GUARDIAN MACHINE
時間は少し下る。昼過ぎ、日本時間にしておよそ一時ごろ。
商隊からはぐれたのか、積荷をいっぱいにした馬車が山道を降りる途中だった。
見た目からもおっとりした女性が、その馬車を制御している。その顔はどこか不安げで、あたりを警戒しているようにも見える。……
その理由が、この瞬間にわかるだろう。
馬車の周りが騒がしくなる。茂みのガサガサ言う音が、徐々に大きくなっていく。
女性の不安げな顔が、段々と絶望を確信した顔に変わる。血の気が引き、青ざめていく。
そして木々の間で、金属のような物が煌めいた。その時である。
バシュン!と音がする。
女性の鼻を、一筋の光線がかすめた。
「ぅえっ……!?」
突然の鼻先の熱に、女性は驚く。正直言って、山賊か何かだと思っていた。だが、違うらしい。そのことに思慮が行くと、女性はさらに絶望の色を濃くした。
この森の奥に、古代遺跡があることを思い出したためだ。
となると。まさか、山賊が「奴」を起こしてしまったのか?そうであるなら……
まとまらない思考が渦を描く。そうこうしているうちに、光線を放った主が、森の中から姿を現した。
森の木々と同じくらいの巨体が、茂みから体を起こすようにしてこちらに向かってくる。動きは鈍重だが、それゆえに力強さを感じさせる。
どしん、どしん……音を立てながら歩く足は、山賊を引きずっている腕は、光線を放ったと思しき、未だ熱を帯びている頭部は、どれも機械仕掛けであり、歯車の音があたりに絶え間なく鳴り響いている。
「守り神様っ!」
女性は安堵した。この機械は、守り神と呼ばれている。
どう言うわけか、自分や、人に殺意を向けたものしか襲わないからだ。
「ありがとうございます!助けていただいて……
その、守り神様がいなければ、今頃どうなっていたことか……」
山賊を攻撃したのも、女性に殺意を向けていたためだろう。
そう、女性は思っていた。
だが。
バシュン!
「……え?」
光線の音が鳴る。
光線は女性の頬を掠め、積み荷に火をつけた。
「ど、どうして?守り神様……」
怯えこそすれ、この森の中で誰かに殺意を向けた覚えなど、女性にはない。
しかし守り神は、確実に女性に狙いをつけている。
見よ。またレーザーが再充填されている。次は外すまい。留め具が焼き切れた馬車馬は、一心不乱に逃げ出した。
「あ、ああ、あああ……」
女性の顔が、また絶望に歪んだ。