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触れられない距離
ダンジョンマスターとサポート役だと思う。性別はどちらもご自由に。
『マスター』
そう声を掛け、画面に映る主人に触れる。画面越しの主人は硬い。そして、遠い。
『マスター』
音声案内でしかない私は、愛する主人に対し、声を掛ける以外何もしてやることが出来ない。
『聞こえていますか、マスター』
嗚呼。こんなにも愛しているのに、何故触れられないのだろう。こんな形でしか出会えなかったことに殺意が湧く。
『ああ…、何故だ』
うつ伏せで横たわる主人がうっすらと、笑った気がした。
『マスター?』
「ああ…、だいじょうぶさ。聞こえているよ」
嘘吐きな方だ。本当は、もう、これっぽちも聞こえないくせに。
『…ああ、マスター。逝ってらっしゃいませ』
願わくば、今度は御傍に置いてください。
そう。触れる程、傍に。
*301文字