第1章〜ツシマという少女〜終焉
少年は嬉しそうな顔でスマホを良くいじっていた。某SNSに少女との会話や思い出を少ない文字ながらに書いては投稿をしていた。
「へぇ、今ってそんなことできるんだ。便利だね、ネットて」
「書いてみる?」
少年に言われてツシマが文字を打つ。打ち方は少年に教わりながら、ゆっくりと打ち込む。
「私が書いたって分かるようにしないと」
一生懸命に文字を打ち込むのだが、文面も名前もゴチャゴチャだった。
それでも少年は暖かく見守っていた。
「っcマ……これじゃ名前って分からないわね」
「あ、ちょっと貸して?」
少年は文面の繋ぎや点などを加え、最後に書いた少女の名前に記号を付け加えた。
「( っ`-´ c)マッ」
「可愛い!けどこれじゃ私って分からないね」
「でも君が書いたって伝わるよ。この顔文字は君が書いた印になるだろ?」
「そう、かも。うん、そうだね!」
( っ`-´ c)マッは少女にとって、名前であり少年との友情みたいなものだった。だからこそ、そんな少年の命を殺した人々が許せなかった。少女は少年が落としたスマホを拾いあげると、そこに自分の魂を入れ込んだ。
『あぁ!アァアアアァァァ嗚呼ァあああaaaaAAaaa@aA!!!!』
身体が無くなる前に……せめて、電脳世界で生きて、人間達を殺してやろうと考えた末路、少女の魂はネット世界へと入り込んだ。
少女はその後、書類整理する教師5名、スマホをよくイジっていた生徒30名を行方不明にした。
だがその記憶は誰にもなかった。いなくなった穴に何かが塞ぐように、記憶にないはずの誰かが生まれた。人々の記憶に新たな人物が生まれる。そういうジンクス、世界が収束するようなものが少女の意図とは関係なく自然と生まれていた。
生前の少女の名前はツシマと呼ばれていた。
人間に強い恨みを持つもの。顔文字が今の少女の名前のようなものだった。
( っ`-´ c)マッ
「ここなのか」
「そうよ。既にアポは取ってあるわ」
「そういうのは早いのな」
ツシマとカオルは車を降り、とある会社へと入った。受付人に名前をいうと、そのままエレベーターへと案内され、5階の客室で10分ほど待たされた。
そして、若くもスーツ姿を着た青年が部屋に入り、一礼をする。
「初めまして、私、こういう者です」
名刺を見るなり、カオルは驚く。
「……城田カズヒサ、年齢は22歳!?その歳で部長って……苦労してんのな」
「あははっ、よく言われますがウチが人員不足なだけですよ。本来なら、本部から要請して来て欲しいくらいで……って、すいません関係ない話を」
「まあそれは別に構わないが。こちらも……ほら、名刺だ」
雑にテーブルに名刺を投げてカズヒサは驚く。一目で変わる名刺の文字、刑事課一科、大神カオルの文字である。
「警察……労働基準か何かでしょうか?」
「いや、そんなんじゃない」
「会計士のルカって女を連れてきて欲しいの」
ツシマの言葉にカズヒサは驚く。
「うちの部署にルカという方はいませんが?」
「いいえ、いるわ。そして今あなたの部署にいる会計士こそ……この事件の犯人」
「なにっ!?」
カオルは驚き席を立つ。
そして犯人という言葉に動揺を隠せないカズヒサも席を立つ。
「どうゆう、ことですか?」
「……とりあえず、その部署に行きましょうか」
「ツシマ……お前、一体何を知っているんだ?」
「……さぁね」
勝手に部署へと移動するツシマ、部屋には数人ほど人がいたが、そんなことはお構いなく、会計士の元に向かっていく。
「あなた、ね」
「……何のことかしら?」
目線を反らす会計士、ツシマは彼女の顔に手を当てると、横にあるパソコンに顔を思い切り押し付けた。
だがモニターが割れるようなことはなく、そのまま泥が付くようにヌメリと全身が入り込むと、同時にパソコンから違う人が出てきた。
「何をしている!」
カオルが慌てて部屋へと入る。
「何って、この世から消えた者を取り戻したのよ」
「取り戻したって……ん?」
突然、視界が揺らぎ出した。グルグルと視界が回り始めるーー酒に酔ったように、今突然何が起きているのか飲み込めなかった。
「カオル……大丈夫よ。世界は、収束されるから」
「しゅう……そく……?」
Σ( っ`-´ c)マッ
後日談、誘拐や失踪していた少年少女が家に帰って来たらしい。カオルはいつものように新聞の一面を見ていると、ナオミが横に現れた。
「おはよう」
「あぁおはよう。そろそろ行くか」
「どこに?」
「殺人現場だよ。女性が部署全員を殺したとか何とか。今朝、その女が捕まったらしいが、現場の後片付けとかあるしな」
とある会社で起きた殺人事件の現場へと向かうカオルとナオミ、中に入ると死体がまだ転がっていた。
「死亡者は3人、男性2名、女性1名か。確かこの会社、前にも死亡者出なかったか?」
「その殺人も今回の殺人も同一人物、て線で話が進んでるらしいけどね」
ルカと呼ばれる女性が捕まった。
それで今回の事件は丸く収まった。誰もがそう思っていた。
でもこの事件は終わりではなかった。
タバコを吸いに外へ出ると、1人の少女がこちらを睨んでいた。
「事件は終わった。そして、貴方は払わないといけない。代償を」
「あっ?お嬢ちゃん、誰?」
「私が誰かなんてどうでもいいの。貴方は【( っ`-´ c)マッ】に出会ったんだから。当然よね……代償を貰うわ」
手を握られ、少女と目があった。その瞳は血のように真っ赤で、吸い込まれるような感覚を味わった。カオルは気を失い、その後のことはよく覚えていなかった。
…………( っ‘ᾥ’ c) マッ?
「カオルぅ!帰るよぉ!……あっ、いた。さっさと署に帰ろう?暑いねほんと……」
「そうだね。帰りましょ」
「ははっ、なにそれ変な口調」