思い込み激しすぎじゃありませんか!?
「ジェシア゠カールスト!貴様はアンナを虐げた挙句、殺害しようとしたなっ!貴様のような暴虐を尽くす女を婚約していた自分が恥ずかしい!!よって貴様とは婚約破棄だ!!」
・・・・・・・・・・・何言ってんだこいつ??
ぱちくりと目を丸くする私の前にはこちらを殺しそうな目で見てくるエルドラ゠ケフィンド公爵令息と目に涙をためてビクビクとこちらを怯えたような目で見てくるアンナ゠ジュエル子爵令嬢がいた。
学園の卒業パーティ会場内がざわざわと騒ぎ出す。
注目されている二人と私こと、ジェシア゠カールスト。伯爵令嬢である自分だがなぜこうなっているのか理解が出来ない。
頭の中で疑問符が沢山湧き出る私を置いて、ケフィンド公爵令息は私のことをそれはまあ罵る罵る。
「おいっ!!何か言ったらどうだ!!」
「あら、よろしいのですか?」
こちらが黙り込んでいるのが気に入らなかったのか怒鳴って指をさして来る。指を人にさすなって教えてもらってないの?
おっと、危ない危ない。今はおすましモードだった。
おすまししてないと後で怒られてしまう。
「では……、いつ私が貴方と婚約をしたのですか?」
……………。
一時の静寂が広がる。
ぽかーんと口を開いてこちらを茫然と見てくる二人。
面白いなと思いつつ、続けて話し出す。
「書面はありますか?私は見たことがありません。それに、お出かけもお茶会に誘われたこともないのに婚約者だとよく言えますね?」
私の話にざわざわとまた周囲が話し出す。
聞いたことがない、見たことが無いという声がまあ出てくる出てくる。
予想していた反応とは違っておどおどし出す二人。
あの様子を見るに私が罪を認めて、婚約破棄をするとでも思っていたようだ。
いや、そもそも婚約なんてしてないし婚約破棄なんてあり得ないのだから。
確かに子供の時にケフィンド公爵令息との婚約話はあちらから出てきたがすぐに潰れたけど……………。
もしかして、ケフィンド家当主が婚約話を潰された腹いせに息子にあることないことを吹き込んだのか?
いやいや、流石に子どもの頃からあったことのない婚約者に対しておかしいと思うでしょう。
「だ、だが、父上からは聞いていたぞ!!貴様は体が脆弱だから会いに来ないと!!」
信じたんかーい。ええ、どうしようもないな。お馬鹿としか言えない。
親に言われた通りに信じていたとか。
自分で確かめるとかしなかったの?私はそんなことを言われたら絶対に自分で調べたり確認したりするけど。
これが家庭環境の違いか。
さて、この状況をどうやって収めよう。
まだ、国王陛下たちが来ていないってことはあの人も来てな……………。
「随分と私の姫を罵ってくれるな」
あ、あの二人終わったわ。
まだざわついていた周囲が静まり返る中、コツコツと革靴の音が広場に響き渡る。
恐る恐る後ろを見るとそこには言葉を失う程の美が立っていた。
艶やかな黒髪は短く、海のように輝く蒼い瞳。
色白の肌に端正な顔をし、長身で体格の良い男性。
見るからに上質な礼服を纏っているが、それさえも彼を際立たしている。
周囲の淑女たちは皆、顔を赤らめてじっと熱い視線を彼に注いでいるのにそれを見向きもしない。
「じぇ、ジェラルド公爵っ!?」
「すまないな、シア。助けに入るのが遅れてしまった」
ケフィンド公爵令息からの声掛けにも答えずに私のことをぎゅと抱きしめてきた。
きゃあと淑女たちの悲鳴が上がる。
「な、な、なっ!!?公の場で男女が抱擁するとは破廉恥だぞっ!!しかも、その女は俺の婚約者だっ!!」
いや、あんたが言うんかい。
今も隣の令嬢を抱きしめているのに破廉恥って。
内心で呆れつつ見ている中でその隣の令嬢が周囲の令嬢と同じく顔を赤らめて、私ではなく隣の彼をじっと見つめている。
……………嫌な予感がするのだけれど?
