土御門魔法雑貨店にようこそ
久しぶりに短編を書きました。生暖かい目で見て頂けると幸いです!
時は西暦20XX年。人間社会は科学技術の最盛期。手軽な携帯端末は人と人の世界を縮め。情報の海と呼ばれ、正にこの世界を網のように包んでいるグローバルネットワークは人の心理世界を広めた。
怪しげな呪術、占い、魔法や所謂、妖怪や妖精と言ったオカルトは廃れ、そう言った類いの物は既にその殆どを、神を信じ、それ故に科学の世界に身を置く者達に解明された。
世界の殆どの者この世界に魔法なモノなんて存在しないし、妖精は目の錯覚。妖怪は山や川に住み着いた人達や動物を見間違え。その様に解釈していた。
しかし、果たしてそうなのか。本当は妖怪や魔法使いは存在して現在も社会の影で生きているのではないのだろうか?
東京から東海道新幹線で行くこと一時間と三十分、中部第一の都市であり"大いなる田舎"とも呼ばれる都市名古屋。繁華街から離れた閑静な住宅街の一角に雑貨屋[土御門]がある。
それこそ閑古鳥が鳴いているような寂れた店。下手したら潰れているじゃないのかと思われがちだが店先には、しっかりと[open]と立札が置いてあった。
店の中は至って普通の雑貨屋であるが所々に変な置物や干乾びた植物置いてある。そんな店の店主だが、店の奥にあるカウンターで、大手ハンバーガーショップのポテトLサイズとコーラLサイズを飲み食いしながら携帯端末を触っていた。
……こんな店主で本当に大丈夫なのだろうか。
そうしている内に店の扉が軽快なベルの音と共に開く。入ってきた。お客さんはメイド服を着た金髪の美女だった
「……また、そんなジャンクフードを食べているですか」
コーラが入った紙製の容器をカウンターに置くと男は言った。
「……ん?おお、あんたか。この前の御依頼品はあんたの所の妖狐の嬢ちゃんは満足したか?」
「ええ、まあ主様は大いに喜びましたよ。良くあんなものを見つけて来ましたね。蓬来山の玉の枝なんて」
蓬来山の玉の枝とは、かの平安時代の名作、竹取物語が主人公弱竹輝夜姫が5人の青年に出した五つの難題の一つである。仙人が住むと云われる蓬来山。そこにある、金、銀、宝石の付いている枝を持ってこい。それが蓬来山の玉の枝だ。
「まあ、俺にも色々と伝は有るんだよ。で、今日は何の用だ?」
カウンターに置いてあるノート型パソコンを弄りながらメイドに問いかける。
「人に話を聞く時はパソコンを止めたらどうですか」
「確かにそうだな。いや、すまん。丁度単価が変わっちまったからな」
男がそう言うとメイドはカウンターに入り、パソコンを覗き込んだ。
「何の相場何ですか?」
「マンドラゴラの先物取引をやってるだよ……よし、これなら売っても十分な黒字だな」
男はそう言うとキーボードを操作し何度か頷くとパソコンを閉じた。
「さて、仕切り直しといこう……いらっしゃいませお客様。土御門魔法雑貨店にようこそ。今日は何をお求めですか?」
男は先程とは違った礼儀正しい態度で頭を下げた。
「土御門さん……今やっても意味無いですよ」
「こう言うのは一度はやっておくべきなの……で、今日のお求めは?」
男が聞くとメイドは少し躊躇しながら言った。
「………です」
「何だって?」
「……ほ…………です」
「聞こえないハッキリと言ってくれ」
「だから惚れ薬です!」
惚れ薬。簡単に言ってしまえば意中の相手に飲ませれば、身も心も思いのままというなればヤツだ。
「なんで、また惚れ薬なんだよ」
「それは主様が……『好きな男子が出来たのじゃ!恋仲に為るために土御門の所で惚れ薬を買ってくるのじゃ!』
……と言うことです」
男は一つ溜息をついた。
「……あんたの所の妖狐って確か外見年齢が十二~三位だったよな」
「はいそうですよ」
「相手の年齢は?」
「確か……二十代を過ぎた位だった筈です」
男は頭を抱えながら言った。
「俺はその男を犯罪者にする訳にはいかないし、そもそも惚れ薬は御禁制だぞ!」
「……え、そうなのですか?」
「当たり前だろ!そんなものがポンポン使われたら。国が滅ぶわ!」
国の権力者に惚れ薬を使って自らは税に浸り国を滅ぼした例は事欠かない。その為この国では皇の名によって惚れ薬の販売、生産、使用は固く禁止られている。そもそも使用薬物が表の世界でもアウトなのだから当たり前なのだが……一部他国では認められているそうだが意味が分からない。
「え~そうなのですか」
「なんで、そんなに残念がるだ」
「土御門さんに使おうかなって思いまして」
メイドはクスクスと笑みを浮かべた。
「……俺に使っても直ぐにデトックスされるぞ。昔、師匠に永遠と毒物系や薬物を耐性できるギリギリの範囲で飲まされ続けられたからな」
男は遠い目をしていた。どうやら壮絶だった昔の事を思い出しているようだった。
「で、でしたら!良い雰囲気になる薬やお香は無いのですか?」
話題を変えようとメイドが言う。
「ん?……確かお香で有る筈だ。それなら御禁制には触れないし俺の店の売れ筋商品の一つだ。幾つ欲しい?」
「試しに十個程下さいな」
「了解だ。奥に有るからちょっと待っててくれ」
男がそう言うと店の奥に消えていった。一人残されたメイドはそろりと男が座っていた革椅子に座った。しっかりと内張りがあり座ると体が沈み込む。そうすると先程座っていた男、土御門の匂いがした。キライではない。逆に落ち着く匂いだった。
「おい、持ってきたぞ」
メイドはいきなり現れた土御門にビックリして立ち上がった。
「……へ、わわ。あ、ありがとうございます!」
「お前が珍しいな俺の椅子に座るなんて、疲れてるのか?それならちゃんと妖狐の嬢ちゃんに言った方が良いぞ」
「いえ、大丈夫です。お香ありがとうございます」
「今度から妖狐の嬢ちゃんに言っとけ、折角Webサイト作ったんだからそっちで注文してくれって、あんたも態々二時間かけて京都から来るのも大変だろ?」
そう言うとメイドは困った顔をした。
「主様は……『ぱそこんは良く分からないのじゃ!最近のピコピコも良く分からないし、やっぱりてれびが一番なのじゃ!』だそうで」
「技術の波に乗れない老人かアイツは」
「……それに私も土御門さんに会いたいですし」
「ん?何か言ったか?」
「い、いえ!何も!では失礼しますね!」
メイドは一度頭を下げると直ぐ様店から出て行った。土御門はポカンと見送り椅子に座った。
「……はあ、アイツもなんで俺なんかが好きなんだか。あんたらもそう思うだろう?」
土御門は虚空に対して問い掛けている。
「別に返答は求めていない。ただそこにいる別世界の観測の存在が分かるから面白半分に話しただけだ。」
そして土御門は立ち上がった。
「さて、この店に来たからにはあんたらもお客さんだ……いらっしゃいませ。土御門魔法雑貨店にようこそ。本日は何をお求めで?御禁制でなければなんでも扱いますよ。……神の子の血を受けし杯でも、今は消えし幻獣の標本でも……君達の無くしたナニかでもね」
どうでしたか?面白かったなら幸いです!