画面越しの恋愛ごっこ
ゲーム機の画面越しのイケメンと恋愛ごっこしたら本物の恋愛になった男の話。
携帯ゲーム機の画面に映る超絶イケメンが、はあ、と深刻そうに溜め息をついた。
「おい、なんだその「可哀そうに…」みたいな溜め息」
『はあ…可哀そうに…』
「声に出すなああッ!! 否定しろ!! 頼むから違うと言ってえええ!!!」
うわあああん!! と年甲斐もなく頭を抱える男に、イケメンはまた画面の中で溜め息をついた。
『いやいやいや…。もう可哀そう通り越して哀れだよ。何でおれが、よりにもよってこのおれが、お前みたいな童貞非モテ野郎のために恋愛ごっこに付き合ってやってるのに、これっぽちもモテる気配がないの? 何なの? 馬鹿なの? 死ぬの?』
「やめて!!!! 俺のライフはもうゼロよ!!!!」
『いっそ魔法使いにでもなれば?』
「もうやめたげて!!!!」
『このままじゃ、脱童貞どころかファーストキスすらもらってくれる人いないんじゃね?』
「いい加減にしろよおおおお!!!!! もうこれ以上俺をいじめんなよおおおおお!!!!!」
イケメンの怒涛の精神攻撃に、膝から崩れ落ちる男。その目にはたっぷりの涙が浮かんでいる。イケメンは画面外に消えた男のすすり泣く声にまた溜め息をつくと、なあおい、とぶっきらぼうに声を掛けた。
「ぐすっ。……うぅ…」
『なあって』
「ッ…あんだよ! もうほっといてくれよ…!」
『…おれがもらってやろうか?』
「はあ? なんだって?」
だからぁ、とイケメンは頭をかく。画面をのぞき込んだ男は目を疑った。
『おれが、お前をもらってやるっつってんの』
いつも余裕そうに澄ました顔ばかりしているイケメンが、男の顔も見れない程照れて赤い顔をしていた。
「…ん? え、なに。おまえ、俺が好きなの?」
『ああ!?』
「えぇ!? いやだって、今のはそういうことだろ!?」
『な、あ、…っああそうだよ!! 好きだよ!! つーか恋愛ごっこしてるうちにマジになっちまったんだっつの!!! 悪いかボケェ!!!!』
男はイケメンの言葉をたっぷり十数秒使ってようやく理解すると、ただでさえだらしない顔をさらにだらしなく、ふにゃりと崩れさせた。
「……そうか。好き、なのか」
『…おう』
「ふへへ」
『うっわ気持ち悪ィ』
「でも好きなんだよなー俺のことぉー」
『ぐッ…。ああそうだよ、そうですよ!! んで、お前はどうなんだよ!!!』
「ん? 俺?」
俺はねー、とにやけながら携帯ゲーム機を持ち上げると、男は画面のイケメンの口元に唇を押し付けた。
「嫌いじゃないかな」
『っはあ!? なんッだそれ!!!』
「ふははっ」
『取り敢えず、さっさと次元超えてこっち来やがれ、クソ童貞!』
「おう! すぐ行く!」
ごっこじゃなく本物の恋愛をするために、男は次元さえ超えてみせると笑った。
―――――fin.
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