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1話…改心。

美桜「神々の御心に恐み恐み申す……」


「へっ!俺ぁそんな呪文なんかじゃ、改心しないぜ!」


私は今、仕事を遂行している。

この世界に蔓延る、生来の嘘吐き…【詐欺師】の心を改心させるべく、祝詞を唱える。


美桜「彼の者の心に邪悪なものあり。神々よ、我の願いを聞き届け、彼の者の心よりそれを取り除け……」


「うぐっ…!?」


威勢良くしていた相手も、だんだんと弱っていく。

それもそうだろう。私の力は、これまでの巫女達の中でも、3本の指に入る程の実力なのだから。


美桜「全ては神々の御心のままに!」


「ぐぁああああ!」


頭を抑えながら悲鳴を上げた男。そのまま白目を向き、倒れこんでしまった。


「ど、どうなっているんだ…?」


「ねぇ!私達の息子は、どうなったんですか!」


藍羅「大丈夫です。気を失っただけですから。

これで目が覚めた頃には、普通の人間と同じになれています。」


「そうか…それなら、いいのだが…」


今日の仕事は、裕福な家庭に産まれてしまった【詐欺師】の改心。

何でも、昔から小さな嘘を繰り返していたらしい。

まあ、子供のことだからと、両親も見過ごしていたようだ。

だが、だんだんとその嘘が大きくなり、終いには犯罪にまで手を出そうとしていた。それに両親がいち早く気づき、ネットで調べたところ、その生来の嘘吐き、【詐欺師】というものじゃないかと判断。

こうして、それを祓える私達の元に来たというわけだ。


藍羅「何せ、我が娘はこれまでの巫女達の中でも、3本の指に入る程の実力者ですからね。これで祓えないということはないでしょう。」


「ところで、どうしてこの世には、そんな存在がいるのですか?」


男の母親は、私の父にそう尋ねる。

私の父は、説明もする為に、儀式の場から全員を連れ出し、客室にて茶を出し説明をした。


藍羅「色んな説はありますがねぇ。何でも、神々がこの世界を創り、人間を創った時に、悪魔が紛れ込んでしまったようで。その悪魔が、【詐欺師】と呼ばれる人種を創ったのだとか。

人々はそれに困り果て、我々の祖先である者達に、助けを求めた。そんな我々の祖先は、その過去神々と話せたらしく、その【詐欺師】達を何とかする術を授けてくださいと、お願いしたんだそうですよ。」


「はぁ…。何だか、信じ難い話ですねぇ…。」


藍羅「はは、そうでしょうとも。普通の生活を送っている人間達からすれば、神だとか悪魔だとかなんて話も、妄想話と思われて仕方がありません。

ですが、この世界には本当にいるんですよ。神や悪魔という存在がね。」


「それで、その…息子は、どうなるのでしょう…」


美桜「これで改心は出来た。なら、普通の社会人として生きていける。もう嘘も吐かないだろう。…いや、普通の人間程度の嘘は吐くだろうけど。

でも、犯罪に手を出すなんて馬鹿げたことも、やめると思う。」


「よかった…」


見るからに安心している両親。この男は、これだけ両親に愛されていたというのに、【詐欺師】なんかだったから、危うく両親を悲しませるところだった。

そう考えると、両親が聡明で良かった。半信半疑ではあっただろうが、私達の元に来てくれたからこそ、被害者も出さずに済んだのだ。


「んっ…」


「!宗弥!」


「あれ、俺…」


「よかった、目が覚めたのね…」


「うん…。でも、俺…なんで、こんなとこに…?」


「まあ、色々あってな…」


美桜「青島 宗弥。」


「な、なんだ?」


美桜「これを持ち歩くといい。また過去の自分に戻りそうな時に、今のお前を守ってくれる。

もう過去のような、両親を悲しませる子にならずに済む。」


そう私は、お守りを手渡した。


「……よ、よくわかんねぇけど、サンキュ。」


【詐欺師】の心を改心させた場合、ある程度の過去は覚えているが、祓う前後のことを覚えている者は、少ない。それ程、強制的に心を変えさせるのだ。荒業であることであることに間違いない。

