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「順次弾を込め次第発砲するのだ!敵をこちらは近づけさせるな!」
「敵は盾を使用して無理矢理こちらに突っ込もうとしてきます!」
「長槍隊の攻撃範囲に入ったら振り下ろさせろ!それに合わせて鉄砲隊も射撃!横と縦で敵の意識を揺さぶれ!」
義弘達が戦い始めて既に1刻以上の時が経った。最初、敵は取り付く事は全く出来なかったどこの戦場でも最初は驚き戸惑っていたからだ。しかし、半刻程経つと従来の盾よりも強い盾を持ってきており少なくない犠牲を出しながらもこちらへの距離を少しずつ確実に詰めてきていた。
「長槍隊!ふりおろせい!!!!槍隊は縦の間から正面の敵を牽制しろ!盾隊を守るのだ!盾隊は絶対に抜かれるなよ!」
義弘自身が声を張り上げながら周りに指示を出していく。それを聞いた伝達兵が復唱する。そして、小隊長格の男達がそれを聞いて兵を動かし敵に柔軟に対応していく。道の幅などによる地形的有利や陣形の差、守る側ということもあり敵の猛攻をほぼ完璧な形で凌ぎ切っていた。
「敵!引いていきます!」
相手の損害も馬鹿に出来ないほどにボロボロになっていた。相手の指揮官は素早く周りの兵を纏めると整然と撤退を開始した。ここで義弘は追うかどうか迷ったが、追って手痛い反撃を食らった時の危険性を考えてここは待機を命じた。
もし、ここで疲れ切っていた兵を使って追撃戦でもしようものなら敵が後方で休ませていた予備部隊が出てきてそれこそこちらが窮地に陥るくらいの被害を出していただろう。里見義弘は若き猛将ながらも古強者のような老練な知略を巡らせていた。この戦いと判断が伝わり里見義弘の名前はさらに広まることになるのだった。
「親父、後は任せたぞ。」
里見義弘は父 里見義堯から戦前に助言を受けていた。それによって若くして老練な判断が下せたのだ。
「義弘、お前ならば敵を食い止める事は造作もないだろう。だが、窮鼠猫を噛むと言う言葉がある通り追い詰めすぎると敵は何をしでかすかわからない。行けると思った時ほど立ち止まって周りの兵の様子や敵との数の差、などを考えて立ち回るのだ。今のお主ならばできるはずだ。生き延びろよ。」
という言葉が送られたそうだ。
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北条 氏政
「殿!敵の別働隊(右翼)が橋の方に向かっております!数は5000ほど!こちらの兵で止めるのは難しいかと!」
やはり考える事は同じか!ここの橋をとられれば援軍はおろかこちらの騎兵隊の帰り道がなくなることになる。出来るだけ橋を落としたくは無いのだが…
「伝令!河越城前陣地にて完全に乱戦が始まりました!左翼の騎馬隊は鉄砲隊が抑えているものの、こちらの鉄砲隊も下手に動けずに機能不全を起こしているとのこと!」
次々に嫌な情報が入ってくる。ここでまごつく方が手痛いしっぺ返しとなって戻ってくる可能性が高い。
「砲兵に命じて橋を落とさせろ!しかし、敵が橋を押さえるまでは待つのだ!敵の半数が渡った頃を狙って橋とその先を狙って撃つのだ!」
「ははっ!」
「左翼前線に有効射を行う!鉄砲隊を移動させる準備をしておけ!」
「はっ!」
舐めるなよ、こちら側が危険を恐れて万が一がないように射撃してきたが伊豆軍の熟練の砲兵が揃っている今ならばほぼ9割以上の精度を保って有効射を行えるのだ。そのかわり一射毎の間隔はものすごく長くなってしまう。本当に注意して注意して何度も確認を行ってするためだ。普段はこのような使い方しても意味がないからやらないが既に砲撃が意味をなさない場面に来ている。
それならばやってみる価値は十二分にある。その上、敵が射程と精度を見誤ってくれれば更に前線の負担は減る。うまくいけば左翼の騎馬隊は下がるか壊滅するだろう。そうすれば元から予定していたよりも大幅な半包囲が可能になる。




