悪の正義
とある少女の最期。
爆音と共に城が揺れる。パラパラと塵や天井の欠片などが降り注ぐ。
もう駄目だ、おしまいだ、死にたくない。屈強な騎士達から情けない声が上がる中、悠々と玉座に座る少女は微塵も恐怖を見せない。それどころか、いっそ楽しそうにすら見える。
「…そろそろね」
それが何の事から彼らは分からない。分からないが、良くない事だというのは本能的に理解した。
「貴方達はいきなさい」
段々と爆音が近づいてくる。そろそろ耳が痛くなりそうだ。
そんな中ですら、何故か彼女の声だけは良く聞こえた。
「これは命令である。……いきなさい」
騎士達は何も言えず、逆らうことも出来ず、ただただ必死に"ここではない何処か"へと走り出した。武器を捨て、鎧を脱ぎ捨て、息が乱れても構わずに。ひたすらに走った。
それを見て、それで良い、と少女は微笑む。満足そうに。愛おしそうに。
そして、訪れる。最期を齎す者が。
「王よ。魂を、貰い受ける」
まだ年若い男は、ゆっくりと玉座に近付き、そして知る。
「…あなた、は……何故…」
そんなもの、とうに捨てた。声には出さず、うっそりと笑みを浮かべて、少女は命じる。
「―――さあ、跪きなさい」
だって私は、王なのだから。
*511字