第1章〜ツシマという少女〜その2
ここは、とある田舎の村のお話。
とある学校で1人の少年がいじめを受けていた。暴力的なイジメは勿論、某SNSでの陰口を叩かれて続けていた。それは学校全体に噂となり、冷たい視線ばかりを浴びる毎日を受けていた。
死にたい、死にたい……もうダメ……と心がどんどん堕ちていく……
「死のう。またイチからやり直すんだ……」
そこへ……ちりーんっ……と鈴の音が聞こえた。
風と共に流れる風流な音の側に、白服の少女が座っていた。彼女は虚ろな瞳でじっと少年を見ていた。
「何してるの?」
「……誰?」
「質問してるの私なんだけどなぁ。てか見えてるの私のこと?」
「見えている……?」
「私、死んだのよ。ずっと昔に」
少年は出会った。
死を既に味わった少女との出会いかきっかけで自殺を辞めたのだった。
それから毎日のように少年と少女は会うことになった。
徐々に少年は笑顔を取り戻していたことに、少女は喜びを感じていた。
他愛もない話をひたすらした。
将来の夢、SNSで起きている流行、テレビ番組の話を少年は嬉しそうに話していた。
少女は嬉しそうに少年の話を聞いていた。
きっともう私が居なくてもこの子は大丈夫、そう思うようになり、お別れをしようと待機していたある日に少年が現れなくなった。
日が落ち、真っ暗になっても少年が現れることはなかった。
少女は気になっていたが、その場を離れることが出来なかった。それは幽霊の規則であったのだが、少女はそれを破ってしまった。
破り、学校へと行く……そして彼女は見た。
少年が血溜まりに溺れて死んでいた姿を。
………………。
「それで?どうなったんだ?」
「……」
「おい……ここまで話してそりゃあないだろ」
「それよりお仕事、いいの?」
カオルは腕時計に目を当てると、3時を過ぎていた。パトロールから署に戻らないといけない時間帯である。
「……っち、戻る時間だな……ってなんでお前が気にするんだよ」
「……とにかく、続きはまた明日。私も時間ないから」
話の途中でありながら少女は話を切り上げられてしまった。結局何が言いたかったのか、それすら分からず、何のヒントも得ることが出来ずにカオルは署に戻るのだった。
「ツシマ、か」
彼女の名前が口から溢れる。あまり聞いたことのない苗字、いや名前なのだろうか。
そんな彼女のことも気になり、明日もあの空き地へ行こうと思うカオルであった。
( っ`-´ c)マッ
夕方、もう日は落ちかけている時間帯、カオルは書類の整理が終わると、都市伝説のサイトを開いていた。
「『あなたに癒しを、我に癒しを』……新手の宗教かよ。これが死を呼ぶサイトって、ほんとかよ」
一見ただの掲示板のサイト、書き込み可能の覧が下の方にある。そこにはびっしりと願い事が書き込まれている。
ただこのサイトは本物である可能性は低かった。カオルは【( っ`-´ c)マッ】についての情報を既に得ていた。
「丑三つ時に現れる死のサイトが、四六時中いるんだもんなぁ。それに……似たサイトがまだまだあるじゃねぇかよ」
1つ1つ、しらみ潰し見て回るものの、本物の可能性がありそうなサイトは何処にもなかった。
時間帯の問題なのだろう。
カオルは座ったままの姿勢で背を伸ばし、大きく息を吐いた後、タバコに火をつけようとした。すると、横にOL風の女性が現れた。
「あんた、昼間の事故、要請出した後どこにいたのよ!」
きつい口調で話す彼女の名前はミサオ、30歳独身。カオルの同期で同じ刑事課である。
「ご飯ですけど?」
話をしながらライターをカチカチと動かすがガス切れしていた。それを察したようにミサオが自分のライターでカオルのタバコに火をつけた。
「死亡者は無し、で済んだからいいんだけど。あれ、乗っていた運転手、途中から意識なかったらしいのよ。まるで何かに乗り移ったみたいな……」
「お前まで【( っ`-´ c)マッ】の仕業だと言うのかよ?」
「ニーズに疎いアンタも知ってるんだ?だってオカルトしかありえないって!今回の事件といい都市伝説といい、内容に一致している点多いし。この顔文字可愛いし、色んな種類あるのよ、ほら!」
ミサオがスマホを見せるとーー
(っ´ω`c)マッ..
(っ `-´ c)マッ!!
( ∩'-'⊂ )シュッ
(っ ´-` c)マ–
Σ(っ ॑꒳ ॑c)マッ⁉︎
( っ‘ᾥ’ c) マッ?
とズラッと似た形の顔文字を見せつけた。
確かに可愛らしさはあるが、死をもたらすとは思えない情景であることに、気が抜けてしまいそうではあった。
「何でこんな可愛いのに死をもたらすのかしらね?」
「知らねぇよ。本人に聞けよ」
「じゃあ今夜一緒に見てみようか?」
「……見るって、何をだよ?」
「本物の……( っ`-´ c)マッのサイトを」
そして深夜1時30分を過ぎた頃、カオルとミサオは署内で待機していた。
パソコンの前で待つのはかなり退屈だった。
それに本当に現れる確証もなかった。しかしあの顔文字が生み出したサイトが、今回の事件と関係性があるとしたなら、かなりの情報を掴むことになり得る話だ。
「ところで、ミサオは何をお願いするんだ?」
「んふ〜♪内緒だよっ☆」
「死に纏わらない願い事をするなら、女の子になりたい、とかか?」
「あ゛ぁ゛ん゛!?何か言った?」
「別に……あ、時間だな」
深夜2時丁度、検索をするーー
すると、見たことのないサイトが現れた。
「これ、なのか?」
直ぐにサイトに入る。
好奇心、咄嗟の事で良くは覚えていなかったーー
ーーナオミが消えた。
いや、まだ存在はしていた。
パソコンのモニターに指が引っかかっていた。
カオルは唖然した。何が起きたのか分からないままだった。
人が見た光景を認識するのに掛かる時間はおよそ5秒と言われる。だが、その5秒はとても長く感じたのはカオルだけだ。
ナオミ自身、半分意識が遠退いていた。
流石に体を指5本だけで支えるのは厳しい状況、物凄い強風に吸い込まれ、このまま維持しても身体はバラバラになってしまいそうだった。
「ど、どうしたら……!そうだ、引っ張らないとーー!」
「……バカね。そんなことしたら死ぬわよ、彼」
聞き覚えのある少女の声、パソコンを突然持ち上げ、逆さまに落とす。
ミサオは画面の外へと突き落とされ、パソコンはバラバラとなった。
強く床に叩きつけられたミサオは気絶し、そのまま意識を失った。
「慌てないで……彼は生きてるわ」
「ツシマ!どうしてお前がここに?」
「貴方を尾行して来たのよ。もしかして【( っ`-´ c)マッ】を軽率に探すと思ってね」
ツシマは分かっていた。
カオルがサイトを見ることを、そして被害に遭うことも想定していたのだろう。
「では、昨日の続きを話しましょうか」
「この状況でか?正直、今何が起きて……どうしてナオミが倒れているのか分からないのだが」
「分からなくていいのよ。分かったところで、貴方がどうにか出来るの?」
「なん、だと!!!テメェーー」
「追うと誓いなさい。私はこれから貴方と協力しないといけないのだから」
これから始まる都市伝説の追憶、そして事件の関連性、物語は動くーー過去へーー未来へとーー