第二十五話
「真……理……」
俺の腕には血まみれの彼女が、今にも力尽きてしまいそうな胡桃夏音が横たわっている。
彼女の腹は魔法少女の攻撃を受け、無残にも大きな穴が開いてしまっている。
もう助からない。
一目見てそう思った――出血がひどすぎるのだ、夏音を助けるためにはこの出血をどうにかするしかない。
「っ!」
誰か居ないのか!?
誰か、誰か居ないのか!?
何故か声が出てこない口を動かしながら、俺は必死に辺りを見廻すが、やはり周りには誰もいない。シュプレンガーの仲間達はおろか、先ほどまで戦っていた魔法少女すらいない。
そうだ、周りには誰もいない。
「さっき自分で考えてただろ? 夏音はもう助からないって」
誰だ?
俺は辺りを見廻すが、声の主は見つからない。ここには俺と夏音しかいない……にもかかわず、件の声はまたしても語りかけてくる。
「お前のせいだよな? お前が殺したようなもんだぜ?」
俺は殺してない。
殺したのは魔法少女だ!
「殺したのはお前だよ」
黙れ。
「お前があの時、ちゃんと引き留めたらこんな事にはならなかった」
黙れ。
「お前の周りの奴らはみんな死んでいくよな? お前の家族も……」
「黙れぇええええええええええええええええええ!」
「はぁ……はぁ……ここは?」
俺の部屋だ、一目見てわかった。
俺は今、自分のベッドの上で悪夢にうなされて飛び起きたんだ。
「……なさけねぇ」
俺は額の汗を手の甲で拭いながら、ベッドに倒れ込む。
息が荒い、汗をかいた体が気持ち悪い。
「こんな状態で寝られるか……風呂、風呂に入ろう」
俺は再度、体を起こしてベッドから立ち上がろうとし、
「痛っ!?」
腹部に刺すような痛みが走る。
なん……だ?
記憶がおぼろげだ、そもそもどうして俺はここに居る? 俺は確か……っ!
「魔法少女は……夏音はどうなった」
俺は腹の痛みなど忘れて、ベッドから立ち上がる。
夏音の安否が知りたい――さっき見ていた夢のせいもあるだろう、夏音の安否がどうしようもなく気になったのだ。
あつはどうなった!?
頼むから生きていてくれ……頼むから、
そこまで考えたところで、浴室へと続く扉が開いた。そこから出てきた人物を見て、俺は思わず驚きの声を上げてしまう。
「は?」
出てきた人物は夏音だった。肌をピンク色に染め、体から湯気を立ち上らせ、バスタオルを体に巻いただけの夏音だったのだ。
「え、し……真理?」
同様に夏音も俺を見て驚いているような顔をしている。
いや、まて。おかしいだろ……何でこいつが驚くんだよ? ここは俺の部屋だ、夏音の部屋ではない。
っていうか、こいつ何で勝手に風呂使ってんの?
「ふ、ふく!」
「あ?」
副?
「服!」
あ、あぁ。服か、服がどうかしたの……まて、何か凄く嫌な予感がする。
俺は夏音から視線を外し、ゆっくりと自らの体を見る。
…………。
………………。
……………………。
裸だった。
全裸だった。
当然、大事なところも見えてしまっている訳だ――誰にって、もちろん夏音にだ。
「な、なんだよこれ!? なんで裸!?」
「きゃっ! こ、来ないでよ!」
俺は服を取りにロッカーに行こうとしたのだが、夏音はどんな勘違いしたのか、やたら女の子らしい声を上げて後ずさる。
そして悲劇は起きた。
夏音のバスタオルがハラリと床に……、
「…………」
「…………」
辺りを包む沈黙、辺りを包む表現不可能な混沌とした空気。
「えっと」
とりあえず俺は……とりあえず何だ?
俺はとりあえず何をすればいい?
「へ、へ!」
「へ?」
「このへんたぁ~~い!」
迫りくるおっぱ……夏音の右拳。
鼻から流れる暖かいものを感じながら、俺は再びベッドへとたおれるのだ。
あぁ、とりあえずよかった。
夏音が生きていて本当によかった。
「何ニヤニヤしてんのよ!? 変態! 信じられないわ!」
……本当に、よかった。
そして、俺の意識は深い闇の底へと落ちて行った。




