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魔法少女マジカルでぃすぺあ  作者: アカバコウヨウ
第六章 処刑者を処刑する者
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第三十三話

「マジカルジャッジメント!」

 まるで太陽のような光の奔流、魔法少女が放つ究極の一撃は、

「叢雲!」

 究極の魔女狩によって防ぎきられる。

 くらむと魔法少女の力は完全に拮抗していた。

「マジカルランス!」

 技名と共に空中に光が集いだす――それはやがて無数の槍へと姿を変え、くらむへと襲いかかる。

 あらゆる方向から一斉に襲い来る光の槍は、並みのエクスではなすすべもなく串刺しになっていただろう。だが、ここで戦っているエクスは並のエクスとは違う。

 魔女狩を七本の刀剣へと分裂させ、その全てを使って槍を叩き落とすくらむ――そんなくらむは戦っていると言うより、まるで舞踏でもしているかのようであった。

 しかし、くらむには不利な点が有った。

「っ!」

 止まったまま一方的に攻撃している魔法少女には関係のない事だが、屋根の上全てを縦横無尽に駆け回りながら、様々な態勢で動き回るくらむには、どうしようもなく不利な点が有った。

 それはフィールドだ。

 くらむと魔法少女が戦っている場所そのものだ。

 つまりは屋根の上――全体的に斜めになっており、気を抜いたら地面まで滑り落ちかねないそこは、常にくらむに余計な気を使わせる最悪なフィールドだった。現にくらむは今までに何度も危うい時が有った。

 そしてそのせいで、くらむはまだ一度も攻撃に移れていないのだ。

 拮抗してはいるが、決して有利とは言えない戦局。

 これを打ち崩すためには、

「だぁああああああ! 邪魔だ!」

 屋根を打ち崩した。

 より的確に言うのならば、くらむは八岐大蛇で屋根を横なぎし、頂上付近を消し飛ばそうとしたのだ。その結果残ったのは、

「これで平らになった」

 平らに変貌を遂げた屋根だった――もっとも、厳密に言うのならばまったいらという訳ではない。所詮は力で強引に平らにした物、地面はごつごつしているし、屋根だったものの一部が瓦礫となって散乱している。

「自分たちで作った物を自分たちで壊す……あなた達の行動は理解できないわ」

 聞えてくる声、くらむの視線の先には魔法少女が居た。

 先程までとまるで変わらない姿の魔法少女が居た――どうやってくらむの攻撃を躱したのか、はたまた受け止めたのかはわからないが、ダメージらしいダメージは受けていない様だった。

「てめぇに攻撃しようとした一撃じゃないとはいえ、ノーダメージとは思わなかったなぁ」

「ふふ」

 くらむの反応を見て楽しそうに笑う魔法少女、自分の力は見せつけられてそんなに嬉しいのだろうか?

「どっかのメスガキみたいな性格してやがるな」

 声にならないほどの大きさで呟くくらむ。

「何をぶつぶつ言っているのかしら?」

「あぁ? 何でもねぇよ……さて、そろそろ終いにしようか。お前を殺してハッピーエンドだ」

 言って八岐大蛇を魔法少女へと向けるくらむ。

「おろかね」

「さっきから何だてめぇは? 自分は特別だみたいな雰囲気で喋りやがってよ……アレか? 昔流行った病気……なんつったけな?」

「その余裕の態度、本当に愚かだわ」

 くらむの挑発を軽く流して話を続ける魔法少女。

「あなたは自分が戦えば、全て解決すると思っているのでしょう?」

「…………」

 魔法少女の言う通りだった。しかし、

「だからどうした?」

 そう、その事は何のデメリットにもならない。

「あなたは絶望した事があるかしら? 本当の絶望を味わってみたくはない?」

「絶望だ?」

「ええそうよ、蜜よりも甘い絶望……それに身を」

「黙れ、あたしは絶望なんてしない。あたしの眼が届く範囲では、絶望するような悲劇は起こさせない」

「……そう。なら試してみましょう」

 言って魔法少女は頭上に光を集め出す。

 意味深な事を言って結局ビーム……所詮は低脳クソバカ女ってことか。

 くらむは心の中で、ひとしきり毒を吐き終えると、八岐大蛇を担ぎ態勢を低くする――魔法少女が自分へと攻撃を放った瞬間、それを避けて、さらに魔法少女へと切りかかるつもりなのだ。

