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第6話:血統の果て


 *****




 魔導の洞穴と呼ばれる場所がある。

 大陸における魔術の総本山とされている場所だが、元々は違った。

 人を人と思わぬ、狂人たちのおぞましき営みの場だったのだ。


 生まれながらに高い魔力を持つ魔術師の一家がいた。

 魔術師たちは洞穴に居を作り、

 研究と修練によって自分たちの魔術をひたすらに高めた。

 そして高めたその魔力を、子に受け継がせる事にした。


 三人の息子たちに魔力の高い女を抱かせ、

 更にその子供たちが魔術を高め、同じように子を作る。

 外部から血を取りこむ事は少なく、近親による交配が主となっていく。

 魔力が低かった子は七歳までに容赦なく命を奪われた。

 死の選別を乗り越え、魔術に人生を捧げ、その先に待つものは血の営み。


 それが数世代繰り返された後、

 当時の国王によって凄まじい魔力を持つ魔術師たちは見出され、

 狂人たちの洞穴は"魔導の洞穴"と名付けられ、魔術師たちの集う場と変わった。

 表向きには。


 高い魔力により必然的に長のような役割をする事となった一族だが、

 おぞましい血の営みは変わらず続いた。

 世俗に一切の関心を示さず、ただひたすらに魔術の果てを求める彼らを、

 洞穴に集った魔術師たちは理想像だと絶賛した。

 裏で行われ続ける忌まわしき行為の事など知らぬまま。


 いつまで続くのか。人間の魔力の限界とはどのくらいなのか。

 限界に至った時どうしたらいいのか。

 目印が何もない砂漠を歩き続けているのと同じだ。

 真っ直ぐ進んでいるのかすら分からない。

 それでも、他の事を知らない一族は、ひたすらに魔力を高め続けた。




 男は読んでいた書物を壁に投げつける。

 一般の魔術師がこの扱いを見たら気を失うほどの貴重な魔導書だが、

 男にとっては汚物にも等しい。

 狂った一族が死者の血を使って書いたも同然な書物など。


 男は音を出さないよう静かに、ベッドで眠る幼子に近づく。

 今年で三歳。生まれながらに絶大な魔力を持つ、狂人たちの妄執の集大成。

 無垢な寝顔を見せる幼子は、男の孫娘だった。


 物心ついてからずっと魔力を高めるための研究と修練。それ自体はいい。

 魔術を扱い、高めていく事は好んでいた。

 しかし、ある日からそれは一変する。

 毎日毎日、代わる代わる違う女を抱かされる日々。

 好色な男なら羨ましがるかもしれないが、

 そんな奴はきっと五日で悲鳴を上げて泣き出すだろう。

 拷問と称する事すら生温い。

 こちらの都合などお構いなし、愛などない。子を量産するためだけの行為。

 女たちは感情のない目をして、お互いに相手を一切見ず終わる。

 自由などなく、食事の献立すら子を作るためだけに管理される。

 男としての尊厳も、人としての尊厳も全て砕き尽くされた。正に家畜の扱いだ。

 自分が高め続けた魔力は、次代をより高めるためでしかなかった。


 ベッドに腰かけ、孫娘の頭をそっと撫でる。

 家畜のように生まれた子だが

 だからこそ誰の子か分かるように書類で管理されている。

 男の種で生まれた異母兄妹が両親。

 母親はこの子を産んだ時に死に、父親は病で若すぎる人生を終えた。

 近親婚が続いたためか一族は早死する者が多い。

 男は三十を過ぎているが、この年まで生きられなかった兄弟は少なからずいる。


 この子もそうなる。そうやって育てるように言われている。

 ただ魔力を高め、家畜のように子を産み、次代に繋げるだけの存在に。

 絶大な魔力を持つ、一族の集大成と称された子。

 集大成の更に先、その更に先となれば、終わりはどこだ。


 男は孫娘の頬を撫で続ける。眠りながら、小さな手が男の手を掴んだ。

 そして微かな声で一言、おじいちゃん、と寝言を呟いた。

 この子にはもう父も母もいない。血縁者は祖父一人だけ。


 起こさないようにそっと手を離し、

 先ほど壁に投げつけた魔導書に手をかざす男。

 男が息を吐くと魔導書が烈風に包まれ、微塵に裂かれる。単音節の高位魔術。


「ふざけるな」


 地の底から響くような声。それに込められた凄まじいまでの憤怒。

 自分から尊厳を奪い、子供たちの命を奪い、孫娘の人生さえも奪おうとする。

 その犠牲を払って行われるのが、永遠に終わりへとたどり着かない

 無意味な営みだと知った時、男は決意した。


 せめてこの子だけは。忌まわしい血など関係なく、ただ幸せであるように。

 終わりを作るのだ。

 我らは人間の到達できる限界点に達したのだと高らかに宣言しよう。

 真実かどうかなど知った事ではない。皆が信じたなら、それは本当の事になる。


 男は孫娘を見つめる。

 彼女が集大成だと称されるなら言葉通りに信じさせてやる。

 彼女を生み出すために一族は在った。我らの使命は終わったのだと。

 全ては穏やかに眠る孫娘のために。


「お前が人として幸せに生きられるように、何もかもを終わらせよう。

 我が愛しき孫娘、クアーリャ」




 *****




 光芒大聖堂を出発して二十一日。

 魔導の洞穴の象徴とも言える巨大な塔が、ようやく見えてきた。


「洞穴って言ってなかった?」


 率直な疑問をもらすパッセル。

 確かに、魔導の塔と呼称した方がよさそうな見た目だとは思う。


「元々は洞穴だけだったんだが、人が増えて邪魔だから塔が作られたそうだ」

「邪魔だから……?」


 中に小さな宿場なら入りそうな大きさの、

 七階はある塔を見て首を傾げるパッセル。

 シュエットが何を言っているのかさっぱり分からないという感じだ。

 この話を聞かされた時、シュエットもきっと同じ顔をしていたのだろう。


 塔に向かって馬を走らせると、人が集まっている所に出くわした。

 彼らは全員が魔術師の外套を羽織っており、

 魔導の洞穴で魔術を研究している者たちだろうと推測できる。

 塔でもなく、洞穴でもなく、

 このような野外に彼ら魔術師がいる事など稀のはずだが。

 馬から降りて魔術師たちの一団に近づき、話しかける。


「すまないが、魔導の洞穴の魔術師たちだな?

