GOBLIN RAID
時を同じくして、とある村があった。
農村である。いつもはのどかなこの村に、今日は叫び声が響き渡っていた。
「なっ、なんでぇっ!この村にゴブリンがぁっ!?」
とある女性が叫ぶ。その視線の先にいるのは、醜い小柄の人型。
体毛が一本もないその体は、子供ほどの大きさをしている。しかし筋張った体からは並々ならぬ力強さを想起させられる。緑色の体から突き出した鼻はできもののようなものに覆われており、歯並びは悪く、目つきは鋭い。
しかし、彼らが忌み嫌われているのは外見ではなく、その生態にあった。
ゴブリンはメスを持たない。オスのみの種族である。なぜか?それは彼らが魔法生物━━魔獣だからである。彼らは他の種族のオスに、長であるゴブリンシャーマンが魔術をかけることでのみ繁殖が可能である。
そのため、男は連れ去る。どれほどの子供であっても、また老人であっても、男と見るや連れ去り、同胞にする。魔術で増えるのだ。元となるものの力は関係なく、全てが同一の個体と化してしまう。
女はいらない。だから餌にする。残忍なことに、彼らは肉食で、特に人型生物の女性の肉を好んでいる。おとぎ話に出てくる鬼のように、彼らは女性を解体し、調理し、食らう。
そんな生き物がいるのだから、当然彼らの巣の近くに村は作られない。この農村もそうだった。だから、ゴブリンの心配なんかない。そのはずだった。
しかし、現にこうやってゴブリンの群れが襲いかかって来ている。なぜか?さっぱりわからない。群の数も十分に見える。男を連れ去りに、遠征に来たようにも思えない。
その証拠に、彼らが手に持つ思い思いの武器……弓、短剣、棍棒など……で手にかけていくのは、女だけではなく、本来彼らがターゲットにするはずもない男までもだった。
あるものは矢で背が貫かれ、あるものは短剣で内臓が引き出され、あるものは棍棒で頭蓋骨が陥没するまで殴られていた。
あたりに立ち込める血の匂い。
住民がパニックになるのも、当然だった。
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うのを、羊を追う犬のように、下卑た笑いを上げながらゴブリンが追いかける。
もはや、この村の壊滅は時間の問題である。
住民は絶望しながらも、必死に足を止めることなく逃げ惑うのだった。