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幻影の君に愛の祝福を

私の前世は悪役令嬢

作者: 山崎世界

舞台は現代です

まあタイトルネタバレが著しいですね

――愛されなければ愛さないだなんて、まるで誂えた物語のよう――


 初めてあの方にお会いしたのは、五歳の頃でしたか。

「莉愛、これから会うお方は、お前が生涯をかけて尽くすお方だ。決して、粗相などするんじゃないぞ」

 厳格な父に連れられ、あの方の住む屋敷に連れてこられた私。

「俺は霧生きりゅう紫苑しおん。よろしくな」

 そこで出会ったのは、明るい笑顔をした同い年くらいの少年。

朱栖あけす莉愛りあです。どうか、よろしくお願いいたします」

 心臓の高鳴りはきっと緊張のせいだと、父の言いつけを守らねばならないと、ただこの方に嫌われたくないと。

 私は必死に言葉を紡ぎました。


――欠けた半身を取り戻したよう。そう、私の生は、君なくしては成りえない――


 我が朱栖家が代々お仕えする霧生家のご令息、紫苑様。

「し、紫苑様! 危ないですから、降りてきてくださいませ」

 紫苑様はそのお庭の、身の丈以上の木の上に、どうやって上ったのかわからないけれど、まるで猫のようにのんびりとあくびをしながら私を見下ろします。

「んー? なんだよ、俺に逆らうってのか? 莉愛」

「こんな時ばかり理不尽を振りかざすのは卑怯ですわ」

 そうだ。紫苑様は、私といるときに偉ぶったりはしない。私はこの方のどんな理不尽も受け入れる義務があるのに、だというのに、この方はどこまでも優しかった。

 私が出会った誰よりも。

 だから、自分のワガママを振りかざすときに、冗談交じりで言われたら、すごく困る。

「まあいいからさ。莉愛も一回、こっち来てみろよ」

 どこにそんな力があるのか、紫苑様は私を抱え上げて、すんなり木の上に二人。

 怖がって身をよじる腰を、紫苑様の腕ががしりと力強く抱えられて、動けない。

「ここなら、だれの目も耳も気にするこたあないからさ。だから、少し肩の荷を下ろしていいんじゃないかって思うわけだよ」

「……紫苑様」

「長い付き合いになってくわけだし一緒にいると落ち着くくらいな関係築いたほうがお互いやりやすいだろ? て思うけど……難しいよな」

 そんなもの、ただ一言命じてくださればいい。

 自分に決して逆らうなと。

 そうすれば、私なんてただの道具として、あなたの気を煩わすことなどないでしょう。

「紫苑様は……」

「ん?」

「私のことが、怖くなったりしないのでしょうか?」

「何で?」

 私は、外国生まれのお母さま譲りの目鼻立ちで、その目つきは鋭くて。同年代の子供は私を遠巻きに眺めていました。

 そして、なぜかはわかりませんが紅い髪と瞳を持って生まれていました。

 お父様とも、お母様とも違うその色。お父様もお母様も、きっと私を愛してはいない。

「ん? そうかな。俺はキレイだと思うよ」 

 だというのに、この方はあっさりと、私に愛をくれた。

「怖い? おいおい俺を誰だと思ってるんだ? 怖くない。ちっとも怖くない。しょうがないよな全く、みんなガキでさ」

 信じられないものを見たようで、動揺している私を悲しげに見つめて、けれど、笑いました。

「まあ、信じられないってのも仕方ないよ」

 私が臆病なだけなのに、まるで自らの至らなさを恥じるように頬を掻いて。

「これでも、一応? 俺はお前の主人、だからな。だから、それらしいことはしたいって思うんだそれが何だっけ? ノブリスオブ何とか? まあそんな感じで」

 だというのに、この方は私に安らぎを与えようとしている。

 そのために、心を砕いている。


――ああ、少しでもその心を手に入れられるのなら――


 ドクン。

「……?」

 心臓の鼓動とともに、その血が巡る脈動で、私のどこかにある傷が痛みを発したような気がして。

「どうかしたのか?」

 されど、目の前の優しさで押し流されてしまう。


――きっと、その心臓に刃を突き立てるでしょう――


「まあそうだな。莉愛の両親の気持ちも汲んでやらなきゃならんとは思うんだ。というわけで……そうだな。よければなんだけど、莉愛。うちのほうで一緒に暮らしてみないか? なーに、莉愛のことが気に入ってるっていえば悪い気はしないだろうさ。機嫌を伺いに、娘くらい差し出してくるさ」

「……それは」

 つまり……私を囲おうと?