 俺はウルラ商会長シュエット。何があった?」

「商会長? 洞穴の長があっちの方にいるから、長から聞いてくれ。

 くそったれども、こんな寒い時期に野宿なんてさせやがって!」


 明らかに苛立っている魔術師に言われた通り、長の所へと向かう。

 途中に馬を繋いておき、通りかかった気弱そうな魔術師を捕まえ、

 金を渡して見てもらっておく事にした。

 長は動物があまり好きではないので、馬を連れて会う訳にはいかない。


 騒がしく何かを話している魔術師たちを横目に、長を見つけた。

 少女と二人で何事か話している長。長の方ではなく、少女の方に目が行った。

 短めに揃えられた赤褐色の髪、そして困っている時に頬を触る癖。

 何もかも記憶のままだ。

 長と少女がシュエットたちに気が付く。

 少女は満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。


「シュエット!」

「久しぶりだな、クアーリャ。一年半ぶりか」


 少女の名はクアーリャ。

 勇者と共に旅する天才魔術師であり、かつて共に旅した仲間だ。

 別れた時より身長も伸びており、どことなく雰囲気も大人びて見える。

 男子三日会わざれば刮目して見よというが、

 一年半会っていない少女ならばそれ以上なのは当然かと実感した。


 懐かしさに浸っていると、袖が引かれる。

 パッセルが、この少女は誰なのかと聞きたいらしい。

 クアーリャは怪訝な表情になり、シュエットとパッセルを交互に見る。

 お互いに初対面だという事をすっかり忘れていた。


「パッセル、彼女はクアーリャ。勇者と共に旅をする天才魔術師で、俺の友人だ」

「その天才っての止めてよ、恥ずかしい……。

 えっと、パッセルちゃん? わたしはクアーリャ。よろしくね」

「よろしくお願いします」


 気さくに手を差し出すクアーリャ。パッセルはその手を取り、軽く握手する。

 領主や大司教と会った時と違い緊張がないのは、

 相手が同い年くらいの少女だからだろう。

 握手の後、クアーリャはシュエットをじっと見てくる。

 パッセルの事について詳しく説明しなさい、という合図だ。

 とはいえ詳しく説明するまでもない。一言で足りる。


「この子が切り札だ」


 一言で全てを理解し、クアーリャの表情は辛そうなものへと変わる。

 そして、ゆっくりとパッセルに近づき、そっと抱きしめた。


「ごめんね。わたしたちの力が足りないばかりに、あなたに酷な事を強いる。

 許してなんてとても言えないけど、ごめんね……」


 うつむき身を震わせるクアーリャの背を、ぽんぽんと叩くパッセル。


「別にあなたたちの所為じゃない、気にしないで。

 できる限りを尽くしたのは知ってる。シュエットを見てきたから」


 勇者一行として邪神をまだ倒せていない事を謝っていると判断したのだろう。

 もちろんそれもある。だが、もう一つあるのだ。

 パッセルにどれだけ謝っても足りない酷な仕打ちが。

 クアーリャの肩に手を置くと、震えはゆっくりと治まっていった。


「今はそれよりも、魔術師たちがこんな所で集まっている理由を聞きたい。

 洞穴か塔で何かあったのか?」

「それは僕から話そう、シュエット君」


 先程までクアーリャと話していた壮年の男が声を掛けてくる。

 話が一段落するまで待っていてくれたようだ。


「カヴァッロ師、お久しぶりです。挨拶が遅れてすみません」

「クアーリャは一年半ぶりの再会をずっと楽しみにしていたんだ。

 僕への挨拶など遅れても構わないさ」


 魔導の洞穴の長にのみ着用が許された濃赤の法衣に身を包み、

 魔術師としての風格と威厳に満ちた壮年の男。

 彼こそが大陸の魔術師たちの頂点に立つ者、カヴァッロ。


「クアーリャさんと似てる」

「わたしのお爺ちゃんだからね。ほら、髪と目の色も同じでしょ?」


 クアーリャは自分の髪をつまんで言う。

 二人はとてもよく似ており、血縁者だという事を疑う者はまずいないだろう。


「おじいちゃん? お父さんじゃないの?」

「ははは、これでも結構若作りしているんだよ」


 わざとらしく腰を曲げて咳き込むふりをするカヴァッロ。

 一見すれば微笑ましいお爺ちゃんのように感じるが、

 内実を聞かされているシュエットは渋い顔をするしかない。

 カヴァッロは今年で四十五歳。

 単純に若いだけなのだが、理由を知れば笑顔など浮かべられない。


「この場所に僕たちがいる理由は、塔と洞穴を占拠されたからなんだ。

 洞穴の魔術師の一部が僕に反旗を翻して、無理矢理追い出されてしまった」


 首をすくめるカヴァッロ。

 子供の悪戯でも話しているかのようだが、内容には頭を抱えたくなる。

 今まで散々自作自演をやってきたが、今回は完全に予定外のいざこざだ。

 とにかく現在の状況と情報が欲しい。現状を把握しなければ行動しようがない。


「カヴァッロ師、いくつか聞きたいのですが」

「何でも聞いてくれ。君の協力も必要だからね」


 カヴァッロの話は分かりやすく簡潔で、情報の整理は簡単だった。


 魔導の洞穴では洞穴と塔にそれぞれの長がいて、カヴァッロは洞穴の長。

 洞穴の魔術師は研究者や求道者に近く、塔の魔術師は俗世に関わる者が多い。


 洞穴は単に魔道具で封鎖されているだけだが、

 塔には長を含め数十人が捕まっている。

 助けに行きたいが、魔術師のカヴァッロやクアーリャだけでは難しい。

 転移魔術の座標が洞穴の中にあるので、

 勇者を連れてくる訳にもいかず困っていた。

 そこで、近々ここに来るシュエットを待っていたという事らしい。


「人質か。クアーリャに塔ごと吹き飛ばされるのを恐れたか」

「わたしを何だと思ってるんだろ、みんなの家を吹っ飛ばす訳ないじゃない」


 頬を膨らませて塔を睨むクアーリャ。

 困った顔でシュエットを見るパッセル。

 冗談だよね、と言いたいのがよく分かる。

 そんなパッセルに黙って首を振る。生憎と冗談など一切言っていない。

 クアーリャがやろうと思えば、

 あのくらいの建造物など跡形もなく消し飛ばせる。

 常人と勇者たちの間には、それほど隔絶した差があるのだ。


「連中の目的は?」

「僕とクアーリャの身柄と、洞穴の全権譲渡だ」


 ただ権力を欲したにしては、身柄をわざわざ要求するのはおかしな話だ。

 そもそも塔を占拠したのは洞穴の魔術師で、

 彼らは権力に見向きもせず魔術だけに執心するはずだが。

 とりあえずこの情報は一度置いておく。


「師とクアーリャだけで対処できない理由は?」

「塔の仕組みでね、塔の一階と二階、三階では魔術が使えないんだ。

 僕たちは魔術が使えなければただの人だからね。

 荒事に慣れている傭兵相手ではどうしようもない」


 正確には塔の壁に埋め込まれた魔道具が

 魔術の効果を消失させてしまうらしい。

 いかなる攻撃魔術でも中では発動さえできず、

 外からの魔術も塔に届く前に消える絶対の防御。

 そのためか傭兵たちは塔から一切出てこない。完全に籠城の構え。

 外に顔を出したが最後、魔術師たちの一斉射撃に晒されると知っていて

 出てくる馬鹿はいないだろうが。


「人質の状況は?」

「分からない。党の占拠から今日で三日目だが、生きてはいると思う。

 酷な事を言わせてもらうが、僕は彼らの命を最優先にはしない。

 できれば生きていて欲しいが、殺されても仕方がないと諦めるよ。

 これから君が持たなければならない非情さだ」


 カヴァッロのぞっとする目がシュエットを射抜く。

 上に立つ者が持たねばならない非情さ。死者をただの数として処理する冷徹さ。

 それこそが死線で数百人を率いるシュエットに必要な物だと教えるように。


 ユウジには絶対にさせる訳にはいかない。あの優しい勇者には。

 その役目はシュエットががやるしかないのだ。


「塔を取り戻す作戦は?」

「強行突破以外に思いつかないね。

 ここにいる僕たち四人で塔に突っ込んで、全員倒す」

「魔術師の人って、もっと頭いいと思ってた」


 頭脳職から出てきた豪快な方法に、口を滑らせてしまうパッセル。

 すぐに口を押さえて気まずそうに二人の魔術師を見るが、二人ともが笑った。


「魔術師なんて大体馬鹿だよ。魔術以外の事を学んでいる暇はないから。

 "自分は賢いと思っている魔術師はまだ人間に戻れる"。魔導の洞穴の格言だ」

「人間じゃなくなっちゃうみたい」


 パッセルの言葉を聞いたカヴァッロは少し離れ、一言何かを呟く。

 すると、その手に風の渦が現れた。

 それなりに離れているというのに周囲の空気が乱れ狂い、身が裂かれそうだ。

 風の渦に触れれば、間違いなく微塵に引き裂かれる。


 魔術は先天性の素質に加え、構築された術式と知識を持って操るという。

 術式を起動させるための言語と腕の動きをもって、魔術は起動する。

 たった一言で風の渦を喚ぶカヴァッロの凄まじさを改めて実感した。


「こんな事ができる人間は、人間とは言わない。

 守護と癒しに特化した奇跡とは違う。

 魔術は初歩の術でも簡単に人を傷つけ殺せる。

 君の言う通りなんだよ、パッセルちゃん。魔術師は人間の皮を被った怪物だ」

「そして、あいつらは自分が怪物である事を忘れたの」


 カヴァッロの言葉を引き継ぎ、クアーリャは塔の最上階を睨みつける。

 そこに居るであろう、自分を人間だと思い込んでいる怪物への怒りをのせて。


 これで今聞くべき事は全て聞いただろう。

 他の事は塔を取り戻してから話せばいいだけだ。


「カヴァッロ師、ここからは無礼な物言いになりますが許してください。

 俺とパッセルが四階までの道を開く。

 二人は俺の指示に従ってもらっても構わないか?」

「もちろん構わないよ。

 戦場で丁寧な言葉など使っている暇がないのも知っている。

 元はといえば僕の不手際の尻拭いだからね」


 カヴァッロと頷き合う。

 指揮権を預けてもらったが、先ほどの目を思い出して寒気を感じた。

 しかし、それでもやらなければいけない。

 今ここで戦場での指揮ができる者はシュエットしかいないのだから。


「人質の事もあるし、あまり時間はかけたくないな。

 腹に何か入れて、疲れを抜いたらすぐに突入しよう」

「分かった、保存食でいいよね。はい、パッセルちゃん」


 すぐに近くの袋から干し肉と水袋を出し、パッセルに手渡すクアーリャ。

 少し離れたシュエットには投げてきたので受け取る。

 クアーリャは勇者一行の中でシュエットにだけ遠慮がない。

 信頼の証だと思う事にしている。

 祖父のカヴァッロにも放り投げて渡しているので、まず間違いないだろう。


「パッセルって呼び捨てでいいよ、クアーリャ」

「まだ返事してないんだけど……。

 とにかくよろしくね、パッセル」


 相手に了承を取る前から呼び捨てているパッセルに対し、

 呆れたような疲れたような表情でうなだれるクアーリャ。

 パッセルは必要だと思えばすぐに実行する。

