第四話
「っ!」
俺の意識はまるで何かに追い立てられるかのように、急激に覚醒する。心臓は早鐘をうち、肺が空気を取り込もうと必死に動き続けている。
「また……か」
二日前、俺が仲間二人を殺したあの日から、俺は毎晩同じ夢を見続けている。まだ二日しか経って居ないのに、俺の精神はここまで摩耗してしまっている。
「何やってんだ、俺は」
もしも本当に豪と莉奈の仇が撃ちたいのなら、もしも本当に豪と莉奈に償いがしたいのならば、俺はこんな所で腐っている場合ではない。一刻も早く精神状態を安定させて、部隊を再編制しなければならない。
「そうしたいんだけどな」
俺が今いる場所はとある組織が所有する建物にある自室だ。
その組織とは魔女狩り部隊エクスキューショナー……通称エクスを育成、管理する組織――魔法少女に鉄槌を与えることを目的としたその組織の名前はシュプレンガー、ここはそこの日本支部だ。
俺は十年以上前からこの組織で暮らしている。故に組織の命令は俺にとってほぼ絶対に等しい。
そして現在、そのシュプレンガーのお医者様から、俺はしばらく休暇を取れとお達しを受けてしまっている。故に部隊編成をしたくても出来ない状況にある。
「実際は休暇ってのは怪しいところだがな」
俺は一人呟くと、汗でぬれてしまった服を脱ぎ、軽くシャワーを浴びる。
体に当たる水が冷たく、ひんやりとしてとても気持ちいい。まるで胸の内にくすぶった黒いものを洗い流してくれているかのようだ。
今回の休暇、おそらく今後の俺の処遇を決めるための準備期間だろう。
俺は仲間二人を失ってしまった。それも俺の判断ミスによる結果でだ。莉奈と豪の魔女狩を回収できたのは不幸中の幸いだが、それでも尊い人命が失われたことには変わりない――何度も言うようでくどいかもしれないが、その尊い人命が失われたのは俺のせいだ。そう、俺のせいなのだ。
全ては部隊長である俺の責任なのだ。
常識的に考えれば、何の罰も下らない訳がない――よくて謹慎、順当に考えるのなら降格処分ってところだろう。
「どっちでもいい」
謹慎だろうと降格だろうと……エクスとして戦い続けられることが出来ればそれでいい。豪と莉奈を失ったことにより、俺にはまた魔法少女を狩らなければならない理由が出来てしまった。そのためにはエクスとして生き続けることが最低条件だ。
いずれにしろ、俺は今出来ることをするだけだ。
いざ俺をどうするかの結論が出た時に、当の俺の精神状態がこれではお話にならない。それこそ謹慎や降格どころか、除隊される可能性すら出て来てしまう。俺が知る限りこの組織には、使い物にならないエクスに魔女狩を与えている余裕はない。
なぜなら、魔女狩とは作成するのにも人の命を使うからだ。魔女狩についている心臓は、それ即ち魔女狩を作る際の生贄となった人間の数に等しい。
基本的に魔女狩は心臓が増えれば増えるほど強力になっていく。心臓が二つあれば賢者の石でのチャージ時間は二分に、瞬間的に出せる力は単純計算で二倍になるだろう。もちろんそう簡単に心臓二つ持ちの魔女狩をつくることは出来ないのだが……。
俺は体を拭き、服着るとベッドに横になる。
天井を見上げたままぼうっとしていようかと思ったのだが、先ほどの夢のせいで無理やり覚醒させられた俺の脳は、まだ睡眠を必要としていたのか眠気が襲ってくる。
どうせ起きていてもすることはない。ならば寝ている方がいいだろう。
そう判断して瞳を閉じると、俺の意識は瞬く間に深い闇の底へと落ちて行った。