第二十話
うるさいバカ女のまだまだコールになんとか耐え、着替え終わった俺を待っていたのは更なるまだまだコールだった。
夏音が有ろうことか、真夜のところまで案内してやってるのに「まだ?」「いつまでわたしを歩かせるの?」だのひたすら文句を行ってきやがったのだ。ちなみに、この文句は俺達が真夜の工房に辿り着くまで、絶えることなく続けられた。
俺は思ったね、夏音は天才かもしれない。
でもバカだ。
バカと天才は紙一重点、なーんて事を言っているのではない――俺が言いたいのは、文武に置いてどんなに長けていても、基本的な常識が抜け落ちているのでバカだということだ。
おそらく夏音は周りの人から注意されてこなかったのだろう。周りに居た奴らは夏音をひたすら天才とあがめ、注意することを怠った。その結果がアレだ。
だが俺は違う!
俺はしっかりと夏音に注意をしていくつもりだ。今回は注意するタイミングを逃してしまったが、次回は注意した意図と思う。まぁアレだ……正直、夏音はかなり可愛いから、うっかり許してしまいそうにならなくもないが、それとこれとは話が別だ。それにいくら外見が可愛くても性格が壊滅的だ。
さて俺は今、真夜の工房のリビングで夏音を待っているのだが、俺を待たせる時に言った夏音の言葉が凄まじかった。
『待ってなさい、待て!』
夏音はペットの犬にするかのように、俺に手の平を向けて言ってきやがったのだ。
犬か? 俺は犬なのか!?
自分が奴隷なのか犬なのか分からなくなってきた。
「……まてまてまて」
俺は犬でも奴隷でもない! 何を言ってるんだ俺は?
夏音に日ごろから奴隷奴隷言われてるせいで、俺の何かが狂ってきている。これは一大事だ。早く何とかしなければ、俺の精神が夏音の奴隷であることを認めてしまいそうだ。今なんて本当に危ないところだった。
「にしても暇だ」
夏音の奴は本当に凄いよな。散々人に「まだ?」だの「早くして」だの言って来たくせに、いざ自分が待たせる立場になったら、何の悪気もなく「待て!」だもんな。
「……駄目だ、暇すぎる」
俺はあまりにも暇だったので、リビングにあるものを探索する事にした。
十二歳の史上最年少錬金術師、真夜中真夜。
夏音の登場でかすみがちだが、真夜も天才ともてはやされる錬金術師だ――通常の錬金術師は三十歳から七十歳と、その辺りの年齢層が多い。中でも最も多い年齢は六十代だろう。
一方の真夜は五歳で錬金術をほぼマスターし、十歳で今の工房を構えている。
「ん、ちょっと待てよ」
夏音と真夜は天才なんだよな? 更に、クソババアこと叢雲くらむも最強という称号を持っている。
「しまった」
俺だけ普通だ。
周りいる奴らはステータスの様なものを持っているが、俺だけ何も持っていない。少し前までは部隊長だッたが、今は正式なエクスではない。しいて自分のステータスを挙げるとしたら、
「エクスもどき……泣けるな」
後ろ向きな事を考えてないで、探索に戻ろう。
史上最年少の天才錬金術師のリビング……実に興味がある。特に部屋隅にある「べんきょ~よ~」と書かれた本棚とか特に興味を惹かれる。
「どれどれ」
本棚に刺さっている本の背表紙を見てみると、
『鉄の錬金術師』
『鉄の錬金術師 完全版』
『鉄の錬金術師 クロニクル』
ああ、これは……
「どんだけ『鉄の錬金術師』好きなんだよ!?」
っと、熱くなるな。
思わず同じタイトルばかり並んでいるので、一人ツッコミを入れてしまったが、重要なのはタイトルじゃない、中身だ。天才錬金術師が熟読したであろう参考書、俺はそれを手に取って読み始める。
さぁ、一体どんな難しい内容なのだろうか?




