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魔法少女マジカルでぃすぺあ  作者: アカバコウヨウ
第四章 慢心、傲り、そして油断
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第二十二話

 何かと先頭を歩きたがる夏音の腕を取り、何とか俺の横に待機させながら歩くこと数分。

「へぇ、思ってたより綺麗だわ」

「お前って本当に素直じゃないよな」

 俺達は目的地である公園へとやってきていた。

「何よぉ、綺麗って言ったじゃない」

「はぁ……はいはい、そうですね」

「むぅ」

 口をすぼめてまたも不貞腐れたような顔っ、

「奴隷の癖に生意気だわ!」

「痛っ!?」

 腰の辺りに綺麗な回し蹴りをされ、完全に油断していた俺は、前のめりに倒れてしまう。

「何すんだよ、このバカ女!」

「悔しかったら捕まえてみればいいじゃない!」

 行って走って行ってしまう夏音。

「……子供かよ」

 広い遊び場を見つけると、無条件でテンションあがって遊びたくなってしまう――今の夏音の行動は、まんま子供のそれだ。

「まぁ、いくら天才って呼ばれようとも、性格の方は所詮夏音って事か……」

 このまま夏音を放置しておくのも気が咎めるし、本当に仕方ないが追いかけっこに参加してやるとするか。

「はぁ……何で休日にまで疲れる事しなきゃいけないんだか」

 休日とはそのまま「休む日」のはずだ。なのになぜ……くっ。

 俺は何故こんな流れになったのか考えつつも、夏音を探しはじめる。

「あのバカ、どこまで行きやがった?」

 しばらく歩いて回ってみたが、夏音の姿は見当たらない。この公園はワンフロア丸々使った広大な物なので、本気で逃げられると捕まえられる可能性はかなり低くなる。

 もっとも、夏音が本気で俺から逃げているとは考え辛い――所詮は遊びの延長だ。

 そう考えると、夏音はまたしても迷子になっている可能性が有る訳で……、

「なんで毎回こうなっ!?」

 何かに背中を押されて、またしても体が前のめりに倒れる。

 何が起きた!? 完全に気配を感じなかったぞ!

 俺はすぐに立ち上がり、後ろを振り向く。するとそこには、

「遅い!」

 こちらを指差して、偉そうにふんぞり返っている夏音が居た。

「あ?」

「遅いって言ったの! 奴隷なら、もっとすぐにわたしを見つけなさい!」

 ちょっと待て、よく状況を整理してみよう。

 俺は仕方がないから追いかけっこに付き合ってやった――ここまでは何の問題もないよな?

 問題は次だ。

 何で怒られてるの俺?

 俺は遊びに付きやってやったんだよな? それで何故怒られる? むしろお礼を言われてもおかしくないはずだ。

「はい!」

「は?」

「反省したら謝りなさい」

 駄目だコイツ、早く何とかしないと。

 俺は生まれてから初めてそう思った。きっと人を心底心配したのは初めてかもしれない。

「あのなぁ……っ」

 俺が夏音に言い返そうとした時だった。

 俺達のいる場所のすぐ近くの天井から、世界を打ち崩すかの様な爆音がしたと思うと、空の模様が描かれた天井に亀裂が走り始める――その様は、まるで本当に空が壊れている様だった。

「なん……だ」

「そんなの決まってるでしょ!」

 夏音は俺の手を取り、亀裂が広がりつつある方へと走り出す。

「おい、ちょっと待て!」

「待てるわけないでしょ!」

「何でだよ! 何かもわからないのに……」

「何かもわからない? 決まってるでしょ! アレは」

 爆音が再度聞こえると共に、天井を太い一本の光が撃ちぬく。

 地上へと繋がる大きな穴から舞い降りてきたのは、聖浄なる光を纏った混沌を呼ぶ存在、

「魔法少女よ!」


「マジカルマジカル……ようやく隠れ家を見つけっちゃったのです☆」


 魔法少女はピンク色のツインテールを揺らしつつ、地面へとゆっくりと着地する。

 っ……まずい!

 俺は、俺の手を取って魔法少女の方へと走る夏音を引き留める。

「なにやってるのよ! 早くあいつの所に行かないと!」

「あいつのとこって……」

 やっぱりこいつは、あの魔法少女の所に向っていたのか。

「なに考えてるんだ、夏音! 俺達がするべきことは報告だ! まずはクソババアと合流する事を念頭に置かなきゃだめだ!」

「どういう意味? じゃあ逃げるって言うの!? 目の前に魔法少女が居るのに!」

 夏音は俺の手を離すと、まるで噛みつくかのような剣幕で俺に吠え立てる。

「違う、逃げる訳じゃない! 俺達が残って戦うのは危うすぎるって言ってるんだ!」

「逃げるのとどう違うのよ!?」

「ベタな言い方になるが、戦略的撤退ってやつだ。おそらくすでにこちらに向けっているエクスが何人も居る……そういう奴らと合流した方が、より確実にあいつを倒せる! 何でそれが分からないんだよ!」

「真理こそ何でわからないの!? 今こうしている間にも、あいつはシュプレンガーの中の人達を殺し始めるかもしれないのよ? まだ被害を出していない今の内に、わたしたちが止めないとだわ!」

 確かに夏音のいう事にも一理ある――夏音の言う通りに行動すれば、被害は最小に抑えられるだろう。

 しかし、それはあくまで俺達だけで、あの魔法少女を倒せた場合はだ。

「マジカルマジカルなのです☆」

 周囲に適当にビームを放ちまくっている魔法少女を俺は見る。

 髪型は魔法少女最高ランクの証であるツインテール。

 おまけにおのツインテールはピンク色に彩られている。つまり魔法少女になってからの日数、深度は上から二番目だ。

 俺達の前にいる魔法少女は間違いなく最強クラス。

 百人以上の犠牲が出たとも言われている相手に、俺達二人で勝てるわけがない。

「やっぱり駄目だ、俺達が勝てる相手じゃない! 第一、ツインテールの魔法少女は例外なく複数人で戦わなければならないと義務付けられている」

「叢雲隊長は一人で倒したんでしょ?」

「っ……それは」

 ババアは別格だ。

 俺がそう言おうとするが、口にする前に夏音が再び口を開いてしまう。

「叢雲隊長はその件がきっかけで最強と言われ出した……つまり」

「お前だけであいつを倒すとでも?」

「さすがにそこまで奢っては居ないわ、まだ経験が足りていないもの。でも、二人なら倒せると思うの、経験が足りていないとはいえ、わたしは天才なんだから」

「犠牲を出す前に……二人で?」

「そうよ。お互い魔女狩を持ってきていることだしね」

 夏音はそういうと、背負っていた長方形のケースから黒点を取り出す。

 俺はその様子を見ながら、俺の腰の辺りで確かな存在感を放っている天魔を軽く撫でる……が、

「駄目だ」

「え?」

「俺には無謀なことは出来ない、ここは合流するために……」

「もういい!」

「夏音?」

 夏音は俺に背を向け、言葉を続ける。

「だったら、わたしが一人で戦うわ! 最初から一人でも勝てる自信はあったしね。だから真理は合流でも何でもしてればいいわ……意気地なし!」

 こいつ……っ!

「ああそうかよ、だったら勝手にしろ!」

 言いながら、俺も夏音に背を向けると、

「ええ、勝手にさせてもらうわ」

 地面をける音と共に、そんな声が聞こえてきた。


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