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魔法少女マジカルでぃすぺあ  作者: アカバコウヨウ
第四章 慢心、傲り、そして油断
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第十八話

夏音が初の実戦を経験してから数週間が経った。

 俺達は知らぬ間に、互いを名前で呼ぶほどには信頼できる仲になっていた――もちろんそれは男女の中と言うことではない、あくまでクソババアと同じく仲間としてだ。

「真理、早く追い込んでよ! 早くしないと、隊長に負けちゃうわ! 二対一で負けたら恥よ!」

「うるせぇ! そんなに早く出来るか! クソババアがおかしいんだよ!」

 信頼は出来るがこいつは相変わらずうるさい。というか、ウザイ。お願いだからもう少しおっとりと言うか……とにかく何でもいいから、もう少し静かにしていて欲しい。

 さて、俺達は今魔法少女討伐任務の真っ最中だ。

 相手は魔法少女が四人、あいてはどれもストレート。しかし、俺達の前に居る個体は茶髪だ最低ランクのストレートとはいえ、茶髪となれば強さは跳ね上がる――もちろん、勝てない相手ではないが。

「ったく」

 俺は眼の前で「あなたを救いたいの☆」とかほざいてる魔法少女を睨みつける。

 クソババアは少し離れたところで金髪二体、ピンク髪一体と戦っている。クソババアの相手は三人、要は一対三だ。

 それに対し俺達の相手は一人だけ、

「うちのバカ女が、クソババアの戦闘が終わるよりも先にお前を倒さないと、プライドが許さないらしくてな……そろそろ本格的に行かせてもらうぜ」

 別に勝ち負けなんか競ってないんだけどな。

 いっそのこと、そんなしょうもないこと気にしてんのはお前だけだよ。とでも言いたかったが、言ったら言ったで更にうるさくなるので、言わないに越したことはない――まぁ、それ以前に言う暇がないから言えないんだがな。

「救わせて☆」

「……っ」

 俺は魔法少女が放ってきた虹色の光、要はいつもと変わり映えのしないビームを躱しながら、魔法少女との距離を一気に詰める。

 倒す必要はない今、日の俺の役割は八割がた陽動だ。

俺が今いるのは両端を崖によって挟まれている谷間。今回の俺の役割は、魔法少女を引き付けつつ、もっとも動きが取りづらくなる谷間の奥へと行くこととなっている。

 そこまで行けば、崖の上からギャギャア喚いている夏音が魔法少女に不可避の一撃をお見舞いするという寸法だ。

 にしても夏音はバカか? 少し見直してき立っていうのに、これじゃあ台無しだ――俺がこうして、適度に魔法少女と戦闘を行いながら進んでいる理由は、魔法少女の意識を夏音へと向けさせないためという意味合いも多分に含まれている。

 なのに夏音ときたら、

「早くしなさい! どれだけ待たせる気なの!?」

「…………」

 うるさい事この上ない。あいつは魔法少女に狙われたい願望でもあるのだろうか?

「ふっ!」

 魔法少女が再度放ってきたビームを天魔を使って弾き、俺はひたすら魔法少女へ近づく。

 まずいな、さっきの魔法少女の攻撃……思ったよりも威力が有った――ここまで追い込むのに賢者の石を大分使ってしまっていたため、今の天魔の使用により、完全に賢者の石が尽きてしまった。

 ここら先は文字通り、俺の命を削るしかない訳だが……。

 俺には妙な確信があった。

 おそらく今回の戦い、俺の命はそこまで削られないだろう。削られたとしても一二年程度で済むはずだ。

「わからずやにはお仕置き☆」

 俺がそのまま突っ込んでくると勘違いしたのか、魔法少女はステッキを水平に構えるが、

「残念だったな」

「ほえ?☆」

 俺は魔法少女の間合いに入る直前でバックステップし、魔法少女が居る方とは反対に向けて走り出す。

「ま、まって☆ 逃げないで~☆」

 逃げないわけがない。俺にはこいつの相手をしなければならない義理はないんだから。

 後ろに注意を払いつつも走っていると、魔法少女がビームを放ってくるのが見える――向こうも走っているためか、狙いがかなり適当だ。これなら魔女狩を使うまでもなく避けらる。

 案の定、魔法少女の攻撃は俺が走っている場所の遥か右上、見当違いの方向へと飛んで行った――いや、むしろ避ける必要すらなかった。

 しばらく、攻撃しては逃げの戦法を繰り返していると。やがて行き止まりへと辿り着いた。

「はぁはぁ、やっと追い詰めた☆ これでお話を聞いてもらえるね☆」

「話をする気があんなら、そのステッキを人に向けるのをよしたらどうだ?」

「無理だよ☆」

「何で?」

「う~んとね☆」

 さぁ、ここまで来るのに使った寿命は一年半……作戦通り魔法少女を追い込んだぞ。

 俺が辺りを見回すと、最初走っていた方の谷間と比べ、両端の崖の幅が極端に狭まっていた。俺が居る側なんて、両腕を一杯に広げれば、その両手の平に壁の感触を感じられそうだ。

