第三十七話
「本当によかったの?」
「しつこいぞ」
シュプレンガー日本支部が魔法少女に襲撃されてから数時間後、俺と夏音は街道を二人並んで歩いている――シュプレンガー日本支部から離れるための街道を。
「……でも」
少し不満そうな……いや、不安そうな声を上げているのは夏音――彼女は今、俺が途中に寄った町で買ってあげた服を着ているのだが、どんな服を着ていてもやはり可愛らしい。
「だから気にするなって」
「…………」
夏音が気にしているのは、俺がエクスを止めた事だ。より正確には言うのなら、シュプレンガー日本支部から逃亡したことだ。
俺がそうした理由は一つ、魔法少女である夏音と一緒に居たかったからだ。
だから逃亡した。
だからエクスを辞めた。
あと数日したら、俺は指名手配に……夏音は討伐対象として指定されるだろう。
だが後悔はない――これだけは断言できる。俺はしたいと思ったことをしただけなのだから。
「ねぇ、真理」
「なんだ?」
俺は上目使いでこちらを見つめる夏音の方に顔を向けた。
「これからどうするの? これからどこに行くの? これから……」
不安なのか……おそらく夏音は不安なんだろう。
自分が今までとは異なる存在になってしまっただけでなく、今まで居た場所にもいられなくなる。終いには先の見えない逃避行に出なければならなかったのだから。
この逃亡劇は俺がしたいと思ってしたこと。ならば、それに付き合わせている夏音を安心させるのは、俺の役目ではないだろうか?
「そうだな、こんなのはどうだ?」
「?」
俺は夏音を安心させるように、笑顔で彼女に告げる。
「お前をもとに戻す方法を探す旅」
「わたしを?」
「ああ、そうだ。ついでに他の魔法少女も元に戻す方法を探したりさ……そんな目標の旅をしないか?」
「……あ」
呆けた顔をしている夏音。
彼女は今、俺の言葉を聞いてどう思っているのだろう?
「どうだ? 二人なら楽しいと思うんだけど……さ」
夏音の反応が怖くて、語尾が少しかすれてしまう。
一方、そんな彼女の返答は。
「うん」
肯定だった。
「真理とならどこへでも行くわ! それにわたしもしたい事が有る」
「したいこと?」
「うん。わたしは真理の寿命を取り戻したい」
「っ」
そう、俺の寿命は八岐大蛇を全開で使用したせいで、かなり減ってしまっている。具体的な数字はわからないが、三十年分くらいは使ってしまっただろう。
「気づいていた……のか?」
「当然よ! だってわたしは」
「天才?」
「むぅ~~~~!」
「うおっ、痛いっての! すぐ殴ったりするのやめろよな!」
ったく、こいつは根本的なところが何も変わっていない。まぁだからこそ好きになったのかもしれないが……もちろん、俺がドMだからとかそういう意味ではない。なんだか夏音と居ると、
「何よぉ!」
「何でもねぇよ。それより腹減ったな、早く次の町に行こうぜ」
「あ、待ってってば!」
夏音といると、そう。
退屈しないというか、落ち着くと言うか……なんていうんだろうな。
あぁ、丁度いい言葉が有った。
こいつといると、本当に幸せだ。
最後まで読んでくれた人は、ありがとうございますです。
今後も作品出していくと思いますので、読んでくれると嬉しいですお。




