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正義という悪
前話の相手サイド
青年はただ、正しく在りたかった。
『あなたはね、母親と父親のヒーローなの』
物心つく頃からよく言われていた。
分別のつく年頃になって、それが"大喧嘩の真っ最中に妊娠が発覚して仲直りした"なんていう理由だと知っても、幼心に感じた誇らしさはどれだけ時が経っても忘れることはなかった。
その"誇らしさ"が、彼を英雄たらしめる根幹となったのだ。
しかし、今。
「王よ。魂を、貰い受ける」
王国の為に青年は壮絶な戦いを繰り返し、幾人もの戦友を失いながらようやく辿り着いた『悪の王』の城。満身創痍の身体を引きずり、当の王と対峙し―――そして知った。
「…あなた、は…」
―――この正義は、偽物だったのだと。
「何故…!」
ゆっくりと玉座に近付き、しっかりと顔を合わせ、愕然とした。
どうして"幼き姿の母"が玉座に座しているのか。
混乱と絶望の中、笑みを浮かべ少女が命じた。
「―――さあ、跪きなさい」
青年に、拒否権など、無い。
*393文字