 戦闘時にいちいち敬称など付けていられないから言ったのだろう。

 年の近い子と仲良くしたかっただけかも知れないが。

 会話をしようにもお互いに話題が浮かばず、

 二人揃ってシュエットに視線で助けを求めてきた時には吹き出してしまった。



 ***



 休憩を済ませ、塔の入口まで進む。

 塔の巨大さとは裏腹に入口は民家の扉のような小ささで、

 二人が横に並んだらぎりぎりだ。

 塔の上から魔術を撃ち下ろしてこないか警戒していたが、

 入口の方向には窓がないので杞憂だった。


「身柄を要求している以上、僕たちを殺すような攻撃はしてこないはずだ。

 傭兵たちはそんな命令を覚えているかどうか分からないけど」


 傭兵といっても実力や人格は様々。

 剣に誇りを託す者と犯罪者が隣り合わせていてもおかしくはない職業だ。


 魔物の襲撃以降、傭兵の質は下がる一方。

 腕のいい者は魔物を相手にすれば金になるので、人を相手にする理由がない。

 傭兵を続けている者の大半は、弱い人間しか相手にできないごろつきばかり。

 そんな連中なので命令違反など日常茶飯事。

 生きたまま確保しなければいけない対象をうっかり殺すくらい平気でやる。


 どうしたものかと扉を睨んでいると手が引かれる。

 手を引っ張ってきたパッセルは、

 声を出さずに手の形と動きで何があるかを伝えてくる。

 待ち伏せされているので、シュエットに扉を開けて欲しいと。


 クアーリャとカヴァッロの方を向き、人差し指を立てて口元に当てる。

 二人とも意図をすぐに理解してくれて、音を出さずに扉から少し離れた。

 扉は外開きなのでシュエットが開く方向に、パッセルが逆に立つ。

 パッセルと頷き合い、扉を一気に開く。


「けあぁぁぁっ!」


 奇妙な甲高い声と同時に突き出される長剣。

 パッセルはそれを紙一重で躱し、

 剣を突き出してきた男の手首を片方ずつ掴み、軸足を払う。

 すぐさま倒れた男の背後に回り、一気に捻じ曲げた。両肩の骨が外れる。

 そして、男の背中を踏みつけて身動きが取れないようにするパッセル。

 鮮やかな制圧にカヴァッロは驚く暇さえなかったようだ。


「質問に答えて」


 背を踏みつけながら屈んで顔を覗き込むパッセル。

 男は恐怖と苦痛で泣きながら何度も頷いている。

 男から聞けた話を整理すると、傭兵は大体二十人で、大半がごろつき未満。

 魔術が使えない場所に陣取り、

 魔術師が来たら痛めつけて連れて来いと命令されていたらしい。

 人質は魔術が使える四階以降に軟禁されており、それ以上教えられていない。

 ごろつき傭兵から得られる情報はこんな物だろう。


「中に入るぞ。俺が前、パッセルは二人の護衛だ」

「わかった。二人ともあたしから離れないでね」


 それぞれの得物を手に取る。一度だけ深く息をして精神を集中させた。


「あの……おれはどうしたらいいんでしょう……?」

「無事に戻ってきたらはめ直してあげる。そうじゃなかったら諦めて」

「ちょ、ちょっと聞いてくれ! 傭兵の中に一人危険な野郎がいる!」


 シュエットたちが生きて帰ってこないと困るので、忠告をしてくれる男。


「あいつはおれたちとは違う。

 魔物を殺せる力があるのに、人間を殺したくて傭兵やってる殺人狂だ。

 両手に鎌を持った奴に気を付けろ!」


 忠告はありがたく受け取り、男に頷く。

 後は進む以外にない。塔へと足を踏み入れた。




 塔の中は少し薄暗く、静まり返っていた。

 一階には入ったすぐに大広間があり、客間や商売などに使う部屋がある。

 二階と三階は魔術師たちの居住区画で、四階から上が魔術の研究施設になる。


 突然パッセルが短剣で腕を浅く皮一枚斬る。傷は瞬きの間に治って消えた。

 それを見て気が付く。シュエットの魔道具も効果が失われていない。


「魔道具の効果は消えないのか」

「永続的に効果がある魔術や魔道具はそのままだよ。

 そうでなければ魔術を消す魔道具の効果まで消えてしまうからね」


 武具の性能が多少落ちても問題のないシュエットはいいが、

 パッセルは超再生があるかないかで戦い方が全く違ってくる。

 だから事前に調べたのだろうが、パッセルはどこか悲しそうな顔をしていた。

 理由に想像はつくが言葉に出す気はないし、幼い少女に言わせる気もない。

 自分はどうやったら死ねるのか、などという悩みを。


「階段は入口の側にあるから、登るだけなら簡単なんだけど……どうしよう?」


 難しい顔をして頭をひねるクアーリャ。

 小さな宿場ほどの大きさがある一階を全て調べていては日が暮れる。

 しかし調べずに上に行って挟み撃ちにされるのは避けたい。どうしたものか。


「二、三人叩きのめして脅かしたら逃げてくれないかな」


 荒っぽいパッセルの意見で思いついた。

 脅かすのではなく、連中を上手く使う方法を。

 武で脅かすのではなく、金で頬を張ってやればいい。




 一階の探索はせず、二階に駆け上がる。

 広間のような場所に傭兵が十人。

 戦闘準備をする時間など与えず、パッセルと共に突っ込んで三人を倒した。

 慌てて武器を抜こうとする傭兵たちに向かって、大声で告げる。


「いくら貰って雇われた!

 今すぐに投降するのならウルラ商会の名の下、倍額でお前たちを雇おう!」


 いざという時に持っていた宝飾品の一部を傭兵たちに前金として放り渡す。

 武器を抜く前に三人が倒され、実力の差は歴然。

 そして連中は傭兵としての誇りも何もないごろつきだ。

 傭兵たちは即座に寝返りを決めた。変わり身の早さに呆れる。


 話を聞いてみると、彼らは無法地帯となった村で集められた連中らしい。

 ただ、口を揃えて言う事があった。あいつだけは危険すぎると。


「二本の鎌を使う奴か?」

「へい、そうです。

 あの狂人には誰も近づきたくないんで、三階にはあいつ一人です。

 あっしらはウルラ商会長は痛めつけ、

 魔術師は捕まえろと命令されていたんですが

 あの野郎は命令なんぞ聞く気はありません。

 同僚のあっしらまでも殺したくて舌なめずりしてる狂人です」


 傭兵は、首謀者について興味深い情報を喋ってくれた。

 ウルラ商会長、つまりシュエットが突入する事が想定されている。

 彼らがシュエットの言葉をすぐ信じたのも

 商会長が来ている事を知っていたからか。

 考えてみればシュエットたちが到着する少し前に

 塔が占拠されたというのもおかしい。

 わざと到着の日を狙ったと考えるのが自然。

 理由は分からないが、気に留めておく必要はあるだろう。


 傭兵たちには一階で待機してもらい、同僚たちにも伝えておくように言った。

 叩きのめされた四人は運が悪かったが、後は待っているだけで金が手に入る。

 わざわざ危険を冒す事もないので素直に従うはずだ。

 もしシュエットたちに何かあっても、

 仕事をしていたふりをしてちゃっかり金を貰うだろうが。


「三階の殺人狂とやらはどうしようか?」

「多分、大した事ないと思うよ」


 カヴァッロに対して答えるパッセル。胸のブローチを軽くなぞって続ける。


「本当に殺したいだけなら素振りなんて見せない。

 本当に狂っているなら人の言う事なんて聞かない。

 そいつの目的はもっと下らないもの」


 暗殺者たちの末妹たる少女は、静かな声に怒りをにじませて吐き捨てた。




 三階に昇ると、乾いた血の臭いがシュエットたちを出迎えた。

 塔を占拠されたのだから、当然抵抗した者もいるはず。

 どうなったかは想像するまでもない。


「ここさえ抜ければ、後はわたしたちが……」


 クアーリャが言い終わる前に抱きとめて位置をずらす。

 一瞬遅れて空を切る短剣。

 斧を構え、後ろ手で合図をしクアーリャとカヴァッロを下がらせる。


「随分と情けない手を使うんだな、四対一では勝ち目がないと見たか」


 シュエットの挑発に乗ってきたのか、物陰から鎌を持った男が姿を見せる。

 もう一つの鎌を腰につけている。

 この男が傭兵たちが話していた者で間違いない。


「盛るなよ、二対一だろ。商会長さんよ」


 二階の声は聞こえていたらしい。

 それでも攻撃してきたのは、金で転ぶ気はないという意思表示か。

 それならそれで話が早い。


 男に向かって一気に駆け、距離を詰める。

 男は腰の鎌も手に取り、二刃を奇妙な型に構えた。

 長柄斧の真ん中あたりを持つ。

 広いとはいえ室内、長柄の武器を十全に振るえる空間はない。

 浅く袈裟斬りを放つが受け流される。鎌の反撃を柄で牽制し、一旦距離を取る。

 男が楽しそうな笑みを浮かべた。

 シュエットをそれなりの獲物だと認識したらしい。


 しかしシュエットはそのまま後ろに下がり、パッセルの隣で構えを解く。


「パッセル、任せる。好きにやってくれ」

「うん」


 シュエットの尻をぺしりと叩き、短剣を抜いて前に出るパッセル。

 幼い少女が代わりに出てきたので、

 男はがっかりするかと思いきや残忍な笑顔を見せた。

 パッセルの読み通りだと感心する。この男は殺す事が目的なのではない。


「こいつは、弱い者を殺すまでいたぶるのが好きなだけの下衆」

「お前みたいに生意気な子供は特にそうだぜ」


 二人が同時に突っ込み、間合いを一気に詰める。

 鎌と短剣なら、共に短いとはいえ鎌の方が間合いは長い。

 パッセルが組み付きを狙っているのは想定内のはず。

 男が前に出る速度を若干落とした瞬間、

 その目前に投げられた短剣が飛んできていた。

 慌てて右の鎌で弾く男。とっさに振るうのは基本的に利き腕。

 その隙をパッセルが逃すはずもない。

 男の予想に倍する速度で接近し、振り切られた右腕手首を左手で掴む。

 勢いのまま男の背に回り、腕を交差するように右手で男の左腕手首を掴む。

 そして男の首後ろで一気に両手を広げる。

 当然、男の腕は逆方向に捻じ曲げられる。

 両肩が砕ける激痛に膝をつく男。即座に男の両足首を踏みつけて砕くパッセル。

 男に組み付いてから一呼吸半。畏怖すら感じる人体破壊術。


 パッセルが腕から手を離すと、男はうつ伏せに倒れてようやく悲鳴を上げた。


「終わった。早く上に行こう」

「て、てめ、てめえ、この、こんなはず……お、覚えてやがれ……」


 短剣を拾いつつ、男の事を完全に無視して言うパッセル。

 男は身をよじりながらパッセルの方を向こうとしているが

 体がまるで動いていない。

 パッセルはそんな男に凍るような視線を向け、言い放つ。


「肩と足は二度と治らないように壊したから」


 冷たい宣告に男の表情が凍り付く。

 男はこれから一生、誰かの力を借りなければ芋虫のように這うしかできない。


 下の階にいる傭兵たちに見つかれば玩具にされるだろう。

 彼らに殺意を向けて怯えさせた分、反動でいたぶられるのは間違いない。

 そして、それ以上に。


「塔の魔術師たちに手荒な事はしていないだろうね?

