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邪道甲子園  作者: 馬河童
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『正道甲子園』

 甲子園出場を決めた伊賀中央ナインは、翌日から相応の忙しさに追われた。各人の怪我もあり、練習は動ける者だけで軽めにしておいたが、連日取材陣が訪れ、撮影し、彼らにインタビューしていった。何せ「甲子園初出場校」かつ「伊賀忍者の子孫達」という事でかなりの注目を浴びたのだった。学校内で激励会があり、さらに市役所や県庁への表敬訪問などもこなし、肉体以上に精神的に疲れるような有様であった。

 この間、続々と全国の出場校も決まっていき、八月に入り、いよいよ甲子園へ乗り込む事となった。さすが忍者と言うべきか、この期間で各人が何とか動けるまでに体調を取り戻していた。萬蔵によって調合された薬は傷を癒し、骨にヒビが入っていた者も伊賀の整骨術や療法で、ある程度は回復した。そして、結局、萬蔵からは特に甲子園での使命を言い渡される事もなく、皆、気楽に大舞台へ臨む事が出来たのだった。

 ただ、出場にあたって、伊賀中央ナインは一つの約束をした。

「甲子園では一切の忍法は使わない!」

 幸太郎からの提案であった。既に大目標を達成した伊賀者に異論はなく、どのみち忍法を使おうにも幸太郎に封じられてしまえば使いようがなかった。幸太郎としても純粋に力を試したい気持ちが強く、それに釣られてか伊賀者も「どれだけ出来るかやってみるか」という気持ちになったのであった。


 現地入りした事で甲子園での練習日も迎え、ナインは感慨もひとしおであった。大甲子園は、三重県内の球場とは何もかもが違っていた。

「こんな所で野球出来るんだな」

「風間、夢の舞台へ上がった感想はどうだ」

「そりゃ嬉しいさ、高校野球の聖地だからな。だが……」

 幸太郎が言葉を止めると皆が彼に注目する。

「やっぱり勝たなきゃな。来た事で満足していたらダメだ」

「風間らしいだや」

 猿飛が呆れ顔で呟く。傍らでマウンド上から投げ込む剣蔵は活き活きとしていた。

「こりゃ最高のマウンドだな。県大会の球場とは雲泥の差がある。プロはこんな所で投げてるのかよ」

 直球・変化球を精力的に投げ分け、調子は上々のようであった。


 帰り際、ナインはインタビューされた。特に剣蔵に群がる記者が多く、その理由は

「服部投手、あの大阪ナンバーズの岩本選手と対戦経験があるという噂を聞いておりますが、今回の甲子園での抱負を聞かせて下さい」

 と例の一年前の岩本発言が大きく影響しているようであった。これに対して剣蔵は次のように答えた。

「あんたらそれで俺に注目している訳か……。さすが岩本だな。まあ論より証拠、俺の活躍をよく見ておきな!」

 こんなふてぶてしい発言をする選手はなかなかいない。そのお陰か、良くも悪くも伊賀中央高校への注目はより高まって行った。


「剣蔵、あんな啖呵を切ったのはいいが、忍術なしで活躍出来る自信はあるのか」

 練習が終わって戻って来た宿舎で、学が尋ねる。

「さあな。だが、俺の性格上、一生懸命頑張りますなんてクサいセリフは言えん」

 剣蔵は大して気にしている風もない。

「大丈夫だ。普通に野球をしたってお前達は十分通用するさ」

 話に入って来たのは幸太郎だ。

「お前達の身体能力の高さはピカイチだ。野球を覚えた今なら、全国の強豪校にも引けを取らないさ」

「風間が言うと説得力あるだや」

「剣蔵とは違う」

 皆が納得して頷くのを見て、

「何じゃそりゃ……」

 剣蔵は拗ねた幼児のような顔をしてそっぽを向くのであった。命懸けという、鎖が外れた今、伊賀者達はリラックスしまくっていた。


 その後、大阪市内で組み合わせ抽選会が行われ、伊賀中央高校の初戦は二日目の第一試合、相手は新潟代表・下越高校に決まった。

「新潟か。あまり強くない印象だな。確か甲子園での優勝経験はない」

「イケるだや」

 伊賀者達が変な色気を見せるのを、

「油断するなよ。一発勝負だし、流れ一つでどうにでも転がるんだからな」

 幸太郎が窘めるのだった。

 この時も、学が相手の主将と握手するところなどを撮影されていたのだが、伊賀中央への注目は高かった。

「忍者高校の相手は新潟代表!」

「注目の初戦は第二日目」

 記者達が騒ぎ立てるものだから、他の高校もじろじろ見て来るようになり、衆目の的となった。

「うざってえな……」

 苛立ちを示した剣蔵が三個のボールを片手でお手玉しながら、その一つを下越高校の名前の書かれたボードに命中させた。これには場内が騒然とした。

「こらっ」

 係員が飛び出して来て剣蔵を捕らえようとする。しかし、彼は持ち前の忍びの動きを発揮して、飛んで逃げ回る。結局、逃げ切る事に成功し、代わりに学が大目玉を食らったのだった。


