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「わかった、私もそれは考えていた事だ。小弓公方と戦った時もそうだったが奴らは鎌倉時代の戦い方を続ける古くさい奴らだ。弓を使う時も横一列でただ打つだけの頭の悪いやり方だった。それを考えると何か不自然ではあるのは確かなのだ。」
「だからこそ、我々が横を突きその策略を壊しましょう!我々ならばできるはずにございます。」
工藤政豊が喝を入れるかのように声を上げる。
「ああ、そうだな。そう言えばお主のことを氏政様が心配しておったぞ?あまり焦る事はないとな。」
政豊はポカンとした後、思い当たる節があるのだろう。顔をそっと視線から外すように横に向ける。
「義弘殿は確かに能力が高い、このまま行けば義堯殿にも負けないほどになるだろう。」
その言葉を聞いて悔しそうに政豊は手を握りこむ。
「しかし!お主もまた我に負けぬほどの剛の者になれる可能性は十分にある。それはワシが保証してやろう。だからこそ今焦るべきではない。軍学校でも学んだであろう。全ては基礎をしっかりと固め自分の地力を上げる。その上で冷静に物事を判断して勝てるべき戦を用意して勝つべき戦に勝つのだ。
お主は基礎 応用どれをとっても義弘殿には負けておらぬ。多分だが氏政様は政豊殿が河東で上げた手柄に負けぬように義弘殿に今回任せたのであろう。だからお主はまた差をつけれるように我にしっかりとついてきて手柄を上げるのだ。」
政豊はその言葉を噛み締めるように何度も頷いて納得したようだ。
「ありがとうございまする。私自身も人に言われてやっと落ち着いて物事を考えられるようになったでござる。確かに河東のことを考えればまだまだ負けていませぬ。それに義弘殿の事を強く意識し過ぎるあまりに大切な事を忘れるところでした。」
「それが今わかっていれば上々よ、ここには我も幸隆殿もいる。何かあれば頼るといい。」
「はっ!」
丁度話を終えた頃我々も自分たちの馬のところに着いた。
「騎馬隊の準備はどうだ?すでに出られる状態か?」
厩舎の管理をしている者達に聞いてみる。
「はい、既に8割以上の兵が出発待機をしております。残りの2割も順次出発可能になりまする。」
「では!我々は先に出発する!裏門を開け!」
ワシの言葉に合わせて騎馬隊の面々が馬に乗り裏門から出て行く。我々は先団の真ん中で馬を走らせた。
〜〜〜
光秀 虎高 義弘 義堯
「義堯殿には歩兵隊の半分を任せまする、私は左翼を義堯殿には右翼をお任せしたい。」
虎高は今回鶴翼の陣を敷くに当たって難点となる遠いところへの伝達をカバーする為に義堯に反対を任せるつもりであった。
「わかりました。お任せくだされ。」
「正木一族には鶴翼の陣を敷いた後の分断包囲した側を任せる。我々は他の敵が入ってこない様にするのでそのまますぐに殲滅し援軍に入ってほしい。」
「「ははっ!」」
「我々鉄砲隊も援護に入りまするが包囲の方は如何ともし難いものがありますれば…」
鉄砲隊を包囲している敵に使えば反対側にいる味方にも当たる可能性がある。
「なに、大丈夫ですよ。こちら側で何とかします。」
「それよりも黒鍬隊を使って防壁陣を組み立てるのがこんなに早いとは…流石氏政様直轄の軍にございますな。」
「ええ、彼らは今では後方支援の部隊として戦場で戦う事はないですが昔は前線を張ってきた強者達です。この戦の大切さも分かっているのでしょう。いつも以上に頑張ってくれています。」
光秀は今回敵が来るまでの間に鶴翼の陣を敷く予定のラインにある程度の間隔を空けて馬防柵とその数メートル前方に穴を掘らせていた。その穴を掘る際にできた土で簡易的に馬防柵の後ろに立ち台をつくる。
馬防柵と落とし穴を置く事で守りやすくし、ラインが乱れない様にする。そして、その後方の盛り土を使う事で簡易的な壁にして鉄砲隊の被害を抑えながら撃つ係以外の者達の鎧を可能な限り脱がせ速度を出せる様にしていた。
そうする事で即時的な射撃ができる様にしているのだ。難点はその場で何回も撃つことができないことだが、今回の戦線は広い為すぐに移動すればそこまで問題にはならない。