 そして、そんなくらむの作戦は、

「マジカルメテオ!」

「っ!」

 見事に成功する。

 あらゆる意味で完璧に攻撃を回避し、魔法少女へと切りかかる。

 これであたしの……あたしたちの勝ちだ。

 くらむが思ったことは正しかった……が、一つだけ誤算が有った。くらむにも回避しえなかった誤算が。

 八岐大蛇が魔法少女を斜めに切り裂こうと動き出す直前、魔法少女は言った。口元を邪悪に歪めながら。少女に相応しくない妖艶な雰囲気をたたえながら。


「避けて……いいのかしら?」


 なに!?

 くらむは魔法少女の言葉を聞き、瞬時に思い出す。

 マジカルメテオの名前の通り、くらむを押しつぶすかのように、斜め下へと落下してきた神速の光球――それがそのまま進んだらどこへ行くのか? どこへ落下するのか?

魔法少女はさっき何と言っていた?

『あなたは絶望した事があるかしら? 本当の絶望を味わってみたくはない?』

 前後の会話から考えるに、この魔法少女の本当の狙いは……、

「真理か!?」

 とっさに後ろ振り返ろうとするくらむだが、それを必死に押しとどめる。

 しかし、今は戦闘中だ。そんな大きな隙を魔法少女が見逃すはずがない。

「ほらね、やっぱりおろか」

「て……めぇ……」

 言葉にもならなかった。

 くらむの腹を直撃したステッキは、彼女の内臓を破壊するだけでは飽き足らず、彼女を時計台から吹きとばす。

「ま、ず」

 咄嗟に態勢を立て直したくらむだったが、そこは既に空中。さっきまで居た場所が上へ上へとどんどん離れて行っている――ようするに、今現在くらむは落下している最中だ。それも屋根から地面まで真っ逆さまに。

「くそ野郎がぁ!」

 声を出すた、びに血が口から出る。

 さっきの攻撃で確実に内臓を損傷した様だ。医術の心得がないくらむには、自分の受けたダメージがどれほどのものなのか、そもそも損傷した内臓はどこなのかすらわからなかったが、戦闘を続けるのに致命的なダメージを受けてしまったのはわかった。

「クソガキに気を取られて……なんてざまだ」

 地上まではあと少し、そろそろ何かしらのアクションを起こさなければ、くらむは地面に赤い花を咲かせることになるだろう。

「成功するかはわからねぇが」

 くらむは八岐大蛇を逆手に持つと、

「やるだけやってみっか!」

 時計台と壁へと突き刺した。

「ぐっ……あぁあああああああああああああああああああああああ!」

 かなりの速度で落下していたところに剣を突き立て、速度を殺そうとしたのだ――おまけにくらむは隻腕、支点となる腕には相当な負荷がかかるのは当たり前である。

 だが、その甲斐あって速度は、

「止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれぇええええええええええええええええええ!」

 ここに来て八岐大蛇の切れ味が仇となった。

 くらむの予想以上に速度が落ちなかったのだ。

「くっそ……!」

 地面までの距離は……もう、

「あたしを舐めるな!」

 地面まで残りわずか、常人ならもうそろそろ色々と諦め始めるところで、くらむは新たな行動を起こした。

 くらむは八岐大蛇を壁から引き抜くと同時に壁を蹴り、ほぼ水平に飛んだ。もちろん、これでけで速度が完全に殺されるわけはない……が、くらむの行動もそれだけでは終わらない。

「っらぁあああああああああああああああああああああああああ!」

 地面への着地……墜落間際に、くらむは体を空中で前へ回転させながら、八岐大蛇を地面へ全力で叩き込む。

「…………!」

 落下の速度を殺すために八岐大蛇を壁に突き刺したくらむだが、それで完全にに速度を殺せないと思ったくらむは、こう考えたのだ。

 だったら攻撃の衝撃で、殺しきれない速度を殺す。

 まさに攻撃こそ最大の防御――一見、メチャクチャに見えるこの作戦は、

「成功……か」

 無傷でとはいかなかったまでも、ほとんど無傷での墜落に成功していた……ここまで上手くいったのならば、むしろ着地と言っても差し支えないほどかもしれない。

「あの野郎、あたしに泥を塗りやがって……まぁ今いい」

 くらむには現在、魔法少女に報復するよりも大事な事が有るだ。それも大至急やらなければならない事が。

「あのクソガキはどうなった」

 無事なのか?

