第二話
「しっかりしろよ、隊長」
今だどうすべきか決めかねている俺に、豪が近づいてきて声をかける。
「何を気にしてるかはわかるけどよ、俺が十秒以内に決めれば問題ないだろ?」
ああそうだ。確かに十秒以内に決めれば何の問題もない。俺達は寿命を削ることなく、魔法少女を打破する事が出来る。でも、
「だったら奇襲を仕掛けるしかないだろ? こっちから出て行こうぜ」
難しい事を簡単に言ってくれるな。こいつがこんな調子で言うと、実際に簡単に出来てしまいそうに聞こえるから不思議だ。
「わかった、俺達は今から魔法少女の討伐を開始する。俺と莉奈が囮になる、機会が有ればお前が止めを刺してくれ。可能なら十秒以内に……な。万が一それに失敗した場合、全員での戦闘に……」
「失敗する時の事は考えるなって叢雲さんが言ってたぜ?」
「っ……あいつのことは」
あいつの事なんか今聞きたくない。俺がそう言おうとした正にその時、
「逃げて、二人とも!」
少し離れた位置でこちらを見ていた莉奈が突如声をあげる。続いて聞こえてきたのは、
「マジカルマジカル~☆ そこに居たのだ~☆」
可愛らしい女の声。だがしかし、俺にはそれがともても禍々しいもののように聞こえた。
「豪!」
「わかってる!」
いつの間にか瓦礫の上に立ち、俺達を見下ろす恰好で立って居た魔法少女に向け、豪は自らの魔女狩を構え、
蒸発した。
魔女狩を握りしめた手だけを残して蒸発した。
なにが起きたのかわからなかった。
違う、何が起きたのかはわかった――魔法少女がステッキから放ったビームが豪に直撃したのだ。そうしたら豪がその場から消えていた。
わからなかったのは何だ?
何が分からないのかわからない。
俺の頭は目の前の状況に対し、永遠とエラーコードを吐きだし続けている。
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
近くで悲鳴が聞こえた。
「悪を滅ぼす光、マジカルホーリーなのだ☆」
目の前でふざけた技名を宣言された。
そこでようやく理解が追いつく。
「ああ」
豪は死んだのだ。
「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。
「絶対に許さない、お前は俺が殺す!」
「ほえ? 何でそんなに怒ってるの?」
「黙れ!」
俺は腰から乱暴に天魔を引き抜き、必要以上に餌を与える。魔女狩の心臓を動かすための餌――俺の寿命と言う名の餌を与え続ける。
我ながら無駄な事をしていると思った。こんなのは寿命の無駄使いに等しい。攻撃をあてる瞬間だけ寿命を与えるなど、効率的な方法は考えれば山のように出てくる。しかし、沸点をとうに超えた脳みそが、冷性にそんな事を考えるのを許してくれない。
「絶対に殺す」
瓦礫を一気に駆け上がり、横に一閃。
「わわ☆」
瓦礫の上から飛び降り、余裕といった感じでよけられる。
そもそも人間とは比べ物にならない身体能力を持つ魔法少女。本当ならば、魔女狩を用いたとしても倒すどころか攻撃を当てることをも困難なのだ。その為のスリーマンセル、そう……魔法少女とは一人で戦って善い相手ではない。
少なくとも二人だ。
二人いて初めて可能性が見えてくる相手なのだ――それは例え相手が最弱の部類である魔法少女でも変わることはない。それほど人類と魔法少女の差は歴然なのだ。
「だからって、諦める訳には行かないだろうが」