「剣蔵のせいでこっぴどく叱られたよ」

 宿舎に戻って来てから、学が剣蔵を睨み付ける。一人だけ長時間拘束され、説教されたと恨み言を述べた。

「わりぃわりぃ、あんまり俺達を見て騒ぐもんだから、ついイラっとして……」

 剣蔵は頭を下げた。

「あーあ、これで俺達、悪者扱いだ」

「剣蔵は」「ロクな事を」「しない」

 皆が批難がましい目で剣蔵を見るので、さすがの彼もバツが悪そうであった。


 開会前日の午前には開会式のリハーサルが実施された。夏の日差しが照り付ける中、甲子園球場内を日本列島北から南の順に行進し、伊賀中央高校はちょうど中間あたりに位置していた。報道や剣蔵の悪態もあってか、他校もより彼らに視線を投げ掛けているようだった。

「じろじろ見られているな」

「注目の的だや」

「剣蔵が目立つ事するから……」

 ナインは皆、この様子を楽しんだり、煩わしいと思ったり、様々な反応を見せていた。

「いいじゃねえか。今回は隠すものもねえ。正真正銘、野球で勝負してやるんだ。こんな大舞台、目立って何処が悪い。なあ風間?」

 剣蔵は全く気にする素振りもなく、話を幸太郎に振る。幸太郎は苦笑して、

「確かに服部の言う事も一理あるが……。ただ、悪目立ちするのは感心せんな」

 とお手上げのポーズをした。とはいえ、意外にもこの状況を楽しんでいるかのようだ。

「風間は強敵大好き男だからな。多少、相手が躍起になってきた方が楽しいんだろ」

 学が聞く。

「まあな。相手が強い方がやり甲斐もあるだろう」

「そういうところは剣蔵と一緒だや」

 と猿飛がからかうと皆が笑った。すると、

「なっ……一緒にすんじゃねえ」

 と剣蔵は憤り、

「服部と同じとは心外だな」

 と幸太郎も渋い顔をするのであった。

 行進を終え、選手宣誓の練習などもあり、リハーサルは終了した。初戦の相手・下越高校との対談もあったが、剣蔵は外され、学と幸太郎が出て、相手と互いの健闘を誓い合ったのであった。


 そして夏の甲子園大会は開幕した。朝から厳しい暑さにもかかわらず大勢の観客でスタンドは埋まっていた。拍手や歓声を受けながら、伊賀中央高校の面々は堂々と行進した。勿論、足並みなど揃う筈もなく、彼らなりの自由な闊歩ではあったが、この舞台に上がるまでの命懸けの戦いを考えれば、全員が何かしらの感慨を覚えたのは間違いない。

「何だよ、これ……」

「こんな中で試合するのか、俺達」

「練習やリハーサルとは大違いだ」

「暑さより熱さが球場全体に渦巻いている」

「確かに命を懸けるに相応しい舞台だぜ、これは」

 あの剣蔵でさえ、高揚感に浸っているようであった。周囲全方向から色々な声が伊賀中央ナインに飛び交っていた。

「お前達はここへ来るまでが全てだったのかも知れないが、もうひと頑張りする気になっただろう」

 幸太郎が皆に問い掛けると、全員が頷いた。


 翌日迎えた初戦、伊賀中央ナインが出て来ると、球場は大歓声とブーイングに包まれた。剣蔵の行いを良しとしない者も多々いる反面、逆に興味を持った者も多かったようで、歓声の方が上回っているように見えた。

「へっへっへ。客もわかってるじゃねえか」

 剣蔵自身はあくまで不敵な面構えでマウンドに上がる。

「見ろよ、ウチの学校の応援団もなかなかじゃないか」

 学が自軍のスタンドを見渡して言う。学ランを来た応援団とチアが固まって、ナインの為に声を振り絞っていた。

「こりゃいいとこ見せるっきゃないだや」

 剣蔵だけでなく、他の者もプレッシャーを感じる者は皆無で、伊賀中央ナインは平常心で声援を力にして試合に臨めたのであった。一方、対する下越高校は、完全に場の雰囲気に呑まれてしまっていた。自分達の想像以上の球場の盛り上がりに、舞い上がる者、緊張する者、委縮する者、誰一人として本来のパフォーマンスを発揮出来そうな者はいなかった。

 こうなると試合の結果も歴然で、力を発揮した伊賀中央が投打で相手を圧倒した。投げては剣蔵が二安打完封、打っては幸太郎が二打席連続ホームランと大爆発、他の伊賀者も随所に好プレーを見せ、9対0で完勝した。

「よっしゃ。行けるぞ俺達!」

 伊賀中央ナインの勝利の雄叫びが、母校の校歌と共に甲子園球場に響き渡った。甲子園初出場で初勝利なだけに、応援団の喜びようも凄まじいものがあった。


 果せるかな、彼らは甲子園でも勝ち進んだ。幸太郎の読み通り、元々、身体能力や精神力では普通の高校生を凌駕しており、三年間で野球を覚えた伊賀者は全国でも十分に通用した。あのプロ入りした岩本も認めた好投手・服部剣蔵、豪打の風間幸太郎の二枚看板を軸に、甲子園の舞台でも大暴れ。幸太郎の監視の下、忍術は封じられたが、伊賀忍者達は大会屈指の好投手や強打者と対戦しながらも、延長戦や接戦を勝ち抜き、決勝まで駒を進めたのだった。


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