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第三話

「だからって、諦める訳には行かないだろうが」

 仲間を目の前で殺されて、冷性に撤退の指示を出せるほど俺は大人ではない。というより、仲間の死に冷性でいられるのが大人ならば、俺はずっと子供のままでいい。

 俺はすぐさま魔法少女の後を追って瓦礫から飛び降りる。

「え~い☆」

 気の抜ける声と共に魔法少女は俺へ細いビームを連射してくるが、この程度の威力ならば問題ない。俺は全てのビームを天魔を使って撃ち払う。

注意しなければならないのは、先ほど豪を殺したビームだ。あれはどう控え目に見ても、確実に人一人を丸呑みするほど大きさだった。あんなものを撃たれら、今のビームと同じように天魔で対処するのは不可能に近いだろう。

 もし撃たれたらどうする? 避けられるか?

 そんな発想が思い浮かんだ次の瞬間、俺は自分を呪った。

 もし撃たれたらどうするか? 避けられるか? そんなの決まっている。

 避けるしかない。

 避けなければ殺される。豪を殺したコイツを殺すこともできないまま殺される。それだけは有ってはならない。こいつだけは絶対に殺さなければならない。

 俺はビームを撃ち払いつつも魔法少女へ突進していく。途中、ビームに腕や足を抉られるが、そんなのは気にしない――その程度で寿命が縮まる訳でもないから。

 俺が魔法少女の目の前で天魔をおおきく振りかぶると、魔法少女は片手をステッキに当てて防御の体制をとる。どうやら今度は避けるつもりがない様だ。はたしてその行動が、避ける必要もないという意味なのか、避けられるタイミングではないと思ったのか……どちらなのかはわからない。

「叩き切ってやる」

 例えどちらであろうと関係ない。

 俺の渾身の一撃はたやすく受け止められるが、そんなのは予想の範囲内だ。

 俺は続けて天魔による攻撃を魔法少女に叩き込んでいく。その度に魔法少女は笑いながら「わー☆」と言いながら俺の攻撃を完全に防いでいたが、今の俺に出来る事は攻撃しかない。

「…………」

 俺のせいだ。

 俺がこの魔法少女をどうするか決めるのに時間をかけてしまったから、その結果として豪が死んだ。いや、殺された。

 もう少し、ほんの少しでも早く「奇襲をかける」という選択肢を選んでいれば、豪は死ぬことはなかったかもしれない。今もここに居て、俺と一緒に戦ってくれていたのかもしれない。

 今となっては全てが遅い。

 奇襲は失敗。魔法少女に先制攻撃を受け豪は死亡、単独にて交戦。莉奈は……目の前で恋人が文字通り蒸発したんだ、おそらく心神喪失状態だろう。現にさっきから莉奈の悲鳴が聞こえなくなった。

 たった数秒。

 たった数秒、俺が選択するのが遅かっただけで最悪の結果を導き出してしまった。

 仮に早めに選択し、今の状況を回避したとしても豪が死ななかったとは限らない。そういう意味では豪が死んでしまったのは仕方がない事なのかもしれない――豪だってそういう覚悟で魔法少女と戦っていたはずだ。

しかし、そんな事はわかっている。俺が今後悔しているのは……俺が今感じている罪はそういう事じゃない。

 魔法少女に勝てないのではないか? その恐怖が俺の判断を遅らせた。

 魔法少女への恐怖が、俺達なら勝てるという仲間への信頼を上回った為、豪は死んだ。

 だから俺のせいだ。

 豪を殺したのは魔法少女なく、

「えーい☆」

 気が抜けた掛け声と共に、俺の右手首に激しい痛みが走る。どうやらステッキで思い切り叩かれたようだ――手首がおかしな方向に曲がってしまっている。

「っ……!?」

 しまった、余計な事を考えすぎた!

 俺は魔法少女の満面の笑みの向こう側に飛んで行く天魔を見上げた。

 なんだよこれ、終わりかよ? 豪の仇も撃てないまま死ぬ?

「え~っと☆ マシカル……なににしよ?」

 魔法少女は勝ち誇るように笑うと、こちらにステッキを突き出してくる。突き出されたステッキは眼がくらみそうな光に包まれ、

「あ、よし☆ マジカルなんとか~☆」

 ふざけた言動とは裏腹に、確実に俺の命を刈り取る一撃が向けられる。


 そして、胸を貫いた。


「あ☆ え?」

 魔法少女の胸の中心――そこには俺が隠し持っていった豪の魔女狩が突き刺さっていた。

「とどめを刺す時なら絶対に油断するって思ってたよ」

「なに……これ?」

 魔法少女は自分の身に、いったい何が起こっているのかわからないと言うかのように、漠然とした疑問を繰り返している。

「……あ☆」

 握られていたステッキが地面に落ちる。それを茫然と見つめる魔法少女――その虚ろな瞳でいったい何を思っているのだろうか?

「悪い……とは思わない、魔法少女はこの世に居てはならない存在だ」

「ま、まじか……る☆」

「俺の寿命の一年分、きっちり持ってきやがれぇえええええええええええええ!」

 俺は豪の魔女狩に大量の生命力を注ぎ込む。

「ま、まじ☆ ……マジマジマジマジマジマジマジマジマジマジマジマジぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい☆」

 豪の魔女狩が一瞬光り輝いたかと思うと、次の瞬間。魔法少女は肉片をばら撒きながら粉々に四散した。

「…………」

 勝った。

 勝った……のに、なんで。

 何でこんな気分なんだろう? まるで穴の開いた瓶に水を灌ぐように、俺の心から嬉しさや達成感が漏れてしまっているかのようだ。

「……豪」

 俺は天魔を回収し腰の鞘に納めると、もう一人の仲間の下に向った。豪は死んでしまったけど、生き残ってくれている仲間の下へ。

「大丈夫か、莉奈?」

「…………」

 返事はない。

 そうだ、大丈夫なわけがない。さっき自分で考えていただろう、目の前で恋人を殺されたんだ。平気なわけ、

「……る……か……」

「莉奈?」

 莉奈はボソボソと何か言っている。

 俺は莉奈の精神面が心配になり、莉奈の前でしゃがみこんで目線を合わせる。

「莉奈、しっかりし……っ」

 俺はとっさに立ち上がって後ずさる。

 気が付いてしまった。

 莉奈が何と言っているのか……気が付きたくもなかった事に気が付いてしまった。

「……かる……まじか……る…………まじかるまじかるまじかるまじかるまじかるマジカルマジカルマジカルマジカルマジカルマジカルマジカルマジカルマジカル☆」

 瞬く間に莉奈の体を神聖な光が覆いだす。その光が撫でた所は衣服が剥がれるように分解されていき、傷や汚れが清められるかのように消えて行く。

 莉奈は一糸まとわぬ姿になると、体が徐々に宙に浮かんで行く。

「これは……」

 間違いない、以前これと同じ現象を見た事が有る。

 これは魔法少女化だ。

 特定の条件下で女の子が絶望し、無垢なる祈りを捧げた時に起きる現象。絶望への抵抗の証にして、人類へ絶望を与える象徴。

 決断するしかない。こうなったら残る手段は一つしかない。

「魔法少女は」

 俺は覚醒前の魔法少女にゆっくりと近付いていく。

「この世に居てはならない存在だ」

 ゆっくりと、莉奈との別れを惜しむように……ただゆっくりと、豪の魔女狩を新たな魔法少女の胸へと突き立てた。


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