75
「さて、では本題にございますが今回の停戦における条件は不戦、不可侵でどうでございましょうか?こちら側から攻め立てたりはしませぬ。なので北条側も攻めぬ。これから仲良くやっていきませんか?我々は血の繋がりも御座いますれば、これから手を取り上手くやっていけると思いまする。」
ニコニコとした顔でとんでもないことを言い始めるな。
「はて?何か勘違いなされておりませぬか?我々は今すぐにでも今川勢を討ち滅ぼせる立場にございまするぞ?そんなもの必要ございませぬな。」
この返しは分かっていたのか
「で、ございますれば河東地域について北条の土地だと認めまする。起誓文を起こしましょう。そちらは、お膝元が慌ただしくなっている様子、これから手を取り合うであろう我等の仲間に手間を掛けさせたくはございませぬ。これで如何に?」
こちらが関東大蜂起に手を焼いているとでも思っているのだろうか。舐められたものだな。
「それこそ話にならないな。河東地域は既に我々の領土だ。民は今川よりも北条を選んでおる。今回、民達は自分達で今川を追い出そうと戦いたいと言ってきた程だぞ。それにな、我等がここにいようとも父氏康と地黄八幡の綱成が対処する。ご心配いりませぬ。」
少し思案した後に雪斎は
「では、北条としては今川と族滅戦を行いたいと申しておるのでしょうか?」
「そうとは言っておらぬ。」
俺は相手が頭を下げて条件を聞かせてくれと言われるまで焦らしに焦らした。
「はあ、では北条としては何をお望みでしょうか。」
「では申すぞ、今まで述べた条件に加えて用宗までの今川領土の割譲に、今川領土内の関所の撤廃、港を全て北条直轄にする事だ。お主達の命と今川という家の命運を分けると考えれば安いものであろう?」
今川義元以外の面々は、はぁ!?と言った表情で驚き、朝比奈と岡部がこちらを殺すつもりで睨んでくる。
「そのような事受け入れる筈が無かろう!!!!」
「落ち着くのじゃ!話をしているのはワシじゃぞ!」
膝立ちになりかけた岡部元信を朝比奈義能が押さえつけ雪斎が説得する。
「それはいささか、というより大分厳しい条件にございまする。駿府は今川の本拠にございますれば到底受け入れられるものではございませぬ。せめて、興津までの割譲のみでどうにかなりませぬか?」
雪斎は一度も義元に確認を取らず、チラリとも見ていない、つまりは興津までの割譲は許容範囲内なのだろうな。だがそれでは面白くない。対外に対する面目としては十分に立つラインだし、どちらにも禍根を残さない良い条件だと思うが俺はそうは思わない。取れる所は遠慮なく取らせてもらう。
「では、興津までとは言いませぬ。由比寺尾までを我が領土として認めて頂きます。また、港に関しては我等にも利用させていただければ結構。勿論軍船は送りませぬ。我等は商売、利を大事にしておりまするので港の使用権と船の積荷に関する免税、それに合わせて北条と今川で割符を作り、それを持たせた商人に対する免税をお願いします。勿論荷物検査は受けましょう。変なモノを領内に入れたくないでございましょうからな。」
初めてここで雪斎が義元の方を見た。ここまでは事前に話し合ってきておらず、今決めなければならない事なのだろう。そして初めて交渉に関して義元が口を開いた。
「まず、領地に関してはそれでよかろう。港に関しての使用権も許可をする。だが全てを免税する事は無理だ。そのようなことをすれば我等の商人が困ることになるのでな。彼等を庇護するためにもそれは受け入れられない。」
落ち着いた様子でゆったりと声を出すが威圧感に溢れている。
「ふむ、ではどこの国か分からぬ海賊衆が現れても我等は助けられませぬかもな。我が領内では悉く海賊を撃退致しましたので、その流れ者が今川に行くかも知れませぬ。しかし、港を使わせて免税して貰えぬとなれば我等の後始末をすることも叶わないのですが、如何に?」
免税しないとお前らの領地は荒らしまくるけどいいの?ねえねえいいの?
「…港に関する免税は受け入れよう。しかし、それは積み込む荷に関してのみだ。それと下ろす荷物には流石に検めさせてもらう。船の中身は機密だらけだろうから中に人を入れる事はしない。これでどうだ?」
「はい、港に関してはそれでよろしいです。では陸上の方に関してはどのようにしていただけるので?」




