星落ちて、流れる。
空からは星の雨が降る。
音が聞こえそうなほどの土砂降りだ。
後から後から流れ落ちて、数え切れないほどの星が落ちる。
「あれはね、人の命なんだよ」
鼻の先も見えないような暗闇の中で、誰かがささやいた。
内緒話のような声に、別の声が応える。
「ああ、そうだね。名簿がびっしりだよ」
「いつになく多いからね、たくさん降るんだよ」
「そうそう。大忙しだね」
「うんうん。大忙し」
ザワザワと歩き回る気配は、真っ黒な服のすそをひるがえして右に左にと移動しているようだ。
真っ暗な夜の中で、それはそこにあるのに手に取ることもできないモヤモヤした感じの嫌な感覚を振りまきながらしばらくそこら辺を動き回っているようだった。
それは親戚のおばさんたちのうわさ話のような、ボソボソと交わされる言葉のような不穏で不確かな音の連なりだった。
「あれは落ちたら、どこへ行くの?」
思わずつぶやいた言葉に、突然ざわめきが消える。
耳が痛いほどの沈黙の後に、さざなみのようなささやきが広がる。
「どこへ行くかだって」
「何も知らないんだ」「無理もないよ」
「誰か教えてやらない「嫌だね面倒だよ」「そんな不親切な!」
「「「だって知ったことじゃない」」」
重なり合った声が、何重にも響く。
冷たい声が、言葉が、夜の闇のように世界を覆い尽くす。
空には赤い月が鈍く光り、血のようなその色を誰かが不吉だと指差した。
その光に照らされた星が降った日、世界は真っ暗な闇のようだった。
僕は誰もいない部屋の隅っこで丸まりながら祈った。
どうか、どうか。
この世界が終わってしまう前に、誰でも良い。どうか僕たちを救ってくださいと、それだけを願った。
繰り返し、繰り返し。
降り注ぐ絶望が、終わるようにひたすら願った。
一晩たち、二晩たち、一週間、ひと月、半年、一年。
長い長い闇が世界に満ちた。
その夜も、日課のように僕は空を見上げて祈った。
会えないあの人のことを思いながら、青白く輝く月を見上げて祈った。
「そんなに、ひとりぼっちで願い続けたってきっと叶わないよ」
真っ黒な闇が誰かの声でささやいた。
「それでも、願い続けていたら叶うかもしれないじゃないか」
反論する僕の声は震えてかすれていて、お世辞にも元気いっぱいとは言えなかった。
「無駄じゃないの?」
「無駄じゃないよ」
「なんで?」
しつこく聞いてくる闇に、僕はしっかり息を吸って、はっきりと言った。
「だって、生きてるから。僕はまだ、生きてる」
そう言葉にした途端、空からまぶしいほどの星の雨が後から後から降り注いで、音もなく闇を洗い流した。
その光が目にしみて、思わず涙が出た。
流星群が過ぎ去った後、僕はどれぐらいぶりか分からないぐらい久しぶりに、外に出た。
空はまぶしい青で、もうどこにも、闇なんてなかった。