だが、今はこれしか方法がないのだ。代々受け継がれてきた方法で、神々もこの方法しか与えてくれなかった。

もしかしたら、神々からしても、【詐欺師】の心を改心させるのは、困難なことだったのかもしれない。

まあ、そんなの私の知ったことではないが。


それから、その家族は寄付を置いていき、去っていった。

本来ならば無償で行うのだが、その家族はかなりの金持ちで、父親は有名会社の経営者らしく、自分のメンツが潰されずに済んだのもあり、寄付金を受け取ってくれとせがまれ、渋々父は受け取った。


藍羅「疲れてないか?美桜。」


美桜「大丈夫、これくらい。」


藍羅「そうか。

この調子で、【詐欺師】達の心を改心させていくんだぞ。」


美桜「…わかってる。」


それが、私の使命なんだと、幼い頃から父は私を教育していた。

だから私には、友達といえる人が少ない。いや、少ないどころではない。友達といえる人間は、1人しかいないのだから。

皆、私のことを気味悪がっている。それに加え、私には愛想というものがない。いつもぶっきらぼうで、思ったことをすぐ口にしてしまう性格のせいで、いつも相手を怒らせてばかりいる。


思ったことを口にしても怒らないのは、父と、その唯一の友達くらいだ。


藍羅「よし、今日は温泉へ行くか。」


美桜「なんで?べつに疲れてなんかないのに。」


藍羅「臨時給金が入ったんだ。たまにはいいだろ?

それに、美桜の顔には疲労が見える。」


美桜「………」


藍羅「たまには、私にも甘えなさい。」


私の家は、代々女が当主となってきた。何故なら、その改心させる力を持つのは、巫女…つまり、女だけだったから。

だが私の父は、普通の家庭で産まれたにも関わらず、少しだけその改心させる力をもって産まれた。

故に、私の母とは政略結婚に近かったらしい。それでも父は、母のことを愛していたようだが。


そんな母は、私を産んですぐ、亡くなってしまった。

祖父も祖母も、早くに亡くなってしまい、私はまだ幼い故に当主になるわけにもいかず。仕方なく私が成人するまでの間、父が当主の座にいるということだ。


勿論、私達には親戚もいる。その親戚の中の女で、改心させる力を持つ者もいる。

だが、私の祖母が亡くなる前に、次期当主は絶対に私であることを遺言とし、亡くなったのだ。

祖母も私同様、かなり力が強い方だったので、その遺言は絶対に守らねばならず。親戚の女共が当主の座に就くことはなかった。


私としては厄介だ。私は、普通に生きたかった。こんな仕事、放りだして自由に生きたい。

周りの同年代の子達は、学校が終われば放課後、部活動に励み、休みの日には自由に友達と遊んで仲良くしている。

なのに私はといえば、学校が終わった日も休みの日も、修行と神々に祈りを捧げる日々。

少しでも神々に祈りを捧げなければ、この家の力は失われるだとか言われて。

そんなもんなくなっちまえとも思ったりするが、【詐欺師】達を野放しにしておくことも出来ず。

そんなことをしてしまえば、この世が狂っていくのは目に見えている。それは何としてでも食い止めなければ。

だが、だからといって私が自己犠牲をしなければならない理由にならない。なってたまるか。


まあ…そんなこと、口が裂けても言えないが。


そんなことを言ってしまえば、男手1つで私をここまで育ててくれた父を、裏切るようなものだ。

父のことが好きというわけではないが、ここまで育ててきてもらった恩はある。だから、流石にそれは言わない。


藍羅「美桜、行くぞー。」


美桜「…はいはい。せいぜい茹蛸にならないようにね。

父さん、ただでさえ肌白くて、熱いのに弱いんだから。」


そんな憎まれ口を叩きながら、父の運転する車に乗り込み、温泉へと向かった。

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