 魔術師は理性的だと思っているなら間違いだよ。

 この塔になぜ魔術が使えない区画があるか分かるかな?

 僕たちは貪欲で、衝動的で、愚かしく……娯楽に飢えているからだ」


 暗い微笑みを浮かべるカヴァッロ。

 男の言動からして、まず間違いなく塔の魔術師を傷つけているはずだ。

 魔術師たちの私刑がどのようなものか、あまり想像したくはない。


「た、助けて……助けてくれ!」

「命乞いは魔術師のみんなか傭兵連中にしなさいよ。それじゃあね」


 クアーリャの素っ気ない一言を最後に

 男の命乞いを無視して四階への階段に向かう。

 声は段々と悲鳴のような叫びに変わっていったが、

 シュエットたちが足を止めるはずがない。

 弱者をいたぶるのが何よりも好きな下衆が

 最弱の存在になっていたぶられる立場になっただけだ。

 きっと楽しんでくれるだろう。奴は今までそうやって楽しんだのだから。


「パッセルちゃんの言う通り、ただの下衆でしかなかったね。

 殺人狂とは名前負けもいい所だ。本物の狂人はあんな程度の奴じゃない」


 カヴァッロは天井を睨みつける。

 彼が見ているのは塔の上、そこにいる何者かだ。

 本物の狂人を見た事があるかのように語るカヴァッロ。

 シュエットは聞かされている。彼とクアーリャに関係する狂人たちの話を。

 カヴァッロが全面的に協力してくれているのもそれが理由なのだから。



 ***



 ようやく四階に昇る。

 すぐさま魔術の試しとばかりに、

 クアーリャは心地よい風をシュエットとパッセルに送ってくれる。


「やっと魔術が使える。シュエットたちだけ働かせるのは悪いもんね」

「俺たちの出番は終わりそうだけどな」


 笑顔のクアーリャに対して肩をすくめてみせる。

 彼女の魔術が使えるのなら、シュエットたちにできるのは囮か盾くらいだ。


 階段から広間に出た瞬間、氷柱が飛んできて壁に突き刺さった。

 すぐに階段の陰に隠れ、魔術師二人を後ろに下がらせる。

 長柄斧を短く両手で持ち、広場に出てみる。

 飛んでくる氷の塊、石のつぶてに風の刃。

 受け流すのは早々に諦め、即座に階段の陰へと避難した。


「魔術師が十数人、家具か何かで壁を作って撃ってきているな。

 俺とパッセルの二人がかりでも強行突破は難しい」

「人質はいる?」

「一瞬見ただけだ、判別はできなかった」


 飛来する魔術の雨の中、相手が人質かどうかを判断するような余裕はない。

 パッセルならば蜂の巣にされながら見極められるかもしれないが、

 彼女の不死は切り札、おいそれと見せるものではない。


「氷の塊がそこにあるけど、あれはこっちに飛んでこないの?」

「魔術で一度放った物を、もう一回動かすのは無理なの。

 だからあれはもう、ただの氷だね」


 魔道具に込められた魔術ですら例外はない、魔術の奇妙な原理。

 どうなっているのか知りたくはあるが好奇心を押し殺した。

 とにかく情報が欲しい。塔を占拠したのなら理由があるはずだ。


「カヴァッロ師、連中の要求を聞いてみて欲しい」

「やってみよう。

 僕の声は聞こえているな! 洞穴の魔術師たちよ、塔を襲って何が望みだ!」


 今まで終始穏やかな声で話していたカヴァッロの威厳に満ちた大声。

 魔術師たちがざわめく。動揺がここまで聞こえてくる。

 魔術が使えない階層の傭兵たちを退けて、

 カヴァッロがここまで突破してくるとは思っていなかったようだ。


「わ、我々はもう、カヴァッロ師のやり方にはうんざりなのです!」

「僕たちは魔術師だ、発言は具体性を伴えといつも言っているだろうっ!」


 悪い事をした子供を激しく叱りつけるような怒声。

 視界も通っていないのに、魔術師たちが怯むのが分かるほどだ。


「う、ウルラ商会の依頼です!

 魔物との戦いに役立つ魔道具の作成ばかり、

 なぜやらなくてはいけないのですか!?」


 一人が勇気を振り絞って言うと、口々にそうだそうだと野次が飛ぶ。

 確かにウルラ商会からの依頼として、

 戦闘や輸送に役立つ物を作って欲しいと頼んでいた。

 要求した質と量は日数を考えれば

 人の作れる限界値に近いもので、不満も出て当然だった。


「……俺の所為か」

「違うよ。不満は確かにあっただろうけど、それを煽った者がいたのさ。

 身内の恥を次から次へと晒す事になって、長として情けない限りだ」


 つい口から出てしまった呟きを、カヴァッロが力強く否定してくれる。

 その後で、少し大げさに手で顔を覆うカヴァッロ。

 心底からの呆れが行動から伝わってくる。


「お前たちが毎日食事を口にできるのは誰のお陰だ!

 魔術の研究に必要な物が手に入るのはなぜだ!

 ウルラ商会が輸送路を確保し、僕たちに安値で売ってくれるからだ!

 魔物の溢れる今の世界で、それがどれだけの労力か知っているのか!

 魔物によって大陸全土が滅んだら、

 一体誰が食料を持ってきてくれるというんだっ!」


 魔術師と魔道具はどうしても必要だったので、

 採算度外視で魔導の洞穴には援助をしていた。

 他の商人や商会なら数倍の値段を吹っ掛けられていただろう。

 欲に目が眩むからではない。

 僻地にある魔導の洞穴に安定して輸送するには、どうしても金がかかる。


「その上、完成した魔道具は要求の五割に満たない!

 こんな有様でよくも魔道具の作成ばかりなどと言えたなっ!」


 要求数より少ない事は想定していたが

 半分を下回るのは流石に頭を抱えたくなる。

 申し訳なさそうな顔をしているクアーリャの肩をぽんぽんと叩く。

 彼女やカヴァッロの所為ではない。

 魔術師たちが自分を取り巻く状況を全く理解していなかっただけだ。


「し、しかし、その、我々は魔術を研究し高めるために……!」

「それだけをどうしてもやりたいのなら洞穴を出て行け!

 僕たちの始祖がやったように、一から自分の洞穴を作れ!

