第八話
「酷いな、これ」
辺りはまるで空爆でも受けたかのような状態になっていた――地面には大小様々な大きさのクレータが出来、一体何がどうなったのか地面がシワの様に波打ってる場所まである。
俺と同じく無言で外を見ていたババアは、
「思ったよりヤバそうだな。おい、ガキども! こういう場合は生存者を探すのがセオリーだ、手分けして探すぞ! あたしは単独で動く、ガキはガキ同士で組んで動け」
「単独って……一人で大丈夫なのかよ?」
「あ? なんだよ、珍しいじゃねぇか。心配でもしてくれんのか? ……でも、その心配は件の新人に向けとけ。この調子じゃ生きてるのかどうかも怪しいぞ」
ババアは「それじゃあな」と言って、一人で車から飛び出して行ってしまう。
「…………」
「…………」
「…………」
車の中に取り残された俺達の間を沈黙が支配する。
あのババア、一体どこまで自由奔放なんだよ。
「あー、とりあえず車から降りよう」
「…………」
「…………」
姉妹は返事をしてくれない――はぁ、俺は昔からこいつら苦手なんだよな。あんまり喋ってるところ見た事ないし。
ババアいわく、こいつらは姉妹二人きりだとよく喋るが、第三者が居ると途端に喋らくなるらしい。
「さて、これからの方針だが」
喋る喋らないはともかく、俺達は全員車の外に降り、これからの行動の上で必要最低限の事だけ決めにかかる。
「エリスとレイナの魔女狩は同型、どちらも戦斧でよかったか?」
二人は俺の問いに対して黙って頷く、どうやら徹底して俺と喋る気はなさそうだ。正確には俺とではなく、他人と喋る気がないと言った方が正しいのだが。
「俺の魔女狩は知ってのとおり日本刀だ。三人とも前衛っていう微妙な布陣だが、逆に言うなら接近戦ならかなり有利に運べると思う。よって行動する際の陣形は俺が先頭、二人は俺のやや後ろの両サイドに控えてくれ」
と、俺がここまで説明した時だった。
「すみません」
「質問が有ります」
二人は銀色の髪の毛を揺らしながら手を挙げる。
俺は二人が喋らないものだと思っていたので、多少なりとも驚きつつ「ん、なんだ?」と聞き返す。すると二人は鏡合わせにしたような容姿で俺に問いかける。
「なんで巻坂さんが」
「隊長の様な事をしているんですか?」
「え、何でって……」
俺は思わず返答に困ってしまう。
何でと言われても、俺はエクスの部隊長なのだから、隊長の様に振る舞って何が悪いんだ? というか、隊長のように振る舞わなかったら逆に駄目だろ!
と、考えている内に、俺の頭の中には何故かババアの姿が浮かんできた――ああ、確かにあいつは隊長として駄目かもしれない。だって、全然隊長の仕事している様には見えないもんな。
俺が黙っていると、姉妹はめずらしく饒舌に喋りだす。
「私たちが聞いていた話によると」
「巻坂さんは隊長ではないはずです」
「むしろエクスですらないと言う話でした」
「何か間違っている所がありますか?」
あ……そうだ。姉妹に言われて気が付いたけど……俺もう隊長じゃないじゃん! おまけにエクスですらねぇじゃん!
「いや、それはだな……」
く、こんな時にこんな事を言い合っている場合じゃないぞ!
「一般人が何でそんなに偉そうに」
「私たちに命令しているのですか?」
「お、お前らな……いい加減にしろ! むかし面倒見てやったの忘れたのか? だいたい昔はお兄ちゃんって呼んでくれただろうが!」
そう、こいつらの事は確かに昔から苦手だったのだが、まれ話す時は俺の事を親しみを込めて呼んでくれていたのだ――てっきり少しは懐いてくれているのかと思ったのに、一体なんなんだこの態度は!
こいつらは本当に、俺が教えたあのエリスとレイナなのか?
