297 龍vs虎
297龍vs虎
信玄が前もって用意していた槍隊に加え、以心伝心、鏡写しとも言える名将信繁によって上杉実虎の突撃は食い止められていた。
「くそっ!死ぬ気で守るのだ!ここが抜かれれば国が落ちるぞ!我々が長年かけて手に入れた信濃を外者に奪われてなるものか!踏ん張れ!」
赤備えは育成に時間をかけており忠誠心もそれ相応に高く仕込まれている。その心を奮い立たせるように信繁は喝を入れる。
その声に応えるように赤備え達は声をあげながら槍を突き刺し、引き、また突き刺す。
腕が既に錘のように重くこのまま倒れ込めればどれほど気持ちいいことだろうと甘えた気持ちに負けそうになりながらも今までの栄光や厳しい訓練を思い出し耐える。
事実だけで見れば失敗に終わっている様だったが実情は痛み分けと言ったところであった。赤備えを率いて守っているにもかかわらず既に槍兵は半壊していた。
最初の突撃によって500もいた槍兵は450まで数を減らしていた。その後もとめどない突撃や一度左右に分かれて逃げた騎兵が歩歩兵として突撃してきたりなど猛攻によって負傷者が多数出ていた。
「抜けっ!ここさえ抜ければ信玄の首を取れるぞ!そうすれば我々の勝ちだ!赤備えを打ち滅ぼしお主達の力を!武者ぶりを証明するのだ!命を捨てよっ!」
実虎も自分に似た戦狂い達を鼓舞してなんとしてでも信繁の守りを抜こうとする。
その猛攻によって上杉実虎突撃隊は全体の数1500の内1000を負傷者多数で失っていた。
結局は兵同士の戦いに終始し龍虎があいまみえることはこの戦ではなかった。
「…引けぇい!」
死兵として狂ったように突撃をしていた上杉兵は大将たる上杉実虎の命を受けると粛々と引いて行った。
「…追わなくても良い!守りを固めることに集中せよ!前線の昌景達も下がるように指示を出せ!敵が下がっても追うなとな!」
信玄も追わせるようなことはせずに本陣を固めることに注力していた。
両者共に思うところがあって引き下がっていた。
「此度の戦はあのお方の欲を満たす事はできたのであろうか…。皆に伝えよ!戦じまいをせよとな!」
それを見た直江は潮時だと思い突っ込ませていた先陣たちを救出するように軍を動かし撤退すると残った無事な軍を小島弥太郎が突っ込んだ方向に援軍を送り御屋形様の逃げ道を作った。
「御屋形様をお迎えに向かうぞ!死にたがりども!我らの大将へと向かうのだ!」
弥太郎はその動きを察知する前から主人である実虎の元に向かい合流していた。直江が作った道を朧げながら捉えると自らがまた先陣を切り活路を作り出し両軍が睨み合う形を再度作り出した。