 洞穴で恩恵を受けていながら責務は拒絶する、そんな妄言が通るかっ!」


 カヴァッロの激怒に押し黙ってしまう魔術師たち。

 だから言ったんだ、こんな事止めておけば……などと、

 情けない悲鳴のような会話がここまで聞こえてくる。

 自分が悪いという趣旨の言葉が一つも聞こえてこない辺り、

 魔術師を馬鹿や愚かしいと称したカヴァッロに同意したくなってしまった。


「挙句が人質を取っての立てこもり! どこまで恥を晒したら気が済むんだっ!」

「わ、我々は人質など!」

「おい、馬鹿野郎!」


 カヴァッロの怒りと度重なる挑発で口を滑らせてしまう魔術師の一人。

 誰かが慌てて止めたようだが遅い。カヴァッロの静かで力強い詠唱が始まる。

 人質がいないのならば容赦など必要ない。


「"粉塵纏いし渦巻く風よ、触れし者全てを留め"……」


 魔術の詠唱が終わる寸前、カヴァッロは広場へと飛び出す。

 シュエットとパッセルも射線を遮らないように共に広場へと出る。

 魔術師たちの魔術が飛んでくる一瞬前に、カヴァッロの魔術が完成する。


「"吹きすさべ"!」


 魔術師たちが作った即席壁の向こうに突如として発生する塵旋風。

 竜巻ほど威力のある物ではないが、

 風と砂塵で魔術師たちは身動きができず、目も開けられない。

 こうなってしまえば魔術師などただの的だ。


「"彼の者らに落ちよ、小さき雷"!」


 クアーリャの魔術で、天井から小さな雷が幾筋も落ちる。

 雷は寸分違わず魔術師たちの脳天を直撃し、彼らは次々と倒れていった。

 体のどこかは焦げているかもしれないが、気絶させる程度に加減した雷だ。

 起きている者がいない事を確認してからカヴァッロが腕を振る。

 塵旋風は最初から存在していなかったかのように一瞬で消え失せた。


「あっという間……」


 ぽかんと口を開けて呟くパッセル。

 十数人をわずかな時間で制圧してしまう二人の魔術に驚くのも無理はない。

 ただ殺してしまうより、殺さないよう魔術を制御して使う方が余程難しい。

 それを平然とやってのける天賦の才を持つのが、目の前にいる二人だ。


「しばらくは起きないと思うけど、一応縛っておいた方がいいと思う」

「手を動かせない程度に縛っておくか」


 クアーリャの提案に従い、

 魔術師たちの服を脱がせて縄代わりにし、後ろ手に縛っていく。

 魔術は発声と手の動きが必要なので、どちらかを封じれば使えなくなる。


「片方だけでも魔術って使えるの?」

「両手だと少し詠唱が早くできるだけで、普通に使えるよ」

「じゃあ、どっちも動かせないように縛るね」


 パッセルの疑問に、ひらひらと両手を動かすクアーリャ。

 片手しか開けていない魔術師は二流という格言もある。

 一文字の差が生死を分かつ事もあるからだ。


「外の魔術師さんたちにも手伝ってもらったらだめ?」


 傭兵は敵対的でなくなり、もう魔術が使えない階は素通りできる。

 パッセルの言う通り、外に連絡して突入してもらった方が効率はいいだろう。

 しかし、カヴァッロは首を振る。


「すまない、パッセルちゃん。この件だけは僕の手で処理したいんだ。

 これを最後にするために」


 パッセルはシュエットの方を見る。それに対して黙ったまま頷いた。

 事情は察した。カヴァッロがそうしたいというならそれに従うまでだ。


「シュエットとおじいさんがそう言うなら」


 パッセルも納得したようで、シュエットの荷物を漁って縄と紐を取り出す。

 それを使って手早く縛っていく。

 荷造りは行商人や旅人の基本、目を閉じていてもできる。

 パッセルと二人で手分けし、ちょうど半分ずつ。ほぼ同時に縛り終えた。

 その様子を見ていたクアーリャが何ともいえない表情で言う。


「一切声掛けしてないのに、その早さでちょうど半分にできるの凄いね」


 指摘されてもただの偶然程度にしか感じないが、

 もしかしたら混じり合っているのかもなと苦笑する。

 パッセルがシュエットを己の一部だと認識するように。

 シュエットという化物も、

 手と混じり合った魔剣をそう思い始めているのかもと。


「ちょっとだけ羨ましいな、わたしはシュエットと全然息が合わないから。

 わたしの我儘で引っ張り回すばっかりで」

「俺の我儘も聞いてもらったし、俺みたいな奴と息が合わないなら良い事さ」


 寂しそうなクアーリャに向けて肩をすくめる。

 別れの日に四天王と一騎討ちをさせてもらった事もある。

 どちらか片方というよりシュエットとクアーリャが、

 二人がかりでユウジを振り回していたというべきか。

 懐かしさに浸っていると、パッセルに袖を引かれる。


「こいつ、気絶が浅いからすぐ起こせるよ。どうしよう?」

「起こしてくれ。上がどうなっているか聞けるかも知れない」


 パッセルは小瓶を取り出して開け、魔術師の女の鼻に近づける。

 離れていても漂ってくる気付け薬の刺激臭。

 それを直に鼻に当てられた女は、珍妙な声を出して目を覚ました。


「おはよう。早速だが僕たちの質問に答えてもらうよ」


 烈風の渦を手に掲げて脅すカヴァッロに逆らう訳もなく、

 女魔術師は涙を浮かべながら何度も頷く。

 同じ魔術師だからこそはっきりと分かるのだ。

 手に乗る小さな烈風が、人間をずたずたに引き裂く威力を持っている事に。

 そして、もし逆らえばカヴァッロは容赦なく烈風を叩きつけてくる事も。

 このような研究、探究者たちの組織では身内に甘い事が多いが、

 カヴァッロは苛烈なほど厳しい。

 人間に仇なす怪物と化した魔術師には、基本的に死をもって応える男だ。


 女魔術師から聞けた情報を整理する。

 五階に人質のほとんどが軟禁されており、三人が見張りをしている。

 首謀者は最上階の七階にいる。そこで何かをしているらしいが詳細は知らない。

 この女が知っている情報は非常に少なかった。

 そこで、気になった事をいくつか聞いてみる事にする。


「なぜ今、塔の占拠を実行した? 俺を殺したかったのか?」

「そ、その、それは……商会長は暴君だと噂で、その……」

「……俺を殺してもお前たちの思い通りにはならないと思うがな」


 言い淀んだら答えているようなものだ。呆れるしかできない。

 確かに魔術師は馬鹿だと自嘲されていたが、

 ここまでとなると正直に言っていい加減にしてほしい。

 いくら暴君とはいえ、商会長をいきなり殺したら恐らく援助は打ち切られる。

 自分たちの首を自分で絞める愚行をやろうとしていたのだ。


「噂話で人殺し!? ふざけないでっ!」

「ひい! ちち違うんです!

 私はあんまりやりたくなかったんですけど、あいつにそそのかされて……」

「塔の人たちを人質にして、

 シュエットを殺そうとして魔術を使ったのなら同罪よ!」


 怒るクアーリャに言い返せず、

 言葉にならない声でもごもごと口を動かす女魔術師。

 クアーリャの肩に手を置き一旦落ち着かせる。この女は気になる事を言った。


「あいつ、と言うからには首謀者を知っているな? 答えてもらうぞ」

「その……オブリーオです」


 名前を知っているかどうか、クアーリャとカヴァッロの方を見る。

 クアーリャは首を振ったが、カヴァッロはゆっくりと頷いた。


「僕の甥にあたる魔術師だ。子供の頃に魔術を教えた事もある。

 なぜこんな事をしでかしたのか理由の半分は分かったよ」

「カヴァッロ師、理由とは?」

「僕への反発だ。僕は洞穴の大改革を行ったからね。

 もう魔力を高める事はせず、純粋に魔術だけを研究していくとしたんだ。

 恨んでいる者もいるし不満を持つ者だっている。

 オブリーオは反対派の筆頭だったんだ。君も反対派なんだろう?」


 女魔術師の顔に烈風を近づけながら聞くカヴァッロ。

 女魔術師は力なく頷く。嘘を言う方が恐ろしいと判断したらしい。


「も、もう我々は人間の到達しうる魔力の限界に達したと……。

 クアーリャが集大成で、彼女こそが限界なのだと言いましたよね?

 本当にそうなのですか? クアーリャよりもっと、もっと限界は先に……」

「自在に天雷を喚び、転移魔術を一人で操るこの子を超える魔力。

 それがあったとして何に使う?」


 女魔術師の口がぱくぱくと動くが言葉は出てこない。

 当然だ。何も考えていないのだから。

 洞穴の魔術師は基本的に、物心ついた時から魔力を高め、

 魔術を修める事だけを教えられるという。

 その枠から外れた事を想像できないのだ。

 今はきっと武芸者を率いて砦に進んでいるであろう、

 あの男と初めて会った時に似ていた。


「城下町を跡形もなく消し飛ばそうか? それともこの大陸を焼き尽くすか?

 それに何の意味がある。魔術の活用方法を研究した方がはるかに有意義だ」


 先程クアーリャが使っていた、そよ風を出す魔術を思い出す。

 天変地異のような破壊が魔術の全てではない。

 火をおこしたり、氷を作ったり、できる事はたくさんある。

 カヴァッロはその方向へと舵を切った。

 塔の魔術師からは歓迎された。彼らは元々そういう魔術師たちだったからだ。

 しかし、洞穴の魔術師たちの中には方針に反発する者もいたという。

 そいつらが決起したのが今回の塔占拠なのだろう。


 シュエットがウルラ商会を乗っ取った時も、反発する者たちはいた。

 その時は反抗する者全てを容赦なく解雇する大粛清を行い、

 暴君という噂に信憑性が加わったのを覚えている。

 良い変化だろうが悪い変化だろうが、ついていけない者は必ず出てくるものだ。


「嫌だというなら魔導の洞穴を自分で作り、ひたすら魔力を高めていろ。

 何の意味もなく、何に使う訳でもない魔力を、

 命と時間を無駄にしながら高め続けて死んでいけ」


 カヴァッロの憤怒に満ちた、背筋が凍るような声。

 女魔術師はうつむき、すすり泣いている。

 自分がいかに空虚で、愚かな事をしたとようやく理解してくれたのだろうか。

 カヴァッロがシュエットに向かって頷く。これ以上得られる情報はないらしい。

 パッセルの肩を軽く叩くと、すぐにパッセルは女魔術師の首を絞め気絶させた。


「理由の半分がまだ分からないね。なぜシュエット君が来る時に占拠したんだ?

