299 氏政の憂鬱
299 氏政の憂鬱
1554年8月 北条氏政
今日も変わらず上がってくる決裁を取りまとめ日々の報告書を確認して押印をする日々。全くもって平和だ。
関東地方を全て手中に収めたことで関東経済圏が確立、食料自給率も人も足りている事から領内では空前の開墾出産ラッシュが起きている。
使用できる兵は北条単独で10万を超えるだろう。実際に運用すればその皺寄せでエライ目に合うのは確定しているだろうが、必要な銭も兵糧もある。
そして、そのような状況で内紛を起こそうとする奴や動こうとする愚かな敵は周囲にはいない。
上杉は付かず離れず、武田織田は良好な部類だろう。東北に関しては…ようわからん。東北は東北の枠組みでドロドロしていて風魔にも探らせているが複雑怪奇也って感じだ。
次の目標としては北海道の開拓を推し進める事と東北を平定する事だろう。
となると、蘆名を足がかりにして…。
官位もまだまだ有効な鎌倉の世界みたいな所だ。官位を上げることも考えるべきかな?
「殿、何を呆けているのですか?手を動かしてください。手を。」
俺に対して物怖じせずに言うようになったのは秀吉だ。元々の愛嬌の良さと的確な内容でグゥの音も出ない。
「分かっておるわ。」
秀吉も内務として今はそばに仕えているが戦となれば軍の指揮を取れるように訓練も続けている。
この前行われた軍事演習大会では、自ら1隊を率いて敵の本陣を突き崩していた。
「する事はあるのに、しなければならないことが無いというのも苦痛だと思ってな。」
「は?あなた様のしなければならない事は私の机の前に山ほどあるのですが、それは如何に?」
今日の秀吉はデスマーチ気味になっていて少々気が立っているようだ。
「こう、領内の仕置きが大切なのもわかるしまだまだ手が届いていないところが多いのも分かっているのだが明確な目標がないとやる気がなぁ…」
「氏康様から全権委任されて統治をしなければならないという時点でそのようなことを考える余裕はないと思うのですが…?」
秀吉が何を言っているんだこいつというような雰囲気で絶句してこちらを見ている。
「いや、考えてもみろ。上野下野、武蔵の半分は光秀が見てくれる。駿河の一部と伊豆、相模は父と綱成叔父上、幻庵が詰めている。常陸は佐竹が実質的な家臣として纏めているし、下総上総安房は義堯が取り仕切っている。軍事面も虎実を筆頭に秀吉も含めて才能豊かな面々が控えているのだぞ?皆から上がってくる報告書を確認して方針に照らし合わせて指示を適宜入れるだけだ。暇だ。」
そう、俺は暇なのである。若い時、今もまだ若いが、周りの勢力をどうにかしようと働き詰めていたせいで日常生活が手持ち無沙汰と感じてしまうようなワーカーホリックとなってしまっていた。
勿論、正味10カ国程の統治をするのだから片手間にできることではないが、しっかりとした統治機構を制度化し回している今となっては何か問題が起きても解決した上で報告が上がってくるだけだ。
「あ〜何か起こってくれないかな?」
阿呆なことを言っていたら秀吉に睨まれたので粛々と机に向かうことにした。




