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「光秀、幸隆、虎高はどう思う?」
「はっ、私は作戦自体には賛成ですが、危険性を考えれば反対です。氏政様の護衛の兵を減らすなどあってはなりませぬ。」
光秀はいつも通りのポーカーフェイスで淡々と意見を述べる。消極的反対。
「ワシはいいと思いますぞ。その代わり氏政様には護衛として1000は付けておくべきじゃと思いますぞ。」
幸隆は賛成。
「ここで耐えるにしても氏政様がここに留まるなら危険性は変わらぬぞ?それならば500の動きやすい数で全速力で氏康様の方に向かい、援軍を少しでも貰って挟撃の形に持ち込むべきかと。」
虎高はむしろ援軍のために俺を駒として動かすようだ。これに対して光秀はポーカーフェイスを崩してキッと睨みつけている。その様子を見て幸隆はニヤニヤとしながら髭を触り、虎高は気にせず俺のことをじっと見つめている。
「では、突撃する方向は挟撃の形になるように東側から河越城と父の方向に向かって突撃 分断して西側に分断した方の軍を包囲殲滅だな。俺は100の兵で全速力で走り抜けよう。護衛は馬廻衆のみでいい。そうだな、光秀は俺のそばに置こう。幸隆が突撃隊の指揮を取れ。義堯虎高はその指示に従いながら敵を打ち破れ!」
光秀は俺のそばに居ると言った瞬間当たり前だと言うように頭を振った。ワンコか!可愛いな。
「義弘 政豊 気張れよ!お前達若者にはこれからの軍を引っ張ってもらわねばな!」
「「はっ!」」
「では!我らは先に父の元へ向かおう!小太郎!案内を頼む!」
「はっ!」
俺は馬廻衆と共に戦場を迂回しながら父の元へと全速力で馬をかけさせた。河越城側に寄らなければ敵に当たることはまずない。俺たちは警戒しつつも速度を出して進んだ。
〜〜〜
「はぁ、殿は我々のことを若いとおっしゃられたが光秀殿や殿は我々よりも若いのだがなあ。」
里見義弘は主人である氏政が馬で駆けていくのを見送りながらポツリと言葉をこぼす。
「そうですな。ですが、その態度がおかしいと思えないほど殿は雰囲気が出ています。なんと言うのでしょうか…そう、一度だけ見たことがある武田信玄のようでした。」
それに答えたのは氏政から直接偏諱をもらった工藤政豊だ。
「まあ、殿はいつもあのような感じだ。年齢に見合わず八幡様のおかげで我々よりも深い叡智を持ちながらも子供のような純真さも併せ持ち、また深い策謀も巡らされる。不思議なお方よ。だが、何故か惹きつけられるものがある。殿の目指す先を見てみたい。どこに行くのか、何をするのか。飽きさせぬお方よ。」
二人の若者の言葉に対して年長者の真田幸隆が腕を組みながら答える。
「ですな。そうでなければ我々はここにはいませぬよ。では、我らも軍列を整えて殿の未来を切り拓きに参るとしましょうぞ。ここで名を轟かせれば北条家の中でずっと語り継がれますぞ?各方準備はよろしいか?」
虎高が周りに問いかける。虎高は槍を掲げ、幸隆は馬に乗り、義弘と政豊は顔に少しの緊張を滲ませ、義堯は悠々としている。
「いざゆかん!目指すは上杉憲政の首よ!者ども!突撃!!!!!!」
うおおおおおおお!
いきなり現れ突撃を敢行してくる北条軍に対して援軍に早く行かなければと意識を割いていた上杉軍は不意を突かれて縦に伸びていた腹を食い破られた。先頭を突き進む虎高の軍は河東の戦いや安房戦いを経験してきた歴戦の常備兵であり敵を圧倒していた。
その後に続くのは幸隆指揮の元変幻自在に動く軍隊だ。横槍を入れようとする敵の弓隊や槍隊を見つけると連弩隊を使い的確に邪魔をする。そして、撃ち漏らした敵兵にとどめを刺していく。突撃しながらこのような細かい事をする幸隆軍は敵味方から恐れられるのは後の話。最後に義堯 義弘の軍が歩兵中心となり分断、包囲を敢行しようとする。
「よし!お前ら!義堯殿達が背後を襲われないように再突撃だ!続けえ!」
虎高は軍の勢いを整えるともう一度、今度は包囲をして内側に対して軍を突撃させる。これによって上杉憲政は分断包囲された軍を助けることもできずに残った兵を纏めて関東諸連合の方に逃げるしかなかった。