 僕だけの時に占拠した方が成功確率はずっと高いはずなんだが」

「考えてもどうせ分からないよ、お爺ちゃん。最上階に行けば分かるでしょ」


 カヴァッロの疑問は確かにそうだが、

 ここで顔を突き合わせていても答えは出そうにない。

 進むしかない時というものはある。

 旅をしていたシュエットとクアーリャはそれを嫌というほど知っている。


「あたしが先に行くから、少し後からついて来て」


 足早に五階への階段へ向かうパッセル。シュエットたちも後を追った。



 ***



 五階にいた魔術師たちは固まっていたので、

 クアーリャがあっさりと無力化して終わった。

 人質にされていた塔の魔術師を救出できたのだが、

 シュエットたちが四階の魔術師と話している間に、

 首謀者が三人を最上階へ連れて行ったという。

 しかも赤子や幼い子供ばかりを。首謀者の卑劣さに、握った拳に力が籠る。

 親たちは泣きながら、カヴァッロに子を助けて欲しいと何度も頼んでいた。


 五階を後にし、誰もいない六階を抜け、七階への階段を昇った所まで来た。

 四階で魔術師たちに狙われた時のように、

 侵入地点が一つしかない場所は狙い撃ちに最適だ。


「カヴァッロ師、そのオブリーオという魔術師はどんな魔術を?」

「風と氷だ。特に氷の武器を作り出す魔術を最も得意とする」


 魔術師には誰でも得意な魔術がある。

 クアーリャなら天から雷を落とす魔術。カヴァッロは風を扱う魔術全般。

 大抵はそれ以外も使えるのだが、

 とっさに出すのはどうしても得意な魔術になる。


「躱せる?」

「空中に突然現れて、急加速して突っ込んでくる氷の武器だ。難しいだろうね」

「お爺ちゃんの言う通りならこんな感じだけど、躱せるかな?」


 クアーリャが軽く息を吐き、小さく手を動かす。

 瞬間、パッセルの頭上に小さな氷塊が現れ、へろへろと飛んで額にくっついた。

 パッセルは氷塊をつまみ、なぜか口に放り込む。


「無理だけど大丈夫」

「それ本当に大丈夫なの!?」


 口をもごもごさせながら矛盾した事を言うパッセル。

 クアーリャは超再生を見た事がないので驚いているが、

 シュエットには意味が分かる。

 いざとなったら超再生で強行突破する、と。

 

「あたしが広場に出てみるね」

「気を付けろよ」


 パッセルが短剣を抜き、広場に踏み込む。

 魔術で攻撃される様子はないが、パッセルは一点を睨みつけて動かない。


「お前がオブリーオ?」

「伯父さんとクアーリャ、ウルラの暴君以外は招待した覚えはないんだがなぁ。

 伯父さん、姿を見せてくれませんかね?」


 パッセルと会話する男の声。首謀者のオブリーオで間違いないだろう。

 広場に出て行こうとするカヴァッロとクアーリャを、手で制するパッセル。


「出てきちゃ駄目。赤ちゃんを抱えてて、近くに子供が二人いる」


 二人の肩を掴んで引き戻す。

 雷を使えば赤ん坊ごと巻き込んでしまい、

 烈風や塵旋風ではより広範囲を巻き込んでしまう。

 投擲武器も人質に当たる事を考えれば使えない。近接戦闘などそもそも不可能。

 手詰まりの状況で広場に出ても一方的に撃たれるだけだ。


「クアーリャはともかく、伯父さんはいざとなれば人質ごと殺す事もやる人だ。

 無理強いはしませんよ、壁越しに話でもしましょうか」

「僕への反発が塔占拠の理由と推測したが、それでは半分足りない。

 なぜシュエット君とクアーリャがいる今、塔を占拠した? 本当の目的は何だ?」

「相変わらず直球で具体的ですねぇ、伯父さん」


 小馬鹿にした、人を苛立たせる男の声。

 普段なら一言たりとも聞いていたくはないが、

 今は状況を打開できるかもしれない唯一の糸口だ。

 何とか人質から手を離させるか、シュエットかパッセルが組み付ければ。

 そんなこちらの思惑を知ってか知らずか、オブリーオは話を続ける。


「目的なんて決まっている。今まで通り魔力を高める方針に戻す事さ。

 始祖から続く血の営みで!」


 魔導の洞穴で秘密裏に行われていた血の営み。

 魔力の高い子を作るため、家畜のように作られる子供たち。

 カヴァッロから初めて聞いた時は怖気が走った。

 魔力のため、人を人と思わぬ狂気に。

 それを子々孫々にまで続けさせるなど常軌を逸している。

 カヴァッロが魔術の研究に舵を切ったのは、

 血の営みを終わらせるためでもあった。

 だというのに。


「魔導の洞穴の集大成、血統の果てに産まれた子!

 その子供はどれほどの魔力を持つんだ!?

 見たいと思うのが当然じゃないか。なあ、クアーリャ!」


 熱に浮かれたようなオブリーオの声と相反するように

 クアーリャは無表情で聞いていた。

 聞くに堪えない下劣な言葉に、斧を握る手が怒りで音を立てる。

 大事な仲間で、友人で、妹分だ。そんな扱いを許せるはずがない。

 きっと、血の繋がった実の祖父であればそれ以上に。


「どうせ君は何も知らないんだろう?

 隣にいるお爺ちゃんが、父方か母方かという事も!

 まさか"両方"だなんて言える訳がないからねぇ!」


 クアーリャの両親はカヴァッロの息子と娘、異母兄妹だった。

 二人は自分たちが兄妹であるという事さえ知らず子を成したのだ。

 彼らについて話す時の、カヴァッロの表情をはっきりと覚えている。

 深い悲しみと、それ以上の激怒。


「火、風、そして土の魔術を複合した雷。そこにぼくの氷を加えれば完全になる!

 最高の魔術師が産まれるんだよ!」


 心の底から気持ち悪い事を恍惚と語り続けるオブリーオ。

 それを呆れ顔で見つめながら、額を触って首を傾げるパッセル。

 パッセルの言いたい事の通り、クアーリャは水や氷の魔術も普通に使える。

 奴の妄言に沿うなら既に最高の魔術師なのだが。


「君は偉大なる母となるべきなんだ!

 さあ、血の営みについて何も知らせなかった男よりぼくの……」

「全部知ってるよ」


 うっとうしい大声を遮るクアーリャの静かな一言。

 愚かな男の困惑が、見えてもいないのにはっきりと分かるほどだ。


「わたしがシュエットたちと一緒に行く時に教えられた。

 お爺ちゃんだけじゃなく、シュエットだって知ってるよ。

 だから言うよ、お前の望みは叶わない。

 わたしから最高の魔術師なんて産まれない」

「ど、どういう事だ!?」

「お父さんは二十で死んだ。

 お母さんは四回も死産して、五回目でわたしを産んだ時に死んだ。

 きっとわたしは長く生きられない。子供なんて産めない。

 お前の言った通り、わたしは血統の果て。次が存在しないどん詰まり」


 淡々と話すクアーリャだが、今にも泣き出しそうな顔をしている。

 彼女はまだ十四の少女。

 大人ですら精神を壊しかねない出生に、何も思わないはずがない。

 それでも、少女の精神は惨い出生を受け止めた。

 生まれはどうしようもないのだから、

 せめて自分のやりたいように楽しく生きようと。

 喜怒哀楽で表情をくるくると変える少女と共に過ごして、

 本当に強い子だと何度思った事か。


「う……嘘だ! でたらめを言っているんだろ!

 そんなにウルラの暴君と一緒にいたいとでも!?

 集大成たる君が魔術も使えない凡人との子を産むなんてあってはならない!」


 オブリーオは明らかに動揺しているようだが、

 なぜシュエットの事がここで出てくるのか理解できない。

 そもそもシュエットはクアーリャの出生を聞かされているし、

 彼女に幸せな人生を送って欲しいと願うカヴァッロの賛同者だ。

 大事な妹分を手籠めにするはずがない。


 カヴァッロと顔を見合わせて首を捻る。

 それに対して、クアーリャは納得したかのように小さく頷いた。


「お爺ちゃんが言ってた理由の半分、分かったよ。横恋慕。

 わたしの目の前でシュエットを殺して、

 自分の方が優秀だって知らしめるつもりだったんだ」

「なるほど。それなら二人がいる時でなければ意味がないね」


 パッセルが心底呆れた顔をしているので、

 図星を突かれて何も言えなくなっているらしい。

 あまりに下らなすぎる理由が出てきて頭を抱える。

 まだ階下の魔術師たちの方が理解できる。

 人生の指針としてきた物を突然変えろと言われて、できる者は多くない。

 まさか横恋慕と嫉妬でこんな事をしでかしたとは考えもしなかった。


「だが、奴とクアーリャは会った事さえないんだぞ?」

「会った事ないから好き勝手に頭の中で作っちゃったんだよ。

 自分に都合のいい妄想のクアーリャ、わたしとは違う何か。

 だからわたし本人が言ってるのに否定して怒る。

 自分が妄想したクアーリャと違うから」

 

 惚れた女を見てもいない。シュエットには理解ができない意味不明さだ。

 奴の中では、クアーリャが泣きながら賛同してくれるはずだったのだろうか。


「気持ち悪い奴」

「こ、このガキ!」


 軽蔑と嘲りを有りっ丈込めて吐き捨てたパッセルに対し、怒るオブリーオ。

 あまり挑発しては人質が危険になるが、感情の高ぶりは隙を生む。


 パッセルはおもむろに短剣を投げ捨て、広場の壁に背を預けて座る。

 足も投げ出し、自室でくつろいでいるかのような姿勢だ。


「どうせここまで届かないんでしょ? 魔術飛んでこないもの。

 何にもできない癖に自信だけは過剰、気持ち悪いだけの無能者だもんね」

「……クソガキィィ!

