第三話
まだ話は動きません
車内中の視線を二人締めしたマルクトたちは、現在東京のホテルでゆったりしていた。
今日は休んで、明日から本気出す予定なのである。
明日の朝に今回の事件を担当していた『魔法自衛隊(略称魔自)』の隊員と合流し、現場を案内してもらうことになっている。
地図だけ渡してもらった方が早いのだが、そうもいかないのが社会というやつで、二人はうんざりしていた。
というのも、『魔自』と『対神隊』は仲が悪いのだ。正確には、『魔自』が一方的に『対神隊』を恐れ、嫌っているのだが。
『魔自』は、いわゆるエリートたちの集まりである。
『魔術』というのは、適性というものがなくだれでも使うことができるが、一つの技術である以上、どうしても得意不得意というものが発生する。
『魔自』は、その『魔術』が得意な中でも、特に優れた者たちで構成されているのだ。
しかし、上には上がいる。
そして、その上が『対神隊』である。
『対神隊』の隊員になるには様々な条件があるが、なによりも、とある『適性』が重視される。
その適性がある者のみが『神殺し』になることができるのだ。
マルクトとホド、ケテルを含む十人はそれがあった。
そして、少なくとも今『魔自』の隊員である者たちにはそれがない。それがエリートたちには我慢ならないらしく、突っかかって来るのだ。
もちろんそんな者たちばかりではないが、それなりの数がいるのは確かで、つい一か月前に入ったばかりのマルクトに対しては特に顕著だった。
現在十六歳のマルクトが、自分たちより強いというのも頭にくるらしい。あと目隠し属性なのも。
ホドも、怠惰なところが真面目な隊員たちには不評で、そんな二人にとっては、明日のイベントは憂鬱でしかないのだった。
「なんかもう、お前だけ対面して場所聞いてから合流でもいいんじゃね?『魔自』のやつは適当に撒いてよお」
「子どもに大人がそんなこと押し付けないでください。社会人でしょう、おっさん」
「おっさんは手遅れな社会不適合者だからいいんだよ。お前はまだ未来ある子どもだ、社会を学んで来させようとする大人の気遣いがわからんのかね」
「開き直るな。面倒事を回避したいだけでしょう、ダメな大人の見本が」
辛辣なことを言いながらも、変わらず声は小さい。
それでも明瞭に声が相手に届くあたり、何かしているのかもしれない。
そんな掛け合いをしている間にも時間は過ぎ、晩御飯とお風呂の時間がやってくる。
結局ホテルでは真面目な話し合いはなされず、マルクトがお風呂の間でも目隠しを外さないという事実が発覚したことがその夜のハイライトだった。
「今回の神隠しの担当の、鹿田と申します、どうぞよろしく」
待ち合わせの場所にいたのは、さわやかな笑みを浮かべる青年だった。その眼が印象を裏切っているが。
つまり、典型的な『対神隊』嫌いの人間だった。
マルクトとホドは、あふれるため息を隠そうともせずにもらしながら、
「………マルクトです」
「ホドだ。ところで地図だけ置いて帰る気ねえか」
鹿田の額に静かに青筋が浮かんだ。さわやかな笑みがひきつっている。
「……こちらも仕事なんでね、そういうわけにもいかないんですよ」
完全にホドが悪いが、本人は悪びれず、むしろさらに怒らせれば帰ってくれないかと画策しているし、マルクトは今日も絶賛目隠し中なため、表情が読めない。
そんな感じで、ぎくしゃくした空気のまま現場めぐりが始まった。
次、ちょっと進展あるかな……?
ああ、切実に文才と計画力がほしい。