憧れ
「どんな魔法?」
「さぁ、どんな魔法かしら?」
大きなベッドに並んで横になった6人の弟や妹達に、おつかいで行った街角で耳にしたお話を聞かせてあげていた少女は、集まる視線に肩を竦めました。
街でその話をしていた水飴売りのおばあさんは、集まったこども達の小さい指先にほんのちょっとだけ垂らしていくのと、それから買い求めるお客さんの対応に忙しくてその秘密を教えてはくれませんでしたから。
「おいしくなる魔法かな?」
「それとも腐らない魔法?」
「食べても食べてもなくならない魔法じゃない?」
「さ、もう寝る時間よ」
きゃっきゃとさわぐ小さい弟や妹たちに布団をかけて、少女は明かりを消しました。
はぁいと渋々返事をしたきょうだいたちはすぐにすやすや寝息を立て始めます。けれど少女はおばあさんが売っていた水飴を思い出し、なかなか寝付けませんでした。
おばあさんがみんなの指先にひとつずつ乗せていく小さな水飴の雫はキラキラ輝く青と紫と黄色の美しいマーブル模様でした。
少女は指先に乗った水飴は緑色。澄んでいるのに深い色合いは宝石のようで、口に入れるのが惜しいほど。でも、どんな味がするのかという好奇心もありました。
まわりから感嘆のため息が次々にこぼれるのを聞くと、ついに少女もそろりと水飴を口に運びました。
その水飴はほっぺたがとろけそうなほど甘くて、鼻に抜ける香りは林檎に似ていました。少女はほぅとため息をつきそうになったけれど、吐息とともに香りが逃げていくのが惜しくて慌てて口元を覆って目を閉じました。
ずっと見ていたい幸せな夢のようにふわふわした気持ちでしたが、それはすぐにすぅっと消えてなくなってしまいました。
目を開けると、水飴売りのまわりにはおこづかいを持っていたこどもや、こどもにせがまれて水飴を買い求める母親達が集まっていました。
くきゅるるる……。
小さな腹の虫が鳴いて、ぎゅうっとおなかを抱えた少女は強く強く目を閉じました。
夕食は野菜の欠片が浮いたスープとふかしたじゃがいもをちゃんと食べたのですが、あの水飴の味を思い出すとどうしてもおなかが空いてしまいます。
あの水飴売りのまわりにできていた人集りは、少女にはとても遠いものでした。
――行って確かめてみればいいさ。お菓子の森はどんな森とも繋がっていて、お菓子が大好きなこどもが森で道に迷ったら迎え入れてくれるからね。
口の中に蘇る水飴の香りと、空腹と、そして水飴売りの言葉。
少女はどうしても寝付くことができませんでした。