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「狼狽えるな!穴を避けて進め!後ろの列にいるものは槍か何かで歩く先を確かめながら進むのだ!!!」
簡易的だがトントンと地面を叩きながら進む。このせいで遅い歩みがさらに遅くなった。だがもう少しなのだ。これで武田軍の勝利を御屋形様に献上できる。そうすればこれからの交渉で有利に立てるだろう。それに急速に強くなった北条軍を破った事は大きな意味を持つ。
そう皮算用をしていると北条軍が先ほどとは打って変わり激しい攻撃をしてきた。投石はもちろん弓矢を上から曲射してきており、普通の盾持ちを使い傘に使い、天雷の武器に耐えるために特製の盾を地面にしっかりと突き刺し耐えるしかない。だが、こちらには大した被害もなく進めている。概ね順調と言えるだろう。
ドドドドッ
遠くから馬蹄の音が鳴り響く。
「皆のもの騎馬に警戒せよ!敵がくるぞ!上からの攻撃は気にせずとも良い!槍隊構えよ!」
信繁はそれだけで敵の行動を予想し軍を動かす。現在の状況であればまず敵の遠距離攻撃が来る事はない。というのも馬が突撃してくるなら天雷の武器の方から来るため相手も迂闊に攻撃はできないはずだ。
そう考えて身構えるが相手は攻撃をやめない。どういう事だ?と怪しく思っているとどんどんと馬蹄の音は小さくなっていきついに聞こえなくなった。
「まずいぞ!撤退だ!後ろの今川軍に奇襲を仕掛けられる!」
「お待ちくだされ!お味方は3000でございまする!ここは我らが敵の主力を抑える事で今川軍の援護をするべきでござる!」
部下が進言してくる。
「馬鹿者!あの頑強な建物に何人の兵が居ると思う?それに!あいつらはあの位置から外にも攻撃できるのだぞ!つまりは我らがここにいても今川の援護にはならんという事だ!戻れ!」
信繁の指摘は正しかった。天雷の武器の攻撃はまだ続いていたが投石や弓矢の攻撃はさっぱりと来なくなったのだ。その代わりに後ろで激しい戦闘が行われている気配がある。
「いくまで持ちこたえてくれ…」
信繁個人としては今川隊がどうなろうと構わないが、武田軍の帰り道が無くなるのは困る。自分たちが逃げるまでは耐えてもらわねば困るのであった。
〜今川隊〜
朝比奈泰能が丁度伝令から援軍の要請を受けていた頃、岡部親綱が部隊の準備をしていた。
「よし!今から武田軍の後詰として城内へと侵入する!露払いは武田軍がしてくれているはずだ!我らは突き進むのみぞ!!!進めい!」
意気揚々と軍を進めようと縦長になりながら堀を越えて取りつこうとすると丁度投石や弓矢が再開されたようでこちらにまで攻撃が届いている。
「武田軍を無視してこちらに攻撃しはじめたか!だがしかし!それだけ敵も焦っているという事!今が畳み掛ける時ぞ!」
親綱は典型的な猪突猛進の猛将タイプの人間だ。そんな彼に長年付き添い戦場を渡り歩いてきた足軽達は似たような攻撃的な人間が多く被害を受けながらも突き進もうとする。
しかし、そこで裏側から回ってきていた北条軍の別働隊が縦長になり今か今かと梯子を渡ろうとしている場所から少し離れた奥の方を騎馬隊で突撃していく。
「前にいるものは急いで中に入れ!残りのものは盾と槍を用意しろ!ここで奴らを食い破りこの勝利をもぎ取るぞ!」
岡部の声に兵達はおう!っと答え気合を入れる。武田も今川も勝利を疑っておらず、今川はどちらがこの城を落とした後の主導権を握るかしか考えていなかった。
しかし、そんな甘い考えを許すはずもなく別働隊でかき乱しにきた将であろう若い男が後方の今川隊に向けてもう一度突撃を仕掛ける素振りを見せる。こちらもタダでやられる訳にはいかないと守りを固めるが北条軍はこちらに突撃してくる事なく手元から弩を取り出しこちらに攻撃をしてくる。
「なんだと!?奴らは騎馬で突撃してこぬとは腑抜けめ!!!武士の風上にもおけぬわ!」
親綱は対応に遅れ、騎馬隊からの弓を盾の隙間や盾自体を突き破りどんどんと被害を拡大させていく。と言っても北条軍は散発的な攻撃で大きな被害にはならなかった。だが、無視できる損害でも無さそうなのは確かだ。
「今梯子を守っている隊以外は突撃準備だ!卑怯者めの北条へと本当の戰というものを教えてやるぞ!」
騎馬隊を持たないにも関わらず、敵の騎馬隊が山を背にしているという理由で損害無視の突撃を敢行しようとする。それを咎める人物は今最後方で退路を守っている。
「突撃いい!!!!!」
鬨の声を上げながら進む今川軍に驚きながらも敵の北条軍は慌てる事なくこちらの突撃をかわそうと迂回していく、それを予想していた岡部は後方に残しておいた本体で右後方から迂回しようとする騎馬隊の進行方向を邪魔する。
だが騎馬と歩兵では突破力と防御力の差が大きく半分ほどの騎馬隊に抜けられたが敵の将であろう男を止めることができた。
「我は今川軍の岡部親綱である!飛び道具を使いちまちまと攻撃するその性根を叩き切ってやる!いざ尋常に勝負!」




