帝妹は大変なようです
メーアは兄が気になる
メーアはまず、すぐにお風呂に入れられた。たくさんのメーア専属メイドが待ち構えていて、肌を磨かれ髪を洗われ、ドレスを着せられ髪を整えられた。そして今の状況をメーア専属メイドの筆頭、ヴィアベルに説明される。
「姫様はこの国の先帝、クヴェレ様の娘なのです。今の皇帝陛下、ヒンメル様の帝妹ですね」
「本当に…?」
「ええ。徹底的に調べたので間違いありません。輝くストレートの金髪に翠の瞳はクヴェレ様やヒンメル様にそっくりです」
「…そうですか」
「姫様。メイドに敬語など使ってはいけません」
「…うん、わかった」
「姫様があの村に逃がされたのは、帝位争いに巻き込まれる恐れがあったからです。しかし今は未だ幼き十五歳のヒンメル様が皇帝。その必要が無くなったため、宮殿にお戻り頂きました」
「…そっか。時々、おじいちゃんとおばあちゃんのお墓詣りに行きたいんだけど…やっぱりダメかなぁ」
メーアは瞳を潤ませる。美少女の涙目に思わず流されそうになるヴィアベルだったが、なんとか堪えた。
「…私にはお答えできかねます。皇帝陛下の許可を得てから、ですね」
「そっか。わかった」
「早速ですが、今日からお勉強をしていただきます。まずはどこまで教育が進んでいるかのチェックを行います。テスト、というのですよ」
「うん」
「では、先生を呼ぶので、ちょっと待っていてくださいね」
「先生の前でテストするの?」
「そうですよ。どこで躓くのか見てもらうのです。それに、すぐに採点できますから」
「わかった」
メーアはテストを受けた。国語、算数、理科、社会、そして魔法のテスト。メーアは寂れた村に捨てられたので文字を見ることがなかったが、どうやら文字は前世の日本という国で使っていたものと同じらしい。読めるし書ける。なので楽勝。そして算数も理科もすごく簡単だった。多分魔法が使える世界だから、あまり科学が進んでいないのだろう。村には魔法の恩恵はなかったが。反対に社会と魔法は壊滅的だった。習ってないので仕方がない。
さて、先生の評価はというと。
「天才です!姫様は間違いなく天才です!」
「そう…?でも、社会と魔法はわからないよ?」
「姫様はまだ五歳、今から習えば巻き返せます!それよりも国語と数学と理科の成績が素晴らしい!貴族学院レベルです!いえ、むしろ教授レベルと言っても過言ではありません!」
貴族学院…大学のようなところだろうか?
「えっと…ありがとう?」
「いえ、こちらこそ新しい科学の進歩につながる知見をありがとうございます!国語、数学、理科においては教えることなど何もありません!その代わり、社会と魔法は徹底してお教え致します!姫様ならばすぐに身につけてしまわれるでしょう!」
「そうかなぁ…」
「姫様、素晴らしいです!」
先生だけではなくヴィアベルも自分のことのように喜ぶ。拍手された。なんだか恥ずかしい。
「とりあえず私めは皇帝陛下にこのことを伝えてきます。ヴィアベル殿、なるべくすぐに戻って社会と魔法の授業を始めるので、姫様の準備をお願いします」
「はい!」
メーアが話についていけないうちにどんどん話が進む。ヴィアベルが教科書とノート、筆記用具を準備する間に、メーアは足をぶらぶらさせて歌を歌う。前世で好きだった歌だ。するとヴィアベルが姫様には歌の才能もお有りなのですね!とさらに喜ぶのでメーアは調子に乗って更に歌う。丁度報告を終えて戻ってきた先生にまで聞かれて、褒めちぎられて恥ずかしい思いをした。
社会の勉強は、割とすんなり頭に入ってきた。前世でファンタジー小説をよく読んでいたからだろう。それでまたしても天才扱いされてしまう。しかし難しいのは魔法の授業だった。なんの下地もないので知識を吸収するのも難しい上、実践してみても上手くいかない。先生は焦ることはないと言ってくれたが、多分出来は悪いのだろうと思った。
結局この日兄は来なかった。寝具に身を沈める。ふかふか。村にいた頃では考えられない豪華な生活。でも、兄であるはずの人から愛情は感じられない。おじいちゃんとおばあちゃんと一緒にいた頃の方が幸福だった気がして、寂しい。ヴィアベルは、メーアが眠りにつくまで側にいてくれた。
「ヴィアベル」
「はい、姫様」
「帝位争いって、どんな感じだったの?」
「幼い姫様に話すことでは…」
「十五歳の皇帝陛下が巻き込まれたのに?」
「…。どうかお兄様とお呼びして差し上げてください」
「お兄様は、十五歳で皇帝になったんだよね。もしかして兄弟の中で私を抜かして最年少?」
「ええ。最年少にして、魔法学において最強の皇太子でした。姫様も教養を身につけた後は皇太子になられるのですよ」
「…他の兄弟がもういないから?」
「…ええ、そうです。異母兄や異母姉のご兄弟は、みんな皇帝陛下の命を狙い返り討ちにされました。仲の良かったはずの兄弟たちに狙われた皇帝陛下は、唯一お母様を同じくするメーア様をとても気に掛けていらっしゃるのですよ」
「…そっか」
ならばきっと、人を信じたくても信じられない状況なのかもしれない。自分に冷たいのはそれが理由だろうか?仲良くなれば、自分に笑顔を見せてくれるだろうか?
「ありがとう、ヴィアベル。おやすみ…」
「おやすみなさいませ、姫様。…きっと、すぐに仲良くなれますよ」
兄はメーアをどう思う?