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第一話 王族である彼ら





_____とある時代の、とある国、


 “スラべリア王国”


 大陸の三分の一を有し、豊かな自然に恵まれたこの国は、とある女王の手によって平和に治められておりました。


 その女王、名を“ユイ・スラべリア”。


 齢18にして王位を継ぎ、10年もの間誰にも譲ることなく君臨し続けてきた彼女。他国には一目置かれ、国民には偉大な王として尊敬の目を集めておりました。





 「___ぇ、母上!いらっしゃいますか!」


 ドタバタと近づいてきた足音と共に、応える間もなく開かれた扉。一瞬の事に驚いていると、座る私の横で立ち仕事をしていたヴォルフが頭を抱えながら先に口を開いた。


 「…マイ、入る時はノックを。あと、ここでは母上ではなく“陛下”。」


 普段ならガミガミ怒るだろう彼も、この執務室では“閣下”という立場で物事を話す。普段と違った父親の口調にハッと我に返ったのか、姿勢を正してこちらに向き直る彼“マイ・スラべリア”。この国の第一王子だ。


 「……大変失礼致しました、女王陛下。並びにヴォルフリッド閣下。お伺いしたい事がございましたので参りました。少しお時間頂けますでしょうか?」


 少しの緊張を含みながらこちらを伺う息子を見て、「うん、育ったなぁ」と思っているのは私だけじゃなかったらしい。近くでズズッと鼻をすする音が聞こえたのは気のせいじゃないはずだ。


 『聞きましょうか』


 手に持っていた書類を一旦机の上に置き、椅子を少し後ろに下げる。再びゆっくりと腰を落ち着かせると目の前のマイに視線を合わせた。


 「有難うございます」


一礼すると、左側で一つに束ねられた彼の黒髪がサラッと音をたてて流れた。


「では早速ですが、私に婚約者が出来たという話は本当でしょうか?」


 『「…」』


 僅かな沈黙の中、ヴォルフの方を軽く睨む。「俺じゃないぞ」と言わんばかりに首を横に振っているのを見ると彼じゃないらしい。…面倒だからぎりぎりまで黙っているはずだったのに。

 どう答えようか迷っての沈黙に、否定してほしそうな表情を浮かべるマイ。


 ……ったく、どこから漏れたんだか。

 


 『本当よ』


 「!?」


 意外だったのか目を見開いて固まった息子。うーん、ほんとなら大声で叫んでそうな場面よね。我慢してるのは褒めてあげたいところだけど。内心ニヤニヤしてるのを察したのか、ヴォルフが呆れた視線をこちらに向けてきた。いいじゃない、息子のかわいい反応見て楽しんだって。



 ……もちろん、息子とは言えマイは実子ではない。

 今年彼は16。普通に考えて28になる私の子には無理がある。つまり養子だ。そしてあと2人養女として娘がいる。なので私とヴォルフの子は3人。血こそ繋がってないが、継承権を持つれっきとした我が家の子供たちなのである。


 『とりあえず、ここだと堅苦しいでしょ?場所変えてお茶でもしながら話しましょーか』


 長くなりそうな家族会議にの予感に、一旦仕事を切り上げようと軽く手を叩く。1拍程置いて、外に待機していた執事の一人がノックの後に顔を出した。


 「お呼びでしょうか」

 

 『サロンにお茶の用意をお願い』


 「畏まりました。すぐにご用意致します」


 彼が出ていくのとほぼ同時に、マイにも先に行って待ってるように声を掛ける。


 「分かりました。…では、後程サロンで。これで失礼いたします」


 部屋を去っていく後姿が納得いかないオーラをこれでもかってくらい出していた。

 うーん、あれは説明するまでしつこく聞いてきそうね。

 

 「で、如何なさるおつもりですか?」


 終えた分の書類をまとめながら、こっちを見ることなく聞いてきたヴォルフ。とりあえず二人しかいないので、敬語は外させようと「楽にして」と返す。おそらく、全部話すのか、という事だろう。


 『ま、これも社会勉強よね。そろそろ自覚してもらわないと』


 見守ってるだけじゃ育つものも育たないし、たまには崖から落としてみたい…じゃなかった、落とさないと。なんて事を心の中で思っていたはずが全部声に出ていたらしく、、


 「崖から落とすって…」

 

 物騒だな、と苦笑いを浮かべた彼。つられて私も軽く笑みを零す。本当なら、甘やかして育てたいって言う気持ちは確かにあるのだけれど。


 「それは、親として?」


 先程とは打って変わって、笑っていない笑みを浮かべたヴォルフ。その問いにイエスと答えられたら、私はきっと此処に座ってはいない。


 『愚問でしょ、聞きたいの?』


持っていた書類の束を突き出しながら「送っといてちょうだい」と指示を出す。残りは今夜仕上げることにして、そろそろ行かないと。時計に目を遣りながら重い腰を上げれば、スッと目の前に差し出された白手姿の彼の手のひら。


 『いいわよ、しなくて』


 エスコートなんて、堅っ苦しい行事だけで充分。それでも彼は譲らない。


 「ではせめて、部屋を出るまでは」


 あーはいはい、そうでしょうよ。仕方なく出された手に自分の手を添える。


 『"王として"、は不十分ね』


 先程の問いに答えるかのように呟く。確かに、この部屋では特別その要素が強くはなってしまうけれど。そう言うと、横目で見ていたヴォルフがふっと笑みを零す。


 「今代の王はあなた御一人ですからね」


 再び戻った口調。そしてその意味を忘れてしまえば、目の前の男は臣下としての立場をためらわず捨てるのだろう。きっと、ただただ夫として傍に居るだけだ。

 そう、今の王は私だけ。それを決して忘れてはならない。王としても、親としても…


 『……如何なる時も“ユイ・スラべリア”として』



 在り続けることが私の役目だという事を。




 


 




初めまして、依尾‐ヨリオ‐と申します。

ぼちぼちゆるーく書こうと思っております。

お付き合い頂ければ幸いです。

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