第二十八話
「ねぇねぇ、どこ行くの?」
「とりあえず、やってる店を探す事から始めようと思う」
「ふーん」
意外だ。
夏音なら確実に不機嫌そうに文句を言ってくると思っていたのだが、本当に意外だ。今の夏音は不機嫌どころか、どこか楽しそうでもある。何が楽しいのかは全くわからないが――まぁ大方、朝飯の事でも考えているのだろう。
一緒に生活し始めてわかった事だが、こいつはよく食べる。そして、味に妥協をしないタイプだった。俺が作った料理に対し、駄目だしをしてきた数なんか数えきれない。
「ねぇねぇ」
「なんだよ? まだかかると思うぞ」
「違うわよ! そんな事を言おうとしたんじゃないわ!」
「ん、ああ。代金は割り勘な」
「真理ってバカよね」
「は?」
こいつに言われたくない。
こいつにだけには言われてはいけない気がする。
「わたしが言いたいのは……ほら、少しお話でもして歩きたいかなーなんて」
夏音はややうつむきながら呟いた。
「べ、別に真理と話がしたわけじゃなく、その……暇だからよ! 暇だからどうかなーなんておもっただけよ! 奴隷のくせに勘違いしないでほしいわ!」
「…………」
俺はまだ何も言っていない、どうした夏音? ついに壊れたか?
でもまぁ暇なのは確かだ。
「話題は? なんかあるのか?」
俺が問いかけると、夏音パッと花が咲いたような眩しい笑顔を浮かべる。
「あるわ! わたしのどういう所が凄いか、これについて話ま……」
「却下」
即答だった。
なんで朝っぱらから、夏音のどこが凄いかなんて話さなきゃいけないんだよ? 最終的に夏音の自慢話を永遠と聞かされるに決まってる。
「なんでよぉ?」
「はぁ……時々思うんだが、よくお前みたいなバカがエクスになれたよな」
「失礼ね! わたしはバカじゃないわ、天才よ! エクスだって推薦みたいのでなったんだから!」
「推薦?」
なんだそりゃ? と、聞くまでもなく説明し始める夏音。どれだけ自慢話が好きなのだろう?
「そうよ。わたしの両親は魔法少女の殺されちゃったんだけどね、その時にわたしはシュプレンガーに拾われたのよ」
なるほどね、家族を殺されてシュプレンガーに拾われるのはよくある話だ。
「精神的に落ち着いてから、わたしはエクス育成機関に連れてかれたんだだけど……そこでわたしの天才ぶりが開花したわ!」
「ちょっと待て」
俺が夏音の話を遮ると、彼女は不機嫌そうに「なによぉ」と口をすぼめる。
「今の流れだと、推薦要素がどこにもないんだが……推薦どこいった?」
「真理って本当にバカね! 拾われたことが推薦なのよ」
ああ、なるほど! 夏音って本当にバカだな!
「何よ、その顔! なんだかムカつくわ」
「別に何でもねぇよ」
「むぅ~~~~! だったら真理はどうやってエクスになったのよ? そんな意味深な態度な取るなら、さぞ凄い理由があるんでしょ? 言ってみなさいよ!」
「別に大した理由じゃねぇよ」
とは言ったものの、夏音の話を聞いた手前、自分だけ言わないってのもなんとなくないよな。
「お前と同じでさ」
俺は仕方なく話し出す。
「両親が目の前で殺されたんだよ、俺と妹はそれを隠れて見てたんだけどな……両親が殺されるところを見た妹が魔法少女になっちまったんだ」
無言で耳を傾ける夏音に、俺はあの時の事を話し続ける。
「俺は順当に妹に殺されそうになった訳だが、その時にエクスが助けに来てくれたんだ。そのエクスは凄い強さでさ、一人で辺りの魔法少女を倒しちまった。それでそのエクスは俺に手を貸しながらいってくれたんだ」
俺はあの時、そのエクスにかけられた言葉を思い出す。
『妹さんを助けられなくてごめんね』
『でも君を助けられてよかった』
当時、生きる気力を失くしていた俺に、彼女はこう言ってくれた。
『生きるのが辛い?』
『うん、今は全ての道が閉ざされてしまったように感じるかもしれないね』
『でも大丈夫だよ』
彼女は言う。顔はもう思い出せないが、きっと優しげな顔をしていたのだろう。なぜなら、
『道は選ぶものじゃないから、道は出来るもの……君が歩んでいくところこそが、君だけの道になるから』
そう言われた時、俺の中の何かが軽く、そして楽になった気がしたから。
『でもすぐに歩み出すのは難しいよね。だったらこれをあげる』
『魔女狩、天魔……君が歩み出すまで、君の事を守ってくれますように』
「でだ、俺はその時のエクスに憧れてエクスになった。別に大した理由じゃないだろ?」
「そのエクスさん、カッコイイね」
てっきり皮肉でも言ってくるかと思ったのだが、今日の夏音は綺麗な夏音なのだろうか?
「ところでさ、そのエクスさんは見つかったの?」
夏音がした質問は当然だろう。
日本で活動しているエクスである以上、ここシュプレンガー日本支部に居る事は確実なのだから。
「探したよ、でも見つからなかった」
「え、何で? そのエクスさんは日本の人なのよね?」
夏音の質問は最もな質問だ。しかし、それでもそのエクスは見つからなかった。
「俺が正式なエクスになってからすぐ、魔女狩の持ち主をデータベースで探してみたんだ。その結果わかったのは……天魔なんて魔女狩は存在しない」
「どういうこと? じゃあその魔女狩りは誰の……」
夏音が驚いた顔になる。
エクスの魔女狩は例外なく持ち主と一緒にデータベースに登録されているため、未登録の魔女狩というのは本来存在しないはずなのだ。故に夏音のこの反応も当然と言える。
「わからん、とにかく俺を助けたエクスは見つからなかった……というか、本当にエクスが助けてくれたのかもわからない、ひょっとすると一般人だった可能性もある。いずれにしろ今では、この魔女狩は俺のとして登録されてるけどな」
「…………」
話が終わったのに、しばらくボーっとしている夏音。
「どうした?」
「っ! な、なんでもないわ! 真理の癖にかっこいいエピソード持ってるなーとか思ってわけじゃないわ」
「……へぇ、そうですか」
「何よぉ!」
「お、あそこの店やってる! あそこにしようぜ!」
「むぅ! なんか真理の態度が気にくわないわ」
後ろで喚く夏音を引き連れながら、俺はレストランへと入って行くのだった。
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