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真田殿が知略を巡らせあの、天下無双の軍と言われる武田軍を押し返している。その撤退を助けるために外にいた今川軍から猛将である岡部親綱であろう大将が1000程を率いて周りを固めているのが風魔から伝えられる。
「工藤殿、震えているのならば変わってもよろしいですぞ?」
「なんの、これは武者震いにございまする。ご安心なされよ。」
今回の羽鮒城に配属された仲間である里見義弘殿が声をかけてくる。彼は安房の英雄里見義堯殿の息子で父親に劣らぬ武勇を持っており氏政様からも期待されている将の一人だ。難点としては部隊の指揮に関する経験の未熟度と言われているが我らと学校に通い、疑似合戦や今回の防衛戦で着実にその欠点をなくしてきている。
「なに、工藤殿であれば今川なぞ蹴散らせられると思いますぞ。我もすぐに追いつきまする。存分に活躍なされよ。」
「かたじけない。だが、追いつけぬほどに我は先に進む所存でござる。負けぬでござるよ?」
二人で笑いながら会話をする、里見殿は緊張している俺に対して気配りをしてくれたのであろう。正直に言って身体が強張っていたのが解れていく気分だ。
「では、そろそろ向かいまする。帰ってくる頃には将の首を持って帰ってきますので、帰る場所を整えて置いてくだされ。頼みまするぞ。」
「任された。我もここで活躍して工藤殿が何もする必要がないほど武田軍を追い詰めてやりまする。また後ほど。」
二人とも目線をスッと反対側に向け、背中合わせに政豊は外に義弘は城内へと向かっていく。義弘は既にすることがほぼなかったが槍隊を率いて逃げようとする武田軍へと猛攻になりすぎないように攻撃をし続ける。
そうすることで死守するよりも撤退しよう、撤退できると希望を持たせるのだ。これによって武田軍は守り切る役割である殿が自分たちも逃げたいと思いやや、不利を背負っていた。結果武田軍の被害は増大、負傷者が増えていく事となる。
政豊は裏門を開け放ち自ら先頭により、信頼のおける騎馬隊の優秀な部下たちを周りに従え撤退を支援している今川隊へと突っ込んで行く。
「狙うは敵の指揮官だ!雑兵達を食い破り敵の将の首までの道を貫け!!!行くぞ!!!」
「「「応!!!」」」
手綱を、しっかりと握り締め突撃の体勢を整える。訳ではなく、北条で改良された短く折り畳みができる持ち運びのしやすい弩を取り出し敵から付かず離れずの距離まで近づき斜行列を組む。
「遠距離攻撃始め!!!前列と後列で交互に放て!!!」
氏政様が提案して技術街の連中が実験的に作った折り畳み型の連弩は馬上射撃が上手いものに試験的に渡されており五発まで撃つことができる。
彼らが確実に部隊をまとめているであろうものを狙い撃ちにしていく。大将首を狙うことはできなさそうだがその周りにいるであろう馬周り衆や雑兵の指揮官達は次々に負傷を負う。相手も弓矢で反撃を試みているが散発的でこちらの負傷者はほぼいない。また、こちらが丘上にいる事もあり届いていない。
「よし!敵の陣が緩み始めたぞ!」
突撃!と声をかけようとした時相手の今川軍がこちらに向かって突撃を敢行してきた。
「相手は決死の突撃をしてきているが歩兵中心だ!狼狽えるな!!迂回しつつ相手の勢いを削ぎ横腹を食い破るぞ!」
俺の命令を周りの伝達兵が声を上げながら周りに簡潔に伝えていく。俺たちはすぐに動き始め突撃の方向から逃れる。馬の機動力があれば歩兵の突撃なぞ簡単に避けられた。
しかし、相手は歴戦の猛将 岡部親綱、それを読んでいたのだろう迂回先にも別働隊が待ち構えておりこちらの突撃隊が俺を含め半分ほど止められてしまった。
残りの半分は副隊長が率いて再突撃の構えを取ってくれる筈だ。俺たちはここで耐えきれば勝てる。
「気張れ!今川の弱兵なぞ我らの相手ではない!恐るるに足らずだ!」
周りの不安を取り除くため堂々とした姿を周りの兵達に見せつける。それに勇気付けられてくれたのだろう皆が声を上げながら周りの兵をどんどんと討ち取っていく。我らの兵は氏政様が直々に考えられた訓練によって整えられた常備兵だ。そこらの農民に負けることはない。
そう安心していた時に相手の大将が率いる突撃隊がこちらに向かって再度向かってきていた。
「我は今川軍の岡部親綱である!飛び道具を使いちまちまと攻撃するその性根を叩き切ってやる!いざ尋常に勝負!」