そんな疑いの視線を向けていると、
「お兄ちゃんと呼んでほしいのですか?」
「とんだ変態ですね」
「以前、巻坂さんと仲良くしていたのは地位が有ったからです」
「今のあなたはただの平ですから」
「……っぷ」
「……ぷぷ~」
二人は声をあからさまに笑い始める。
こ、こいつらぁああ……俺がババア以外で女にここまでイライラしたのは、おそらくこいつらが初めてだろう――性格悪すぎるだろ!
俺が目の前の性悪クソ女に最高イライラしている時だった。
「ん、ババアからか」
エクスに支給される無線に連絡が入ったのだ。
『よぉ』
無線からはババアの気の抜けた声が聞こえる――なんだ? 無線の向こうからノイズみたいな音が聞こえる。
「なんの用だよ、ババア。こっちは今忙しいんだよ」
『はぁ? そんな事言ったらあたしだって忙しいっての!』
「はいはい、分かりましたよ。それで何の用だよ?」
そしてババアはまるで何事もないかのように告げた。
『今、魔法少女五人と交戦中なんだけどさ……そっちにも二人向かってると思うから任せたわ』
魔法少女が五人……だと? なにかの冗談か?
やはりババアは狂っているとしか思えない。魔法少女五人を一人で相手出来るはずが、しかも無線をしながらという片手間で……、
『おいおい、黙るなよガキ! なに、まさかビビってんのか? 安心しろ、お前らの所に向かったのはどっちも黒髪ストレートだ。金髪ストレートとか黒髪ポニーテールは、こっちで引き付けといてやっからよ。んじゃなぁ』
言って無線は切れてしまう。
「どうしたんですか?」
「何かあったんですか?」
二人が俺に質問を投げかかれると同時に、遠くの方で爆発音が連続する。
「っ」
もしもババアの話が本当なら……いや、いくらババアとはいえこの状況で冗談は言わないはずだ。だとするなら、こちらに魔法少女が二人向かっていると言う事になる。
「グダグダ遊んでる場合しゃなくなった。いいか、よく聞け」
「凄いですね」
「さっきまで巻坂さんは遊び感覚だったのですね」
「こんな時に遊び感覚だなんて」
「巻坂さんの正気を疑います」
……あれ、こいつらってこんなにイラっとする連中だったっけ? 少なくとも、俺の記憶の中だと、あまり喋らないだけの比較的無害な姉妹だったはずだ。それが一体、どうしてこうなってしまったのだろう?
「…………」
いや、その答えはわかっている。というか本人たちも言っていた。要は俺が平になったからだ――くっ、それだけで手のひらを返したような態度……軽く女性不審に陥りそうだ。
「文句なら後で何とでも言え、今は俺が部隊長をやらせてもらう」
俺は姉妹が何か言いそうになるのを邪魔するように続ける。
「最優先目標はこちらへ向かっている途中に、魔法少女の攻撃を受けたとみられるエクスキューショナーの発見、保護だ。続く目標としてはその他生存者の発見、保護。注意する点として、こちらに魔法少女が二体向かっている恐れがある」
「お話の途中に」
「申し訳ありません」
姉妹が行儀よく二人並んで手を挙げる。俺が「なんだ?」と促すと、
「その魔法少女のランクと進行度は」
「いったいどれくらいなのでしょう?」
あぁ、そうだった。
「すまない、肝心な事を言うのを忘れていた。こちらに向かっている魔法少女は、どちらも髪型はストレート……髪の色は黒になる。つまり」
「最低ランクで最軽度の進行度だと」
「そういう事ですね?」
俺は姉妹の質問に対し、軽く頷く。
「伝えることはあと一つある。明確な場所はわからないが、周囲でババア……叢雲くらむ総隊長が魔法少女五人と戦闘を行っている。戦っているのが総隊長である以上、こちらには関係のない事だと思うが、近くに多数の魔法少女がいることを頭に入れておけ」
さて、俺からはもう話す事はないが、
「何か質問は有るか? なければ作戦を開始する」