ISEKAI LABO
場所はさらに変わる。
またもやとある森の中。位置的には風祭晋平が降り立った場所に近しい。が、彼が降り立ったところと、とある王国を挟んで反対側に位置していた。
そこに、あまりに似つかわしくない白い建物が一つ、鎮座していた。否。鎮座というにはあまりにも……動きすぎている。
直方体、大きさにして12畳ほどの小さな建物である。外観は真っ白で、窓ひとつもない。豆腐のような建築物。
しかしその下部……底面には、巨大なキャタピラが一対、接続されている。
そのために、自走できるのである。
「いやじゃァーーーーーーーッッッ!ネオ・トーキョーに帰りたァーーーーーい!!!!」
内部から大声が響く。老獪な口調とは裏腹に、その声は少年のもののようであった。
ここで、黒い影が上空からしゅた、っと降り立つ。
黒のニンジャ装束。はためく帯。ハンゾーの登場である!
ハンゾーは豆腐ハウスの上部に着地すると、そこにあるハッチから内部に入った。
豆腐ハウスの内部は、実験器具がひしめき合う、研究室のようであった。旋盤機械に似たもの、蒸留器具に似たもの、さまざまな分野の器具が置いてあるのから察するに、器具のうち一つ……解剖台に向かって立っている少年らしき人物は、ただものではないことが窺い知れる。
「博士……今度は何をしておられるか」
「お?おお!ハンゾー!お帰りなのじゃ〜」
博士と呼ばれた少年……名前をヒラガと言う……は、ハンゾーに向き直り、挨拶した。
「して、調査のほどはどうであるか?」
「うむ……やはり博士の論通り、この辺りで魔獣が凶暴化しているものだと思われ」
「なるほどのぅ……それの原因究明が急がれるところじゃのう」
と、いったところでまた、ヒラガは解剖台へ向かう。
そこには、……あまりにグロテスクなので描写は控えるけれども、オオカミらしき生物を解剖した跡が未だ残っていた。
「しかしの、わしも魔獣とやらの死体を捕らえてみたのじゃが……
何これ!?なんで内臓配置から筋肉構造に至るまで他の生物と同じなんじゃ!?わしはこの世界に降り立って様々な生物を解剖したよ!?犬も猫も蛙も鳥も、なんだったらドナー提供してくれた老人の死体だって解剖したよ!?でもおかしいのじゃ!魔法エネルギーとかいう未知すぎるものを産む器官がどっかにないとおかしい!だって動物でも使えるってことは器具依存じゃないんだから!
……くそぅ、絶対に何か重要なところを見逃しておる……わしを前にしてなんじゃこの謎……血圧が上がりよるわァ……」
早口でまくしたてたのちに、またせっせと解剖を始める。ぶつぶつと、……帰りたい……こんな血圧が上がる世界に来るんじゃなかった……などと、小言を言いながら。
「博士ェ、ネオ・トーキョーに戻る手立ては見つかったかァ?」
ハッチから低い声。続いて、
「まず無理でしょう。この世界の魔力とやらが原因でゲートに不調をきたしているのですから。」
と、諭す声。
ハッチの方を見てみると、デストロイと晋平が、それぞれ顔を覗かせていた。
「おお!二人とも戻ったか!」
「博士ェ、やっぱり人型の魔獣もダメだ、いかれてやがる」
「機械もです。どうやら、魔力を元とする生物や大型機械は、軒並みやられているようで」
二人が報告のために降りてくる。
さらに晋平は、付け足すように言った。
「……どうやら、この世界では現在、『魔力の奔流』なるものが生まれているようです。それが太陽フレアと似た症状……魔導機械の不調や、生物の異常行動につながっているのかと」
それを聞くや否や、ヒラガの目の色が変わった。
「ふむゥ?魔力の奔流……魔法エネルギーの過剰放出か?その原因が突き止められれば、あれも治るやもしれぬなァ」
ヒラガは研究室の中央にある、壊れた機械を指さした。
それは得体の知れない、全く怪しい、ドーム型をした、小型の機械であった。