「うん? まーでも気にしなくていいからさ。好きなやつでもできたんなら適当に秘密にしては欲しいけど」

 紫苑様は、屈託がないように笑うお方ですが、聡明な方で。周囲に嘘をついて、私を守ろうとしてくださろうとしたり、そういうしたたかさも兼ね備えていて。

 けれど……どこまで私の気持ちを知っているのでしょう? これも、意地の悪いウソの一つなのでしょうか?

 どこまでも、憎らしい人。


――ええ、あの方はきっと、永遠に分からない人――


 そして、あの方と、あの方のご両親と、周りのご学友たちと。

 奇跡のように温かい周囲に囲まれて、十年の月日が流れました。

「また莉愛さんに迷惑をかけているのかお前は」

「いいじゃんかさー俺は莉愛の主人だぞ」

「まったく……莉愛さん、こいつの扱いに困っているようであればいつでも言ってください」

「おう、なんだ? ご主人様の目の前で口説かないでくれますかねうちのかわいい側近を」

「なっ、ちが!」

「うふふ。大丈夫ですわ私、これでも紫苑様にお仕えできることが幸せで仕方ないのですもの」

 そう、私は今、幸せで仕方がない。これ以上愛する方なんてもういないだろう、なんてそんなことを確信できてしまう。そんな方に出会えた。

 だからこそ、なぜか怖い。

 最近、夢を見るのです。怖い。怖い夢。その夢の内容はよく覚えていません。ですが……私はとても恐ろしいことをして。痛くて……とても、とても痛くて。

 だというのに、夢の中の私は……笑っている。



 放課後の屋上。紫苑様を探してさまよって、たどり着いた先で。紫苑様はフェンスのはるか向こうの朱色の空を眺めている。

「紫苑様?」

 声をかけて、紫苑様は今まで見たことのないような、遠い。遠い顔を見せました。

「ああ、莉愛か」

 微笑むことすらも忘れて、またもう一度空を眺めます。

「あの……どうかなさったのですか。紫苑様」

 紫苑様は少し考えるように時間をおいて、やがて、口を開きます。

「今から変なこと言うけど、笑わないでくれると助かる」

 この告白にどれほどの意味があるのか。わからないまでも、私はしっかり受け止めようと、無言で首を縦に振ります。

 そして、紫苑様は再び口を開きます。

「昔からさ。漠然とした不安があるんだ。俺は……ここにいていいんだろうか、本当にここにいるべき人間なんだろうかって。そんな妙な焦りが。中学で卒業できるもんだと思っていたんだが、どうにも収まらない。むしろその不安はどんどん増すばかりだ」

「どうして、私に今まで言ってくれなかったのですか?」

 紫苑様が驚いたように私を見て、かぁっと顔が熱を持ちます。

 何で、口に出してしまったのだろう。と。

 あの遠い日、私の安らぎとなってくれたこの方が、けれどこの方の安らぎに私がなれなかったのだと。多分、そう、悔しかったから。

「言ったじゃん? 中学で卒業するもんだと思ってたって。そんな深刻じゃないと思ってただけだよ。ただま、聞いてくれて助かった。それと、もう一つ告白なんだけどな。何でかはわからんが、お前と一緒にいると、その不安の原因が思い出せそうな気がしてたんだ。だから、一緒にいようって言ってみたりもした」