 "水よ集いて氷となれ、大刃よ我が敵に突き刺され"っ!」


 罵倒への耐性も極端に低いらしく、逆上したオブリーオの魔術が発動する。

 パッセルの頭上に突如現れた氷の大剣が凄まじい速度で落下するが、

 少女は身をひるがえし紙一重で躱す。

 見てから反応してはパッセルの身体能力ですら躱すのが精一杯。

 人格と似合わぬ魔術の恐ろしさに肝が冷える。

 死角から攻撃されたら回避しようがない。

 先程の回避は、パッセルが壁を背にして死角をほぼ潰したからできた芸当だ。

 こちらに避難するように言いたいが、パッセルは逆方向に離れてしまった。

 恐らくは意図的に。


 詠唱は続く。パッセルの斜め上に現れる両刃斧。

 壁を蹴り、飛来する斧の下を潜り抜ける。

 続けて斜め後ろ、後頭部を狙う突剣。後ろに出現したので視認できない。

 シュエットたちが警告の声を上げる暇さえなく、突剣が放たれる。

 完全な死角からの一撃、回避できるはずがない。

 しかし、パッセルは横に飛び退いて突剣を躱した。


 槍、長剣、鉾槍。

 多種の氷武器が飛び交う中、それを回避し続けるパッセル。

 広場には大量の武器が突き刺さり、まるで戦場跡のようだ。

 パッセルが十二個目の武器を躱した時、

 壁からわずかに顔を出してオブリーオを見る。

 完全に逆上してパッセルの事しか見ていないらしく、

 シュエットに気が付いていない。

 左腕で赤子を抱え、右手を激しく動かして魔術を放っている。

 観察の間にパッセルは十四個目の曲剣を躱しており、

 それができる理由にも見当がついた。


「詠唱と手の動きで予測しているのか」


 壁を背にした最初の二撃で間を読み、それ以降は予測で回避する。

 言葉にすればそれだけの事だが、実際にやるとなれば想像を絶する難易度だ。

 最初に罵倒して逆上させたのも布石だったのだろう。

 冷静に間を外されたり、躱す場所へ予測射撃されたら終わりだからだ。

 現に今までの魔術は全てパッセルを直接狙っており、

 回避のからくりにも気付かれていない。


 しかし奴が赤ん坊を人質として抱えている以上、決定打が足りない。

 雷や烈風で人質もろとも殺してしまう事なら今でもできるだろうが、

 それではウルラ商会やカヴァッロへの悪感情は拭えなくなる。

 可能な限り無傷で確保したい。

 そのためには後一手、奴の心を押してやる必要がある。


「パッセルが危険な状態になったら俺も広場へ出る。

 クアーリャ、俺が叫んだらその時が機だ。任せるぞ」

「いつも通りに信じて。シュエットの期待は裏切らないから」


 氷と石がぶつかる激しい音の中、小声での会話はやけにはっきりと聞こえた。

 手に持った斧を床に下ろす。

 パッセルが二十一個目の騎兵槍を躱すのと同時だった。

 続けて大剣、大曲剣。範囲の広い武器が続く。

 次の詠唱が違う文言を使っているのを聞き、すぐさま広場に飛び出した。

 全力でパッセルの元へと走る。


 パッセルが飛び退くが、氷の武器が飛んでこない。

 彼女が間を計って躱していた事に気付かれてしまった。

 それだけでなく、パッセルの姿勢が不自然に崩れる。

 右足だけが動かなかったからだ。

 右足が凍り付いて床に張り付いている。詠唱の違う魔術の効果か。

 あれでは躱すための移動距離が確保できない。


「パッセル!」


 広場の中心を過ぎた辺りで叫ぶ。

 横目で見るオブリーオの顔が、歓喜と殺意に塗れた笑顔になっていく。

 氷の武器は威力を見る限り人体など容易に貫通する。

 シュエットが庇った所で二人まとめて刺し貫かれるだけだ。

 だから止まる気はない。速度を落とさずにパッセルの所へと走る。

 パッセルと一瞬だけ視線が合う。意図を伝えるにはそれで十分。

 パッセルが近くに刺さっていた大曲剣を引き抜く。

 そのまま、一切ためらわずに凍った自分の右足を叩き斬った。

 こちらも全力で飛び込む。少女の小さな体を抱きかかえて床を転がる。

 一瞬遅れて、パッセルがいた場所に氷の大槍が叩きつけられた。


 必殺の一撃を躱された怒りと、本当に殺したい者が目の前に出てきたという

 残忍な歓喜がオブリーオの表情から溢れている。

 シュエットたちは倒れている状態で、パッセルは片足を失っている。

 奴からすれば絶好の機会。

 この機を逃すまいと、オブリーオは魔術の発動を早めようとする。

 両手で魔術を使うために、赤ん坊を投げ捨てたのだ。

 最大の機会こそが最大の隙を生む。挑発で冷静さを欠いたのが奴の敗因だ。

 注意が完全にシュエットたちに向けられ、彼女が妨害なく魔術を使える。


「"水よ氷となれ、大刃と"……!」

「"落ちよ雷"っ!」


 たった二つの単語で完成した魔術。轟音と閃光。

 オブリーオの動きは完全に停止し、

 手をこちらに向けたままの姿勢でゆっくりと倒れた。

 赤ん坊は見えない滑り台を浅く滑るように移動し、離れた場所に着地した。

 カヴァッロが風の魔術を使ったのだろう。

 側にいた子供たちも、音に驚きはしたようだが怪我などはない。


「シュエット、起こして」

「大丈夫か?」

「もう大体元に戻った」


 立ち上がってパッセルの手を引き、身を起こしてやる。

 足は既に元通りになっており、

 血の跡がなければ靴が脱げただけにも見えるほどだ。

 しかし、凍り付いたままの切り離された右足がそのまま残っている。

 それが少女がやった事を何よりも雄弁に語る。


「まだ生きているな、生命力だけはある男だ」


 オブリーオを蹴飛ばし、生死を確かめるカヴァッロ。

 クアーリャは解放された子供たちをなだめつつ、赤ん坊を抱きかかえる。


「シュエット君、パッセルちゃん。

 クアーリャと一緒に外の魔術師たちに知らせてくれ。

 もう人質はいないから洞穴の封鎖を壊してもいいと」

「そいつは縛らなくてもいいの?」

「今ここで"人間に戻す"から心配いらないよ。僕も後から行く」


 カヴァッロの言葉の意味が分からないパッセルを促し、足早に塔を降りる。

 五階で人質にされていた子供たちを親に返す。

 無傷で奪還してくれた事に、親たちは口々に感謝を述べた。

 奴がもし赤子や子供を離さなかったら、

 人質ごと攻撃するつもりだった事は言う必要もない。


 四階に降りた辺りで、パッセルが疑問を口にする。


「人間に戻すってどういう意味?」


 縛られた魔術師たちを改めて見て、彼らがどうなるのか気になったようだ。

 内容を知っているシュエットが言っていいものか悩んでいるうちに

 クアーリャが答えた。


「意味も何も言葉通りだよ。魔術師から人間に戻すの、無理矢理に。

 魔術を使うには発声と手の動きが必要。どっちも使えなくするんだよ。

 ……両腕を斬り落とし、喉を潰してね」


 執行される内容、その凄惨さにパッセルが息を飲む。

 死刑の方が一思いに死ねる分ましかもしれない。

 人間に戻すとはいうが、人並みの暮らしが送れるとは思えない。


「剣士は剣を手放せばいいけど、魔術師は魔術を手放せない。

 頭の中に入ってるから取り出す事もできない。

 捨てさせるには殺すか、必要な部位を使えなくするしかないの」


クアーリャはパッセルに向き合い、そっと頬を撫でる。


「これからあなたに渡すのは、そんな怪物どもの狂気の極致。

 嫌だったら受け取らなくていいんだからね。

 わたしたちが何とかしてみせるから」


 優しさから出た言葉なのは分かる。シュエットも可能であればそうしたい。

 しかし、不死の少女を連れて来た理由そのものである以上できない。

 それ以上に確信がある。

 狂気の極致とまで称される魔道具を、パッセルは必ず手に取る。

 何も言わずに頬に添えられた手を握るパッセル。

 その目を見たクアーリャは、視線を逸らすようにシュエットの方を向く。

 まだ幼い魔術師の顔は、諦めに満ちた微笑みだった。



 ***



 下層にいた傭兵たちは人足として雇い直し

 占拠された塔の後始末をさせる事にした。

 最初に肩を外された男はパッセルが治していたが、

 三階の狂人もどきはそのまま置いてきた。


 外にいた魔術師たちに塔を取り戻した事を伝えると

 彼らは嬉々として魔術を叩き込み、

 洞穴を封鎖していた魔道具をあっという間に破壊してしまった。

 我先にと洞穴へ帰っていく魔術師たちの少し後から

 シュエットたちも洞穴の中に入る。


 外見こそ洞穴だが、中は広々とした地下施設といった印象。

 俗世から離れ、魔術だけを追い求める者たちだけが入れるという魔導の洞穴。

 実際は違う。洞穴に住む事が許されるのは、ある一族の者だけ。

 魔導の洞穴に住まう者はほぼ全て

 クアーリャとカヴァッロの血縁者と言ってもいい。

 パッセルは興味深そうに施設を見ているが、

 血の営みを知るシュエットにとっては居心地の悪い場所だ。


 クアーリャに連れられ、洞穴の最下層である地下三階まで降りる。

 紋章が描かれた黒い岩戸に辿り着くと、クアーリャが立ち止まる。


「入らないの?」

「この扉は魔術で動かすんだけど、お爺ちゃんでないと開かないの」


 魔術や魔道具は、限定条件や代償を付けた方がより強い効果を発揮する。

 誰でも使える剣と、子供しか使えない剣であれば後者の方が切れ味を増す。

 特定の一人しか開けられないこの岩戸は、文字通り不壊。

 いかなる手段でも破壊されない扉。


「はあ、ふう……遅くなったかな、中に入ろうか」


 少し急いで来たのか息が荒いカヴァッロが追い付いてきて

