黄昏色の朝に
少女は歩いていた。
真っ白なドレスを翻し。黄昏色の髪をたなびかせ。まるで彼女の歩く道だけが正しい道だとでも言うように堂々と。
少女の名はアルティシア。
後に、伝説として語り継がれるようになる。
* * *
「…アル!どこにいるの、アル!」
ああ、姉が呼んでいるなあと思いながらも、うとうとと、まどろみの中から抜け出す事が出来ない。
「アルティシア!またそんなところで…!早く降りてきて!」
見つかってしまったらしい。下の方から声がする。ちらりと姉の姿を目だけで見て、アルティシアはもう一度目を閉じた。
さすがにそんな細かな動きまでは見えないはずなのに、なぜか姉には伝わったようだ。
「アルティシア、降りてきなさい」
はあ、とアルティシアは深く溜め息をついた。
そんな風に恐ろしい声を出すから、小鳥たちが逃げてしまったではないか。もちろん、心地よい眠気も一緒にどこかへ飛び去っていってしまっている。
「はいはい。今降りますよ、お姉様」
そう言って、アルティシアは思い切りよく木の枝から飛び降りた。
ふわり、と美しい髪が風になびく。
姉のフィーエルは思わず一歩下がった。
妹が木の枝から落ちてきたからではない。そんなことはよくあることだ。いや、むしろない方がおかしいとさえ言える。
アルティシアの髪は光の加減によって、色を変える。
そしてそれを無造作に背中に払う妹の姿は見るものに、神々しさをかんじさせるのだ。
フィーエルは、アルティシアが一度その髪をばっさりと切ろうとしているのを見て、慌てて止めたものだ。
本人はあっけらかんと、だって鬱陶しい、何て言葉で終わらせようとしていたけれど。
まったく、神様は采配を間違えただろうと思う。自分ならもっとこの髪を有効に使えるのに。
そんなことを鬱々と考えているフィーエルをアルティシアは呆れた顔で見た。
この姉は、賢いくせにたまにぼけていて良くない。溜め息をもう一度つきつつ言った。
「…お姉様、早く、と言ったのはどちらでしたか。何か私に話があったのではないのですか?」
はっ、とフィーエルが顔を上げる。ようやく現実に戻ってきたようだ。
「そう。そうね、話があったのよ。」
なぜかフィーエルは小さく深呼吸のようなものをした。姉のこんな顔は珍しい。あまり良くない話なのだろう。アルティシアも知らず知らずのうちに手のひらを握り込んだ。
「近々、討伐があるようよ。それに今度はお父様とお兄様も…」
自分でもさぁっと顔の血の気がひいていくのが分かった。
ーーー討伐…。
この国には長い争いの歴史がある。
昔、この国に神がいた頃、人間は約束したそうだ。今は王宮の奥深くに隠されているという、”銃”。
それを使い、魔獣を倒すと。
しかし、それを持ち、使いこなせたものはいない。
魔獣は人を殺し、肉を喰らい成長していく。
人の血肉によって大きくなった魔獣は村一つ全滅させるだけの力を持つという。
それを防ぐために行われるのが、討伐。
魔獣は”銃”でなければ倒せないというわけではない。普通の銃や剣でも倒せることは倒せるのだ。
一年に一度、魔獣を殺すために討伐隊に民が集められる。
それに今度は父と兄が呼ばれたのだ。
そして、討伐に呼ばれた人間は二度と帰ってくることがない。魔獣を殺すまで帰れない。
人間が魔獣を一匹殺すごとに、魔獣は人間を十人は殺す。
逃げて帰ってきてもこの国に居場所はない。
王の命令に背いたとして死刑になる。
永遠に戦い続けるしか、生き残る術がないのだ。
「出立は一週間後よ。」
フィーエルは静かに言った。
それはアルティシアが8歳の時の事だった。
文章が見にくいかもしれないですが、こんな感じで書いていきます!