 魔法少女が居る側は、俺が居る側程狭くはないが、自由に動き回れるほどの広さはない。前後左右の内、まともに動けるとした前後の見だろう。

「なんでだろう?☆ あなたを殺さないと救えない気がするんだ☆」

「へぇ、そうかよ」

 ったく、魔法少女が言ってる事は意味が分からん。

「世界が幸せに包まれますように☆」

「勝手にほざいてろクソ野郎」

 魔法少女のステッキに光が集まりだす。

「………」

 そういえば、結構前から夏音の声が聞こえないな。あのバカ女も、さすがにこの局面になったら黙るか……はっ、まぁ黙ってくれないと困るんだけどな。

 俺は自分に出来る最高級の敵意を放ち、魔法少女へ笑みを向ける。そして、次に視線を魔法少女の後方、崖の上で黒点を構えた夏音に向け、

 やっちまえ、


 夏音!


 俺が心の中で叫んだ声とほぼ同時に、黒点の銃口から太陽のように眩しい光があふれ出す。

 放たれた銃弾が一筋の流星のよう魔法少女の頭蓋へと、

「あまいよ☆」

 当たらなかった。

 魔法少女は首を不自然な角度に曲げて銃弾を躱す。

 躱された銃弾は俺の眉間に迫り、

「ちょ!?」

 夏音はどさくさに紛れて俺を殺す気か!?

 完全に身の危険を感じだ俺は、思わず目を閉じてしまう。だが、いつまで経っても来るはずの衝撃はやってこない。

 恐る恐るゆっくりと目を開けると、そこにあったのは、

「なにこれ?☆」

 俺の眉間に接触するかしないかと言ったところで、黒点から放たれた銃弾が止まっていた。

「……こわ」

 俺にはもはや魔法少女よりも夏音の方が怖かった――あいつはこれを狙ってやったのだろうか? それとも偶然ギリギリの所で止められたのだろうか? いずれにしろ怖すぎる。

 意識を入れ替えるためにも、俺は別の事に集中する。

 黒点の銃弾を間近で見て初めて分かった事だが、この銃弾は通常の銃弾とは異なる形をしている。

 通常、銃弾は片方の先端がとがっているものだが、黒点の銃弾は違った。両方の先端が尖っているのだ。これはおそらく、黒点の銃弾操作という特色の関係上、このようなデザインになったのだろう。

 魔法少女は驚いた表情をしながら俺の顔……ではなく、銃弾を見つめているが、こいつの場合は銃弾の形状に驚いているのではなく、目の前に浮かんでいる銃弾という物質自体に驚いているのだろう。

「ま~なんでもいいかな☆」

 銃弾をひとしきり観察した魔法少女は興味がなくなったのか、俺に攻撃するために再び光を集め出す。

 しかし、魔法少女が光を集め終わる前に崖の上から高らかで偉そうな声がする。

「何が『あまいよ☆』よ? あまいのはね……あんた!」

 再び命を吹き込まれた銃弾は、またも魔法少女の顔面へ向けて進む。

「っ」

 駄目だ!

 さっきは後ろから攻撃しても避けられた。なのに今回は正面からのバカ正直な攻撃、黒髪ストレートの魔法少女ならともかく、茶髪ストレートに当たる訳がない!

 俺が懸念していた事を実現してしまう。

 魔法少女は銃弾が動き出した直後にすでに回避行動を取り出していた。

「うちは甘くないよ☆ 余裕なだ~け☆」

 銃弾は再び魔法少女の頭の横を通りすぎるかに思えたが、

「その言葉……そっくりそのまま返すわ!」

 たまに忘れそうになるが、胡桃夏音は天才だ。

 真っ直ぐ進むかに思われた銃弾は突如直角に右へと曲がる。

「!?☆」

 魔法少女は自分が避ける以前に、見当違いの方向へ飛んで行こうとする銃弾を見ると、その顔に疑惑の色を浮かべる――おそらく夏音の意図を図りかねているのだろう。なんせ俺にもよくわからない、しかしこれだけはわかる。

 夏音はやると言ったら絶対に実現させる女だ。

 案の定、銃弾の変化はそれだけに留まらない。

 直角に右へと曲がった銃弾が、さら二回曲がったのだ。

 一度目の変化で魔法少女の頭の後ろくらいの位置へ、二度目の変化で、

「なん……で☆」

 魔法少女の額には大きな穴が開いていた。

 夏音が二回目の変化により、背後からもう一度銃弾を撃ち込んだのだ――魔女狩、黒点……あそこまで不規則な軌道を描かれたら、いくら魔法少女と言えども対応できないのも仕方がない。

 夏音と黒点が合わされば、最高ランクの魔法少女、ツインテールの魔法少女も倒せるのではないか?

 そう思ってしまう程に、夏音の強さはずば抜けているように思う。負けを認めるようでこんな事を考えるのは嫌だが、少なくとも俺よりは圧倒的に強く感じる。

 俺には思いつかない。

 黒点から放たれ、夏音の意のままに動く銃弾を避ける方法が。


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