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黄昏色の少女  作者: 多景千紗
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漆黒と金


アルティシアは珍しく、仕事をさぼった。

さぼった、と言ってもちゃんと体調不良という理由付けはされているが。

もともと朝や昼に働かなくても、夜の魔獣狩りで十分過ぎるほど金は稼いでいるのだ。

夜に何をしているのかと疑われているのは分かっている。

それでも姉には、何も知られたくなかった。

もしも、自分がこんなことをしていると知れたなら、きっと今のこの日常は壊れてしまうだろうから。


一度、こっそりと後をつけられた時はどうしようかと思った。

いや、こっそりと、と思っていたのは本人だけかもしれない。

尾行にふりふりとしたドレスは向かないと少し考えれば分かることだ。

木の陰からドレスの裾がひらひらと見えていたのを思い出して少し笑う。

…相変わらず、賢いくせにたまにぼけている。


「今日は少し遠くまで行ってみよう。」


昼間のうちに歩けば、いつもより遠くまで魔獣狩りに行けるだろう。



別に隣町だけが特別酷い被害に遭っているわけではないのである。

獣除けの香を置いておけば、ある程度の魔獣は寄ってこない。

効果は短いが、交代制で用意すれば問題はない。

この街も隣街も焚いている。

隣街で出た被害も、香の効果が及ばない街の中でも人の滅多に訪れない場所や、獣除けの香の用意が遅れたりした所のみだった。


しかし、香の原料となる薬草も都合よくたくさんあるはずがなく、取れる場所に行くにはまず、魔獣がたくさんいる場所を突っ切らなければならない。

ましてや、そんな事が出来る人間は限られていて、圧倒的に人手が足りないのだ。

国が一度王都に集め、それをそれぞれの街に配給するため、節約するためにある程度の香を焚く場所を縮小しなければならないのは仕方がないことだろう。

街がしっかりと安全対策をとれば、被害は無いはずだ。

一日くらい違う所で話を聞くのも良い。


「ここら辺のは小さいけど、山を越えた所はどうだろう。」


山を越えなければ隣街以外の街は無い。

それゆえに、情報はなかなか回ってこないのだ。

魔獣は形が全て同じわけではない。

犬や鳥のように様々だ。…大きさは人を喰らった数による。色は全体的に黒い。

そのため夜になると魔獣がいると気づかず、うっかりと香の守りの外に出てしまう人が絶えない。

アルティシアの街から少し離れた森や隣街付近で出るのは、猪くらいの大きさの鼠のようなものが一般的だ。

すばしっこくはあるが、アルティシアなら一匹につき一発の弾丸で事足りる。

しかし、まだ見たことはないが、鳥のように空を舞い、急降下して嘴で人間の体を貫くという魔獣や人を喰らい大きくなりすぎて香が効かない魔獣もいるらしい。

アルティシアは情報を手に入れるために、山を越える準備を始めた。




アルティシアが少し速く歩くと、その街には空が赤く染まる頃には着く事ができた。

ふう、と一息つく。

予想以上に山には魔獣が多かった。

それに加えて、やはり隣街よりも大きなものが多いようだ。

自分の前では飛ぶことはなかったが翼を持っている魔獣もいた。


「まったく…これで香が切れたら酷いことになるな。」


呟き、アルティシアは街の中へあしを踏み入れた。



そして不思議に思った。


音がしない。


香の香りが強く鼻をつく。


街の入り口とはいえ、これほど強い香の香りはアルティシアも嗅いだことがない。



人が、いない。



これらは、あまりにも、おかしなことだった。



入り口の、ずらりと並んだ建物を横切って街の中を見た時、アルティシアはそれを水たまりだと、思ったのだ。

――――紅い水たまりだと。

きっと、赤く染まる空を映しているのだろうと。

しかし、ひとつだけ見間違えようもないものがいた。

あまりにも、この街に不釣り合いな。

そしてそれは、否応なくアルティシアに現実を理解させた。


「あ、あぁ、あ。」


まさしく、血の海となったそこに、化け物はいた。


赤い太陽が沈み、空を闇が支配していく。

その闇にさえ染まらぬほどの漆黒。

返り血を浴びた顔、牙、爪。

広げればきっと、彼女の視界を覆い尽くすだろう翼。

そして金の瞳。


アルティシアは、美しいと思ったのだ。

その、街のすべてを壊し尽くした魔獣を。


金の瞳がちらりと自分の方を見た気がした。

魔獣はその巨軀を大きな翼で軽々と持ち上げ、街から飛び去った。


アルティシアは茫然と去っていく魔獣を見る。

そして、ふと気づく。

あの方角は――――…。

気づいた瞬間に、駆け出した。









魔獣が飛び去った方角には、アルティシアの愛する街があった。









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