 扉の紋章に手をかざす。

 ただそれだけで巨大な岩戸は音さえ立てずに道を開けた。

 中は少し大きめの部屋で、何かの資料や道具が散乱している。

 その中心にある机には、頑丈そうな鋼鉄の箱が置かれていた。


 四人で箱を囲む。箱にも岩戸と同じ紋章が刻まれている。

 カヴァッロが手をかざし、箱がひとりでに開く。

 箱の中にあったのは、小ぶりの短剣が一本。

 シュエットが魔導の洞穴に莫大な金をつぎ込み、作ってもらった魔道具。


「シュエット君、これがご所望の魔道具だ。

 神も魔も完全に滅ぼす、勇者が操る光の剣と同質の力」


 パッセルの目が見開かれ、シュエットと短剣を交互に見つめる。

 思わず手を伸ばそうとしたパッセルの腕を掴む。

 なぜ止めるのかと睨んでくるパッセル。

 まだカヴァッロの説明は終わっていない。


「ただし効果を発動できるのは一呼吸の間。

 そして、効果を発動するためには代償が必要だ。

 代償は使用者の命全て。一生に一度しか振るう事ができない魔剣だよ」


 びくっと体を強張らせるパッセル。

 自分がなぜここに連れてこられたのかを理解したのだろう。


 カヴァッロに依頼したのは

 光の剣と同じように魔物を、神を滅ぼせる魔道具だった。

 光の女神から借り受けた祝福と同質の力を人間が再現する。

 至難の業であるそれを、カヴァッロは成し遂げてくれた。

 しかし、人の身だけで女神の力を再現するには

 重すぎる代償をかけるしかなかった。

 その結果がこの忌まわしい短剣だ。


 パッセルの腕から手を離す。

 はっきりと止めたクアーリャと違い、シュエットは卑怯者だ。

 幼い少女に選択を委ねるふりをした。少女がどうするかを知っているくせに。


 パッセルは少しの間だけ目を閉じ、ゆっくりと開く。

 そして、無造作に短剣を掴み、鞘から抜き放った。

 美しい銀の剣身が露わになる。人の命を喰らって魔を滅ぼす短剣が。


 カヴァッロが手を差し出し、その手の上に炎が燃え上がる。


「短剣でこの炎を突いてくれ。ちゃんと効果が発動していれば炎は消える。

 シュペルリング。その短剣の名を所有者が呼べば発動する」


 本来であればただ一刃で命を失う。しかし不死であれば?

 決して死なぬ不死の少女。

 その話を聞いた時、もしかしたらという思いで少女に会いに行った。

 神魔を滅ぼす短剣を、命を失う事なく使えるのではないかと。

 失敗すればパッセルは無駄死に。

 切り札になりうる可能性のために、少女を使い潰そうとしている。


 クアーリャは目をきつく閉じ、目尻に涙を浮かべて祈っている。

 彼女のように、シュエットは目を閉じない。閉じられない。

 自分で始めた事を見届けなければならない。

 大きく深呼吸をするパッセル。強く拳を握った。


「"シュペルリング"っ!」


 はっきりと告げた短剣の名。短剣は淡い銀色の光を放ち、炎に突き刺さった。

 炎はまるで弾けるような音を上げ、かき消えるように消失する。

 短剣を突き出した姿勢のまま、瞬きさえせず微動だにしないパッセル。

 銀色の光が消える。


「パッセル!」


 少女が倒れないよう背中から抱きかかえる。

 その時に気が付いた。体から力が抜けておらず、ちゃんと自分で立っている。


「無事なのか!?」

「……多分、大丈夫。でも……ううん?」


 怪訝な顔をして首を捻り、短剣で自分の腕を皮一枚斬るパッセル。

 平然と身を傷つける彼女にしては珍しく、痛みに顔を歪める。

 肌に一筋の赤い線ができて、血が一滴机に落ちた。

 叩き斬られた足が二呼吸ほどで元通りに治る超再生、

 掠り傷など血が垂れる間もなく治るはずだ。


「傷が、治らない。もしかしてあたし、不死じゃなくなって……」


 パッセルがどこか嬉しそうに言いかけた瞬間、傷は消え失せた。

 訳が分からず、二人でカヴァッロを見る。


「代償が不死と相殺しているのか?

  少なくとも死ぬ事はないみたいだ、調べてみよう」

「大丈夫なの? 大丈夫なんだよね、パッセル!?」


 研究者の顔になるカヴァッロと、

 ようやく目を開けて泣きながら喜ぶクアーリャ。

 そして困った表情のパッセル。

 シュエットは全身の力が抜け、へなへなと座り込んでしまった。

 ただの生贄と割り切る事などもうできない少女が、無事だったという安堵で。




 何度かシュペルリングを使って分かった事は、

 発動すると不死の力が一時的に消失する。

 その間に致命傷を受ければ恐らく死ぬ。

 効果を連続では使えず、超再生が元に戻る時間に再使用可能になる。

 そして、二回目以降の発動に発声は要らず念じるだけでいい。

 二回目以降を振った者がいないので初めて分かった事だ。


「こんな所か。おめでとう、シュエット君。彼女は真に切り札たり得たようだ」


 カヴァッロは事実を言っただけなのだろうが、

 責めているように聞こえるのは被害妄想が過ぎるか。


「不死者を探していたのはこれが目的だった。

 どれだけ謝っても許される事じゃないのは分かっているが、すまなかった」

「何で謝るの? シュエットはあたしが欲しかった物を全部くれたのに。

 ありがとう、シュエット」


 銀の刃を掲げて嬉しそうに微笑むパッセル。

 玩具を買ってもらった幼子の微笑みであり、

 決意と残忍さに満ちた復讐者の笑顔でもあった。

 それを見ていたクアーリャが突然首をぶんぶんと振り

 机に両手を叩きつけて大きな音を出す。


「よーし! これで全部の準備完了なんだよね、シュエット!」


 強く叩き過ぎたのか声が震えていたが、

 気合を入れたかったというのは伝わった。

 カヴァッロに準備における最後の確認をする。


「カヴァッロ師、魔術師は何人ほど?」

「十五人。戦闘経験がある者を選別した後、志願してもらったよ」


 遠距離から先制広域攻撃ができる魔術師はどうしても必要になる。

 しかし、魔力を使い切った魔術師は回復するまでただの人と変わらない。

 多すぎても逆に足手纏いになってしまう。

 それを考えれば、十五人というのは丁度いい塩梅なのかもしれなかった。


「塔で縛った人たち?」

「あんな連中など邪魔にしかならないよ。

 覚悟もなく死地に行ったところで他の手を煩わせるだけだ。

 彼らには君たちが邪神を討つまでの間、他の町や村を死守してもらうよ」


 カヴァッロの冷酷な笑み。

 シュエットとクアーリャの苦虫をかみ潰したような顔を見て

 彼らの運命を察したパッセルは、それ以上言及する事はなかった。


「シュエット君。必ず邪神を討ってくれ。

 その成果をもって、クアーリャが魔導の洞穴の集大成だと証明するために。

 下らない血の営みを完全に終わらせるために」

「俺の目的もその道の先に。何があろうと成し遂げます。

 ありがとうございます、カヴァッロ師」


 カヴァッロが差し出してきた手を強く握る。

 彼が協力してくれた理由の全てがその言葉にあった。


「魔術師たちの準備が整う二日後に、転移魔術で砦に向かわせる。

 向こうで色々とやる事もあるだろう。クアーリャと先に向かってくれ」

「すぐに用意してくるから、二人とも外で待っててね!」


 クアーリャが走って部屋を出て行く。

 こちらも外に出ようとパッセルの手を引く。

 部屋を出ようとした時、カヴァッロが静かに言った。


「僕の大事な孫娘を、頼んだよ」

「俺にとっても大切な仲間で妹分です、この身に代えても」


 深く礼をして部屋を後にする。カヴァッロはゆっくりと頷くだけだった。

 同い年くらいの少女を生贄にしようとした身で言える事ではない。

 それでも、紛れもない本心だ。

 ユウジのための道だが、途中に救いたい人がいるのなら全て救っていくだけだ。




 外に出てしばらく待っていると

 クアーリャが二つの鞄を重そうに抱えて走ってきた。

 そのままの勢いで鞄をシュエットに押し付けてくる。

 結構な重さに姿勢を崩しそうになった。


「落とさないでね、貴重な魔道具がたくさん入ってるから。

 パッセル、この靴履いて。わたしのお古で悪いけど」

「そういえば片っぽ置いてきちゃった」


 切断された右足ごと置いてきているのだが

 それはどうでもいいらしい。

 パッセルが靴を履く間に、鞄を両肩に一つずつ掛ける。

 背にも荷物を背負っているので流石に重い。

 クアーリャが手を握ってくる。手と手を絡ませるようにしっかりと。


「また四人揃うね。それだけじゃない、切り札のパッセルも含めて五人。

 今度こそ邪神を倒し、魔物の脅威から世界を救うよ」


 その手を握り返して頷く。

 別れてから今までの全ては、これからの戦いのためにあった。

 パッセルがもう片方の手を握ってくる。

 クアーリャとは違い、そっと添えるように。


「あたしは、あなたの作る道の先へ行かなきゃいけない。

 だから道を作って、シュエット」


 その手も握り返して頷く。

 覚悟など、ユウジと旅した最初の日に決めていた。


「クアーリャ、目的地は最果ての砦! 邪神を滅ぼして終わらせるぞ!」

「うん! "天を巡りし偉大なる風よ、我らを彼方へと疾く運べ"っ!」


 転移魔術が完成し、シュエットたちは強い光に包まれる。

 一瞬の浮遊感。光が消えたら、懐かしい二人に会えるだろう。

 挑むは邪神の神殿。神殿へと至る道を荒野に作り上げる事。

 大切な仲間たちとの、最後の旅路だ。


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