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邪道甲子園  作者: 馬河童
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『対甲賀:九回表』

「よし、いいムードだ。絶対逆転するぞ!」

 ベンチへ戻った伊賀中央ナインは円陣を組む。皆、傷だらけだが、闘志は失っていなかった。

そして2対2の同点で迎えた運命の九回表、打順は二番の学からだ。学は打席に入ろうと向かうが、甲陰高校守備陣はまだ誠児の周りに集まったままだ。ネクストバッターズサークルに入った幸太郎は、その様子をじっと見つめていた。

「なるほどな……」

 何かに納得したかのように一人頷く。気になったのか、才之助と剣蔵が近付いた。

「おい風間、何一人で物知り顔してんだ」

「あいつらも……命懸けのようだな」

「甲賀が?」

 幸太郎が呟くと、才之助が聞き返す。

「うむ。奴らの会話、そのように読み取れる」

「てめえ、忍者してんじゃねえか。俺達は封じといてよ」

「忍術ではないさ、単なる聴力と視力を駆使しているだけだ」

「ちっ……そう来たか」

 剣蔵は舌打ちする。幸太郎の能力が高位にあるのが気に食わない様子だ。

「いずれにしても追い詰められた奴ら、ルール内で何をしでかしてくるかわからんぞ。気を付ける事だ」

 と言うと、幸太郎は気合いを入れて一振りした。それを見て、剣蔵と才之助はベンチに下がった。


 甲陰守備陣が守備位置に就き、ようやく学が打席に入った。学も鬼頭の呼んだ鬼によってバックネットに叩きつけられはしたが、何とかバッティングフォームは保てていた。対する甲賀誠児は、味方の激励で落ち着いたのか、マウンド上で目を瞑って深呼吸をしていた。

 その初球は、「うおおおっ」と吠えながら投げ込んできた。ど真ん中ではあったが、スピードガンは九回にして百五十二キロをマークした。これには球場がどよめく。誠児は腹を括ったのか、同じ球を連投し、学は掠る事も能わず、三振を喫した。


「ここへ来て、覚醒しやがったか」

 伊賀中央ベンチ内、剣蔵が誠児の投球を見て、苦い顔で呟く。

「風間の言う通り、奴らも生死が懸かっているのならば頷けなくもない……」

 才之助が納得顔で言うと、

「なあに、次は太だ。ああいう球には滅法強い。ここはチャンスだ」

 剣蔵はニヤリと笑い、打席に目をやった。


 三番・山嵐太は伊賀者の中で最も丈夫な肉体を持っているだけあり、さすがに鬼にやられたダメージを感じさせなかった。しかし、剣蔵の予想は完全に外れた。雄叫びを揚げながら投げる甲賀誠児の気迫が完全に上回り、直球には自信を持っている筈の太が掠りもしなかった。三球三振で、最後のボールは百五十四キロ出ていた。

「どうだ! これが甲賀の力だ」

 誠児はマウンド上で己れの力を誇示する。これでツーアウト。甲陰高校応援団も大喜びで、より大きな声援を送っていた。


「太が直球に三振……」

 剣蔵もショックを隠せない。

「今の甲賀誠児、確かにそれだけの力がある。悔しいが、手も足も出なかった」

 先程、三振を喫した学が述懐する。

「汚え手ばかり使っていやがったが、切羽詰まって開き直って身体能力が覚醒したかよ」

「この場に関してだけ言えば、上野城の榊に匹敵する球だな」

「イタチの最後っ屁みたいな真似をしやがる……」

「急にこんな球見せられて、果たして風間でも打てるかどうか……」

 ベンチで固唾を飲む伊賀者達に不安が募る。逆転の掛かったこの場面、他流派の幸太郎に全てが託されるのだ。

「心配いらん。奴なら打つ」

 才之助が力強く言う。彼はそのままネクストバッターズサークルへ向かった。


「お前に全て狂わされた……。ここで俺がお前をぶち倒し、甲賀の尊厳を取り戻す!」

 誠児は鬼気迫る表情で幸太郎に向かって宣言する。

「いい表情だな。その最高潮のお前を打ち砕いて、必ず勝つ」

 幸太郎も負けじと気合十分だ。

「ぬかせっ。うおおっ」

 吠えながら勢い込んで投げ込んでくる誠児。速球が外角に決まり、バックスクリーンのスピードガンは百五十四キロを示していた。またも場内が沸く。

 二球目もダイナミックなフォームから速球が繰り出され、外角一杯に入ってツーストライク。幸太郎はあっという間に追い込まれた。


「オイ、風間! 忍術使えよ。このままじゃ打てねえぞ」

 剣蔵がベンチから叫ぶ。一瞬それを見た幸太郎だったが、気にする素振りもなく、再び打席で構え直した。

「オイ、てめえ!」

 剣蔵は再度叫ぶが、プレイが再開し、その声は遮られた。

「あんにゃろう……ここまでお膳立てして、打たんかったらマジで呪う」

「呪う……って、あいつに忍法通じないだろ」

 三つ子の赤太がツッコむ。

「あ……」

「馬鹿な話をしてるんじゃない」

 学が一喝する。

「心配無用だ。剣蔵が一番わかっているだろ。風間は打つ。奴はそういう男だ」

 おかしな事に、先程の才之助に続き、何故か学も幸太郎を信じ切っているのだった。


「打てるものなら、打って……みやがれっ」

 叫びながら誠児が投じた一球は、内角高めに伸び上がる速球だった。ボールはストライクゾーンに入っており、振らなければ三振になってしまう。

「この試合、俺も風魔の素性を明かした時点で負けは許されん。必ず打つ」

 やや遅れ気味ながらも幸太郎は打ちに行く。いや、確かに反応は少し遅かったが、スイングスピードがそれを挽回する速さでボールに追い付く。


 伊賀者は皆、時間が止まったかのようにバットの真芯がボールに衝突するのを見た。打ち抜かれたボールは物凄い勢いで飛んで行き、バックスクリーンに吸い込まれた。

「やりやがったぁ!」

 伊賀者が沸き立つ。スタンドの観衆も試合に勝ったような大騒ぎだ。

「風間、あいつ……化け物か……。あんな球を、それもあそこまで飛ばすかよ」

 剣蔵は嬉しいような悔しいような、どちらとも取り難い表情をする。

「これが……風魔小太郎の力か……」

 伊賀者達もただただ驚嘆するしかなかった。バックスクリーンの球速表示は百五十六キロと出ており、打たれた誠児の責任と言うよりは、打った幸太郎を褒めるしかない一打であった。これで3対2、ついに伊賀中央がリードした。戻って来た幸太郎に伊賀者達が嬉々としてハイタッチする。最後に待っていたのは剣蔵だ。

「ちっ、あんなの見せられたら意地でも抑えるっきゃねえな」

 剣蔵のボヤキに幸太郎は笑みを浮かべ、

「そうでなくては困る。お前に意地になってもらう為にも俺が打たんとな」

 と挑発的な言葉を投げ掛ける。

「見てろよ」

 気持ち良い破裂音を立て、ついに二人がハイタッチを交わした。周りの皆は目を見開いて驚いていた。その内の何人かは笑みを浮かべて、じっと剣蔵を見ている。

「ちっ……。何だよ、お前ら」

 剣蔵は舌打ちすると、バットを持ち、ネクストバッターズサークルへ向かった。この後、打席には才之助を迎えたが、サードライナーに倒れた。

「よし、このまま抑えて勝つぜ!」

 バットをグラブに持ち替え、剣蔵がマウンドへ向かう。負傷の為、足取りは重そうだが、気持ちは上向いているようだった。


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