第一話
「魔法少女マジカルめるたん参上なのだ☆」
20XX年6月、相変わらずのくそったれな毎日。
「悪者たちはめるたんが、マジカルパワーで撃退しちゃうのだ☆ ……あれれ~? でも悪者の姿が見ないのだ☆ さては隠れたのだ?」
その通りだよバカ野郎。と、心の中で毒づきながら、俺は瓦礫の影から魔法少女を見る。
黒髪ストレート、やたらメルヘンなピンクの衣装を着ている魔法少女――まぁある意味ついているよな。
他の魔法少女を討伐した帰りに新たな魔法少女と遭遇したのは最悪だが、その魔法少女が黒髪ストレートってところだけはついている。
魔法少女の中でも最弱ランクのストレート、さらに魔法少女になって間もないという証の黒髪――要は全てにおいて最弱の魔法少女だ。
俺は後ろにいるチームメイトの豪と莉奈を見る。
二人ともボロボロに傷つき、もはや余力を残している様には思えない。
「…………」
二人の様子を見た後、再び魔法少女へと目を向ける。
どうする? このままやり過ごすか? もしくは奇襲をかけるか……。
いずれにしろリスクは伴う。
あの魔法少女がここに居ると言う事は、何らかの方法で俺達の居場所を探知したという可能性が非常に高い。と言う事はつまり、もう一度それをやられれが、俺達が今隠れているこの場所もばれる可能性が有るのだ。
奇襲を仕掛ける場合も大きな問題が有る。
俺は腰に下げている対魔法少女兵装『魔女狩』を見る。
魔法少女に対抗するための唯一の武器、人間の命と引き換えに作成されるその武器でなければ、魔法少女に有効打を与えることは不可能とされている。
俺の魔女狩の名前は『天魔』、とある人物から譲り受けた日本刀型の魔女狩だ……日本刀と違う所が有るとすれば、本来鍔がある部分に心臓が付いている事と、全体的に黒い事くらいだろうか。
外見上は何も問題はない俺の魔女狩。しかし、その中身は問題だらけだ。というのもこの状態では魔法少女に有効打を与えられないのだ。
各魔女狩には心臓が付いていて、それを動かさなければ真の対魔法少女兵装とはならない。
そして、魔女狩の心臓を動かすためには人の命が必要だ。基本的に一分動かすのに一年の寿命が必要だと言われている。
問題とはこの点だ。
本来なら、錬金術師によって生成される疑似生命素『賢者の石』によってを魔女狩の心臓をに捧げることにより、一分間分だけ心臓を動かすだけの命をチャージできるのだが、当然ここに賢者の石はない。仮にあったとしても、チャージには時間がかかるため、お話にならないだろう。
よって俺は迷っている。
なぜならば、俺と莉奈の魔女狩は、一分間のチャージをすべて使い切ってしまっているからだ。となると豪が頼みの綱なのだが、
「大丈夫だよ」
俺の考えを読みとったのか、三人の中で最も血を流している豪が話しかけてくる。
「俺なら大丈夫だ。部隊長のあんたが悩む必要なんてなんもねーさ」
「その怪我で行けるのか?」
「一人なら無理だろうが、部隊長と俺の女神が手伝ってくれるからな」
言って豪は莉奈を抱き寄せる。
莉奈は顔を赤らめたまま「や、やめてください」と言って離れて行ってしまうが、まんざらでもないのか顔が嬉しそうににやけている――こういうのをバカップルというのだろう。
「それに俺の魔女狩にはまだ十秒近くチャージが残ってる。部隊長もこいつを当てにしてるんだろ?」
豪は小ぶりのナイフのような魔女狩にそっと手を当てる。
俺は豪の問いかけに対し目で頷く。豪の言う通り、俺が頼みの綱としているのは豪の魔女狩だ。
豪は最初に戦った方の魔法少女戦において、囮の役目を買って出たため俺と莉奈よりも魔女狩の使用時間が少なかったのだ。といっても、いくら囮とはいえ魔女狩を使わなければどうにもならない事もある。
その結果が残り十秒。
いけるか?
相手がいくら最弱に位置する魔法少女だからと言って、決して弱いわけではない。おまけにそれぞれ差はあるものの、俺達はかなりのダメージを体に残してしまっているのが現状――常識的に考えれば負ける可能性の方が高いかもしれないのだから。
魔女狩を持ったからと言って、俺達は所詮ただの人間。そんな人間がこの世の理を超越した現象、魔法少女に挑むのは全てをなげうつ覚悟が必要なのだ。
俺にはその覚悟が有るか?
もし俺が目の前の魔法少女と戦う決断をすれば、二人は部隊長である俺の命令に従うだろう。例えそれが命を削る戦いになったとしても。
魔女狩を安全に使える時間は十秒だけだ。その時間内に倒さなければ、俺達は自らの寿命を削って倒さなければならない。
その覚悟は……ある。
この世界を崩壊に導いた存在を狩る為ならば、たかが数年の寿命くらいくれてやる。ならば俺は一体何を迷っている? こうしている間にも魔法少女が俺達を補足する可能性がどんどん高まっていると言うのに。
いや、俺が何に迷っているかはハッキリしている。
怖いんだ。
俺は怖い。
自分の寿命を削ることがではない、魔法少女と戦う事が怖い。
万全の状態で戦ったことはあっても、今のような満身創痍の状態で戦ったことはないからだ。
勝てるかわからない。仮に勝ったとしても、その時に俺達の寿命は残っているのか? 魔女狩に吸い尽くされて果てているのではないか?
ふとした瞬間にそんな事を考えてしまう。
「しっかりしろよ、隊長」