をいったり、謝ったり、それはすべて魔族のしたたかな部分だと思っています。だから、エリン気を悪くしたらごめんなさい」

 

 その言葉に、私は思わず笑った。

 魔王を殺したかった私と、人間を理解したいと宣言するマリス。


 もしかしたら私たちは紙一重だったのかもしれない。


 人と魔族、実はそんなに変わらないのかも。


 これを思うのは、七番目として失格だろうか。


 いや、いいか。

 私は、好きに生きるのだ。


「すいません、ビアーの中樽ください! ――マリス、今日はいっぱい飲もう。そして、語り合おう。きっと私たちは、いや、私たちにしかできない会話がある。もしかしたら、今まだ残っている魔族とも無益な殺し合いがなくなるかもしれないしね」

「はい! エリン、よろしくお願いします!」

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