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黄昏色の少女  作者: 多景千紗
5/8

更新遅くなりました!


アルティシアは駆けていた。

行きに何時間かかったとしても、帰りに同じだけの時間を使うことは許されていなかった。


「速く、速く、速く速く速く…!」


足が悲鳴をあげていても、どうでもいい。

間に合うならば、この足を使い潰しても構わない。

アルティシアは本気でそう思っていた。


ぎゅっと目を閉じると姉の優しい顔が瞼の裏に浮かび、歪んで消えた。


「……姉様……っ!!」


どうか。どうか帰ってこないで。


しかし、不意に思い出す。

自分は行ってくる、と言ったフィーエルになんと言っただろうか。



帰ってきて、絶対に。(・・・・・・・・・・)



そして、姉は応えた。



わかった。絶対よ。(・・・・・・・・・)



姉の不安げな顔がちらつく。

きっと姉は少しでも早く帰ろうとするだろう。

不安にさせたのは自分。そんなことはわかっていた。

けれど、言葉だけでも約束が欲しかった。自分のこの、言い表せないほどの気持ちをどうにかしたかったのだ。


アルティシアは駆けた。

もう、夜は明けかけている。

一分一秒たりとも無駄にはできない。


「……無事でいて……!」



そうしたら、自分がきっと、なんとかしてみせるから。






* * *




フィーエルは、不規則に揺れる馬車の中で、大きな袋を抱きしめた。

妹の拗ねたような顔が目に浮かぶ。思わず笑みが零れた。


「どうなさったのです?」


この馬車の持ち主の年老いた夫婦が、怪訝そうにこちらを見た。

金をこの袋の中身に使い切ってしまい、宿に泊まって明日歩いて帰るしかないかと悩んでいたところに、親切にも、同乗でよければ、と声をかけてくれたのだ。

あのままだと、どんな宿になるかも分かったものではないし、できるだけ早く帰りたいフィーエルにとっては、願っても無い助けだった。


「少し、…妹のことを思い出して。奔放な子で、まったく私の言うことを聞かないのです。」


「ああ、妹さんがいらっしゃるのね。さぞ貴方と似てお美しいのでしょうね。」


にこにこと微笑みながら老婦人が言った言葉に溜め息をつく。


「そうではないのですよ…。素質だけで言うなら私などより余程良いものを持っているというのに、あの子ったらちっとも女の子らしくしないのですわ。」


「女の子らしくしない、とは?」


「木に登って枝の上で寝たり、ぶっきらぼうに男性のような話し方をしたり、ドレスを着ず、兄の服ばかり着たり…。化粧もしませんし。」


さすがに老婦人も目を丸くしたようだった。

しかし、すぐにくすくすと笑う。


「楽しそうな妹さんだこと。私たちの息子に少し似ているかしら。…あの子も言うことを聞かない子でした。もういなくなってしまったけれど。」


老婦人はそっと視線を床に落とした。

きっと、その息子は連れていかれたのだろう。

父や兄と同じように。


「その大きな袋は妹さんのために?」


その悲しみの大きさを知っているだけに、ふわりと優しげに微笑む目の前の婦人の強さがうかがえた。


「ええ、姉には敵わないのだ、と改めて思い知らせてあげようと思っているのです。日頃何かと妹にしてやられているので。」


フィーエルはわざと戯けたように言った。

なんとなく、この老婦人の前では精一杯の強い自分でいたかった。自分もこんな風に強くなりたいからだろう。


「ふふ、怖い怖い。」


不意にがくんと馬車が揺れた。

その振動で老夫の頭が傾き、婦人の肩へ収まる。

老夫は寝息を立てていた。


「あら、まあ。」


「まったく…。珍しくおとなしいと思えば、これなんですから。ほら、あなた。起きてください。着きますよ。」


移りゆく景色が、徐々にゆっくりになっていく。



街が、すぐそこに見えるところまできていた。











膝に手をつき、荒く息をするアルティシアの前を、子供達が走り抜ける。

目の前には、朝の活気に満ちた変わらない街。

普段なら喧しいとさえ思う街の雑音が、アルティシアの心を少しだけ落ち着かせた。



「……良かった…。」


間に合ったのか。

いや、そもそもこの街に行ったというのが勘違いだったのか。

絶えず頬を伝う嫌な汗を拭う。


「そう、だよ。ここよりも…もっと人間がいる街はこの先にもある。」


冷静にそう考える自分と、不安が拭いきれない自分がいる。

自分の近くで駆け回っていた少年の、べしゃり、と転ぶ姿がぼやける視界の隅に映る。

刹那、つい先程までいた街を思い出した。


紅い血溜まりに転がる人々の無残な姿。


自分を見下ろす金の瞳。


「…っうぁ……。」


吐き気がした。

あの時一瞬でも、その瞳を綺麗だと思った自分に。


どちらにしても、この事を伝えて王都から一刻も早く討伐隊に来てもらわなくてはならない。

アルティシアは一度だけ大きく深呼吸をして、震える足で一歩、踏み出した。







しかし、アルティシアが二歩目の足を動かすことはなかった。




不意に自分の足元が暗く染まる。

ばさり、という音に絶望にも似た感情が沸き上がり。

そして―――…。




「…アルティシア?」





愛しくて、けれど今この時最も聞きたくはなかった声が、アルティシアの名を呼んだ。





短くてすみません…

次はもっと長くできるよう頑張ります

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