「そう、だったのですか」

「ごめんな。今さらこんなこと言って」

「いえ」

「じゃあ、帰ろうか」

 私はいつもの通り、紫苑様の三歩後ろを歩く。

 遠い。この方は、どこまでも遠くて、この距離はいつまでも詰まらないのだろうと、そう思い知らされてしまう。

 それは誰に対しても同じで、紫苑様は気さくなように見えて誰に対してもその実、誰にも心を通わせてはいない。そんな気がする。

 でも、それでもこの方の一番近くにいられるのなら。

 そんなことを願っていたその時だった。運命に、出会ったのは。

 信号機の向こう側。赤が青に代わって、車が横切ったその先に。彼女はいた。


「見つけた」


 黒い髪。そして、夕焼けに溶け込む紅い瞳。

 紫苑様と、同じ瞳。紫苑様と同じ学園の制服を着た、彼女。

 時が止まる。そして動き出す。

 すたすたと導かれるように二人は横断歩道の中心に立つ。


「誰だ?」


 紫苑様が思わずついて出た疑問に、彼女は一瞬、悲しそうな顔をして、そのまま、口づけを交わした。



――ああ、追いつかれてしまったのですわね。運命に――



 バリン、と。ガラスが割れるような音とともに、地面が消えたような錯覚。そののちに、私もまた、思い出した。

「初めましてというべきでしょうか。いえ、それは違いますわね」

 真っ赤な庭園。真っ白なテーブルクロス。湯気を立てる紅茶が注がれたティーカップ。

 彼女は、そこにいた。

「ごきげんよう、私(・)」

 深紅のドレスに身を包み、深紅の瞳と深紅の髪。血の色に染めあがった、私とうり二つの彼女が座っている。

「あなたは……」

「あら、ぶしつけな視線はよしてくださいませんこと? 疑問を私にぶつけることは無意味だと知っているはずです。あなたと、そして、紫苑様は本当は何者なのか、そして、あの彼女が誰なのか。あなたは既に知っているはずです」

 そう。そうだ。

「本来なら、紫苑様とあの方は結ばれる運命にあった」

 胸が痛い。誰よりも、この世界で誰よりも私が近かったはずなのに。一瞬ですべてが奪われた。

「それを、私が奪った」

 けれど、向き合わなくてはならない。私の、罪(・)に」

「そう。そうですわ。私は、私たちは勝ったのです。あの女に。あの方に、誰に対する愛情よりも、私への憎しみを募らせた。その結果……私はあの方の魂を深く、深くつなぎとめ、こうしてともに転生を果たすことができたのです」

 そう、私の前世は、悪役令嬢だった。

 あの方と、彼女が結ばれる運命が我慢ならず、殺してでも奪い取ろうとしたその愛憎の果て。

 その結果、私と紫苑様の魂は深く深く結びつき、世界を超えてともに転生した。

「あなたのせいで……」

「あらあら、まだわかっておりませんの? あなたは私で、私はあなた。それはただの自責にしかなりませんわよ。それに……それ以上は口になさらないほうがいいですわ」

 人差し指で私の口を制して、微笑む。

「だって、後悔などするはずがないですもの。たとえすべてがやり直せるとしてもあの方と出会わなかった過去も未来も望まない。そうでしょう?」

 この想いを抱く前に……いっそ、出会わなければよかったのに。

 そんなことができるわけがないことを、この目の前の魂は知っている。出会わなかったとしたら、出会うまで探し続けるだろう。それほどまでに、恋焦がれたのだ。私は。

「さあ、私。あなたは、どのように歩みますか? まさか、膝を屈してあの二人を見守る、などとは言いませんわよね」

 私の心は、堕ちていく。

えーそうですねー「乙女ゲーの悪役(令嬢にあらず)に転生した俺は生き延びるためにハーレム&友情を築く」の続編? 後日談? はまあこんなめんどくさくなってますよーって構想の一つを何とかまとめた形です。何がめんどくさいってこれどうオチつけるんだというお話です。まあ、この決着はおのおのの胸の内にでも(おい)



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