そんなこと考えている私をよそにプルプルと怒りで震えている彼に対して彼は冷たい視線を送る。
「誰が貴様の婚約者だと?勘違いにもほどがあるだろう。シアは私の婚約者だ」
そうはっきりと言う彼はアーサー゠ジェラルド公爵。
この国でも五本の指に入る公爵家の後継者だ。
抱きしめていた腕をほどいた彼は私を守るように腰を抱いて自身に引き寄せた。
その光景を見た令息はやっと事の重大さに気づいたのかさぁと顔を青ざめる。
「それで?」
「……………へ?」
「貴様の勘違いだったのだろう?シアに謝罪の一つも無いのか?」
そう。例え、伯爵令嬢であってもこのような公の場で自身の勘違いで侮辱したのだ。
ましてや、公爵家の婚約者である。
けれども。
「か、勘違いさせた方が悪いだろう!?」
「……………何、訳の分からないことを」
「そもそもっ!貴様の婚約者だというのもおかしいではないか!」
その一言で私はあ、本当に終わったなと確信してしまった。
「………ほお、私にそう言うか。よく分かった」
すぅと目を細めて令息を見詰めるのだが、とても冷たくてびくっと震える令息をよそにジュエル嬢がこちらに寄ってきて、あろうことか彼にすり寄ってきた。
「アーサー様ぁ、私はジェシア様にいじめられているんですぅ」
まさかの私を悪者にして彼にすり寄ろうとしているのか!?
ぎょっとおすましモードから外れてしまった私をよそに彼は彼女にも容赦なく言い放つ。
「アンナ゠ジュエル。貴様には国家反逆罪の容疑が掛かっている」
「……………へ?」
彼の一言でまたざわざわと周囲が騒ぎ出す。
そういえば、この頃の彼は何かを調べていたけど子爵家のことを調べていたのか。
納得する私をよそに彼の背後からは騎士が何人か出てきた。
さぁと青ざめる彼女がそろそろと彼から離れる。
その様子だと何か思い当たることがあるようだ。
「子爵が禁止薬物を輸入し、さらには王太子を暗殺未遂。ここまで言えば分かるだろ?」
「あ、えっとぉ」
「お、おい!それはどういうことだ!」
「貴様は黙っていろ。アンナ゠ジュエルは王太子の暗殺未遂に関与しているからな」
「………………へ?」
またぽかーんと口を開いたまま固まる彼を無視し、騎士たちに指示し彼女を捕らえる。
ぎゃあぎゃあと何か騒いでいるが、騎士たちは物ともせずに颯爽と彼女を会場から退場させた。
あまりにも俊敏な動きに周囲も目が点になりながらその様子を見届けた。
そして、彼女がいなくなった令息はそろそろとどこかに行こうと動いていたが、それを見逃すほど彼は甘くはない。
「貴様にも色々と聞きたいことがある」
「お、俺には何もないぞ!?」
「シアへの暴言は侮辱罪。そして、横領。ああ、公爵家で禁止している人身売買もしているな」
「~~~~~~~~~っ!!」
うわぁ、彼女も彼女だけど彼も彼でやばいなぁ。
再び、騎士たちが招喚されてずるずると彼を引きずっていくのを見ながらそんなことを内心で思っていた。そして、アーサーを見ているとやっと場が静かになったのか彼は蕩けた様な目を見つめてきた。
「シア。疲れただろう、今日はもう帰ろうか」
「はい……」
あ、でも何だか怒っているようにも見える。
長年、婚約者として傍にいたからよく分かる。逃げたい。
しかし、そんな私の内心でさえも彼には筒抜けのようで、逃げれないようにまたぎゅっと抱きしめてきて耳元にそっと声を掛けてくる。
「おすましを外したね。それに私が来てから入場しようと言っていたよね?約束をかなり破っているよ。シア?」
あ……………、卒業パーティだから浮かれていて彼との約束を忘れてた。
今度は私がさぁと青ざめる中でもそんな私も可愛いと囁いてくるアーサーはなんと私のことを幼少期に出会った時に一目惚れして、あれよあれよ婚約者になったのだ。
我が伯爵家は元々、事業は上手く行っていたのもあったが公爵家とも共同事業もあって婚約者が確定してしまった。
まあ、私もアーサーが好きになったしいいんだけど……………、本当にどうやって逃げよう。
「シア?」
「……………ひゃい」
にっこりと絶対人前では見せない満面の笑みに私はたじろいでしまう。
がっちりと捕まえられているせいで逃げれない。
だ、誰かたすけてくれませんかぁぁぁあああああ!!!