 無事でいて欲しい。

 だけど、あの攻撃を真理が避けられるとは……っ!

 くらむの頭の中に次々によぎる言葉。

「あたしらしくねぇ!」

 確かにくらむらしい言葉ではなかった。

「何をうじうじ心配してんだ、あたしは!? さっさと確かめに行けばいいだけだ!」

 そうだ、真理の無事を確かめてから、あの魔法少女をミンチにすりゃあいい。

 と、くらむは頭の中で一応の踏ん切りをつけると、真理と夏音が居たであろう辺り――魔法少女の攻撃が命中したであろう辺りへ向けて走り出す。


「…………」

 探していた場所はすぐに見つかった。

 しかし、探していた人物は見つからなかった。

「…………」

「おい、メスガキ」

 見つけたのは瓦礫で埋もれた大穴の前で、放心している夏音だけだった。

「…………」

「聞こえてんのか?」

 くらむの問いかけに対し、まるで反応しない夏音――彼女の眼は夜の様に暗く、例えようもない黒く淀んだ何かをうつしているかのようだった。ただ黒く、ひたすら黒く淀んだそれが何なにかはわからない。だがしかし、それに名前を付けるのならば、きっとそれは……、


「いい感じに絶望してるわね、彼女」


 夏音に駆け寄ったくらむの背後から聞こえてきたのは、時計塔からくらむを落とした張本人、魔法少女の……。

 ここでくらむは一つ大事な事を忘れていたことにに気が付く。

「てめぇの名前は?」

「ふふ、化物に名乗る名前はないのだけど……特別に教えてあげるわ。私の名前は……」

「やっぱいいわ」

 自分で聞いたにも関わらず、くらむは魔法少女の名乗りを止める。

「…………」

「そう睨むなよ。いやな、クソガキを殺した魔法少女の名前くらいは覚えておこうと思ったんだが……どうせお前はここで死ぬ。考えてみたら、そんな奴の名前を憶えていても仕方がねぇとおもってな」

「ふふ、そう。確かに覚えていても意味がないかもしれないわね」

「だろ? はっ、まさか魔法少女と気が合うと……っ?」

 何が起きたのか、突如口から血を吐くくらむ――吐いた血の量から考えて、どう考えてもさっきの怪我が原因ではない。

 だとすれば一体原因は、

「参った……な」

 原因はすぐわかった。

 腹からにじむ血、見ればくらむの腹には穴が開いていた。

 穴をあけたのは光輝く銃弾。

 それが意思を持つように動き、不可避の攻撃を仕掛けたのだ。

 攻撃を放ったのは、


「魔法少女かのん、参上☆」


 漆黒のツインテール、そして魔法少女の衣装に包まれた胡桃夏音がそこには居た。

「メス……ガキがぁ」

 崩れ落ちるくらむ……いや、

「ふざけるな」

 やられるわけにはいかないのだ、全てのエクスキューショナーの頂点に君臨する存在が倒れれば、全体の指揮に関わる。故に倒れる訳にはいかない。

 くらむはふらつく体を必死に支え、二人の魔法少女と戦う姿勢を取る。

「ふざけるなよ……二体一がどうした」

「ふふ、滑稽ね」

「わたしもそう思うわ☆」

 くらむの闘志を笑う魔法少女達。しかし、その程度ではくらむの意思は揺るがない。

「あたしは叢雲くらむだ! 負けられない、絶対に負けねぇ!」

 ここに最強のエクスと魔法少女達の最後の戦いが幕を開けた。


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