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キャラック船を小田原の湊につけるのは無理なので、下田湊に船をつけてそこから護送する。一応逃げられないように身包みを剥いだ状態にはしてあるが、手を縛る以外何もしていない。
ご飯も食べさせているし、何より里見義堯本人が俺の言うことに粛々と従っている為、配下の者達も言うことに従っている。
正木時茂と時忠に関してはこちらの軍門に降りそうな雰囲気はある。元々の史実でもこちら側に寝返っているし、忠誠心はあるが損得勘定を大切にしているのだろう。と言うのも彼らも元々は三浦氏の一族であり、一世代前に分かれて安房に移り住んだばかりだからだ。
そのため安房に土着し切っていないのだろう。それに加えて里見義堯の息子の義弘は覚悟が決まっていた。父親が腹を切ると思い切っているので、下手に出てしっかりと頭を下げてきた。北条の下で里見家を再興するしかないと考えていたようだ。もしかすると義堯から何か聞いていたのかもしれない。
俺たちと戦う前にもう万喜城が落とされ、安房の本拠地も取られた。戦う意識とは別にどこかで家名を残すことも考えた？強かだなあ。そして、戦った結果でもあると思うが、俺みたいなガキに対して素直に頭を下げて、「これからお引き立ての程をよろしくお願いします」と言える。泥水を啜れる男なのだ、里見義弘は。いいな。
これなら小田原に着いた後、臣従に対して反対意見もあるかもしれないが、俺が収め切ってやる。こいつらを死なせる訳には行かない。
話は変わって千葉氏と真里谷氏に関しての事だ。真里谷はもう内側もボロボロで、庇護が無ければ生きていけないのは分かりきっていたようで、こちらから切り出す前に向こうから配下に組み込んで欲しいと頭を下げてきた。
なので俺は、土地の統治権を手放し、北条の内政を導入すること、税や検地なども北条の文官の下で言う通りに従い、粛々と行うこと。文官として働きたい者は実地研修を受けて、育ったら真里谷に戻すかどこかに配置されること。
武官は、伊豆訓練所で将官訓練を受けて指揮などを学び、各戦線に配置されること。その上で才ある者は出自が大名だったとか、その家臣だったとか関係なく、実力に応じた規模の軍の指揮を任せる事を伝えた。
真里谷はこの条件を飲んだため、安房に送り込む予定だった人員の幾人かを割いて、真里谷の文官志望と共に統治をさせている。
武官志望の者は軍事訓練場にポイだ。韮山場での軍事学校と常備兵訓練所に放り込んでいる。
次に千葉氏だが、こちらは未だに大きな勢力を誇っているものの、今回の戦で人員を大きく減らしてしまった。だが、利点として安房方面を気にせずとも良くなった為、気にするのは北の佐竹、小田、上杉になり、佐竹、小田の常陸方面は守りやすいこともあって大分気が楽になっている。
そのせいで向こうは今後どうするか迷っているようだ。原一派が主張する北条の庇護下で出世するべきという考えと、千葉当主一派の千葉は独立したまま北条と対等の立場で協力すべきだという意見だ。
とりあえずは今回の援軍に関する褒美を貰ってから考えようということで、千葉家当主と原親子が小田原行きについてきて、息子が今は千葉の本拠地に詰めている状態だ。
だが、ここで前から仕込んでおいた、原親子が千葉家から離反して北条家に鞍替えするという選択により、千葉も北条に臣従するしかないという状況に追い込むつもりだ。
何はともあれ、暑い夏の中に死体処理をするハメにならなくてよかった。6月初めの今ならばまだ何とかなるし、来年の今川の河東侵攻にも対応できる。安房、上総、下総の千葉方面の軍はどうせ動かせないだろうから来年で基盤を安定させ、北条の統治に慣れさせる。そして農業を効率化した分、人が余るからその人員を今年中に集められるだけ集めて常備兵化させなければな。
千葉方面の文官をまとめる面々と、武官訓練所を久留里城に、海軍訓練場を館山に作らせないとなあ。領地を手に入れるのは後々の国力増強に繋がるが、短期的な目で見ると出費の増加にしかならないため、今まで貯めていた金銭や農作業道具、人員がごっそり伊豆から抜ける為少し不安だ。
風魔にはあのまま千葉方面に残して、元から作っていた北条防諜網を強化してもらっている。俺たちの鉄砲や農具などが千葉方面で流出したら笑えないからな。
