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魔法少女マジカルでぃすぺあ  作者: アカバコウヨウ
第三章天才である事の意味
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第十六話

「おせぇんだよ、クソガキ!」

 胡桃を発見してから数分後、俺達はクソババアの部屋へとやってきていた――これだけは断言できるが、ここまでの移動に「遅い!」と怒鳴られるほどの時間はかかっていない。クソババアが怒鳴ってるのは、ただ心にゆとりがないからだ……要は短気なのだ。

「すみません、叢雲部隊長。今後は気をつけます」

 俺の隣では真面目な事にも、クソババアにしっかりと謝っている胡桃。

「クソガキ! お前はどうした?」

「知るかよ! 要件を言えよ! 急ぎの用だったんじゃねぇのかよ!?」

「っち、本当にうぜぇガキだな」

 ババアは飲んでいた酒ビンをデスクに叩きつける様に置くと、何かが書かれた書類を片手に話し出す。

「シュプレンガー日本支部近辺で、魔法少女の目撃証言が多数あがってきている。もう言わなくてもわかるな?」

「ああ、魔法少女のランクと進度は?」

「黒髪ストレートだ」

 黒髪ストレートか、またしても最低ランク。だけど前回の件が有るから油断はできないな。

「……っ」

 脳裏に一瞬、二人の姿がよぎるが、それはすぐにかき消されることとなる。

「はぁ!? 黒髪ストレートって最低ランクじゃない!?」

「うるせぇなメスガキ、なんか文句あんのコラぁ?」

「べ、べつにありません」

 胡桃はすぐに引き下がるが、本心では納得いかないのか、俺の隣で「なんで天才のあたしが……」などと呟いている。

「まぁ納得いかねぇのはわかるさ、でも今回のはメスガキの実力を見るテストでもある。ってことでだ、今回はお前ら二人だけで戦ってもらう。もちろん、あたしが近くで見ていてやるから安心しろ。危なくなったら助けてやるよ、せいぜい頑張れよ」

「わかりました、わたしの実力を見せつければいいんですよね?」

「ん、まぁそういうことだな」

「わたしに掛かれば魔法少女なんて余裕です」

 この時、俺は自身たっぷりに宣言する胡桃を見て、胸中になんとも言えない不安が渦巻いた。胡桃は……この胡桃夏音というエクスキューショナーは、

 魔法少女を軽視し過ぎではないか?


「げ、本当に黒髪ストレートじゃない」

「なんだと思ってたんだよ?」

 シュプレンガー日本支部付近の索敵を始めてから数時間後、目標となる魔法少女は思ったよりも早く見つかった。

 俺達が魔法少女を発見したのは、森の中にある湖の畔だった。

 時刻は夕暮れ日が沈み始め、辺りは徐々に暗くなっていく時間帯。だが、今の時間はまだ木々の隙間からさす木漏れ日を微かに感じることが出来る。

 出来るならば日が沈む前にけりをつけたいところだ――日が沈めば、辺りは当然暗くなる。暗くなれば視界が悪くなる……当然の事だ。頼れるものが月明かりしか無い中で、魔法少女と戦うのは好ましくない。クソババアはともかく、普通のエクスならば絶対に避ける状況だ。

「何だと思ってたですって? そんなの魔法少女だと思ってたに決まってるじゃない? 巻坂はバカすぎて本当に困るわ」

「そういう意味じゃなくてな……」

 俺は別に相手が何だと思っていたかを聞いてのではない。相手のランクと深度を一体なんだと思っていたのかを……あぁ、なんか自分でもよくわからなくなってきた。というか、このバカはいちいち説明してやらないと、そんな事すら理解できないのか?

「…………」

「何よ、その可哀そうな人を見るような目は? 不快だから止めて」

「なるほど、お前は自分が可哀そうな人だと言う自覚がない訳だ? これはまた可哀そうな奴だな」

「~~~~~っ! あなっ……むぐ!?」

 胡桃が俺の挑発に乗ろうとした瞬間、後ろから手が伸びてきて、胡桃の口を塞いでしまう。

「もごっ! もごっ!」

「はいはい、分かったからテメェは少し黙ってろな」

 続いて後ろから聞こえてきた声の方に顔を向けると、そこに居たのは怠そうな顔で胡桃の口を押えているクソババアだった。

 ババアは俺の方を見ると、

「おい、クソガキ……てめぇはバカなのか?」

「俺? 何でそうなるんだよ? バカはお前と胡桃だろ?」

「むぐ~~~~~っ!」

 俺の言葉に反応したのか、胡桃はババアの手を外そうとしつつ必至にジタバタするが、腐っても最強のエクス、胡桃の口を押える手は外れない――ふっ、哀れだな胡桃。

 俺は悔しそうな顔をしながら、上目使いでこちらを必死に睨みつける胡桃を見て、ひとり優越感に浸る。と、

「なに満足そうな顔してんだよクソガキがぁ」

「満足そうな顔なんかしてねぇよ、目が腐ってるんじゃないか?」

「っとにうぜぇな、お前が死にそうになってたら絶対に見捨てるわぁ」

「そうかよ、俺も同じ気持ちだから安心しろ」

 あぁもう、このクソババア本当にどっか行ってくれないかな。俺の半径890キロ以内に近づかないでほしい。

「ともかくだ、あんまメスガキを挑発すんな……今は任務中なんだからよぉ、さもないと」

「お前の血管が切れるか? 年寄りだもんな」

「……あぁ?」

 胡桃の口――顎の辺りを握りつぶしそうな強さで握るクソババア、かなり痛そうだ。現に胡桃は少し涙目になってきている気がする。

「てめぇいい加減にしろよ? 殺されてぇのか、あぁ?」

「あぁ? って何回言う気だよ?」

「よし、わかった! 死にてぇんだな? そういう事だよな……クソガキがぁ!」

「クソガキって言うなって言ってんだろうが! 毎回毎回、さすが脳みそスカスカのクソババアだな!」

「てめぇ!」

「たまには名前で呼べよ、ババア!」

 俺とクソババアは、お互いのおでこが触れ合いそうな距離で互いを睨み合う。

 このクソババアが、今日と言う今日は最後までやってやる。

「っ!? む~~~~~~! むぐ! む! む~~~~~~!」

 いつもは何だかかんだで邪魔が入るが、今日は邪魔する奴は誰もいない。

 これはチャンスだ。

 突然だがクソババアは強い。

 おそらく、俺が十人くらいいたとしても勝てないだろう。だが、今日は違う……手を離したら騒ぎ出すバカ女という爆弾を抱えているからだ。さすがのクソババアも、そんな危ういものを手にしたままでは本来の力を発揮する事は困難だろう。

 故に今日はチャンスなのだ。

「む~~~~~~~~~~~~~~っ!」

 クソババアを打ち倒し、俺は自らの落ち着ける場所を獲得するのだ。

 余談だが、打ち倒すとは「殺す」という意味ではない、クソババアは一応仲間だ……不本意だが一応は大切な仲間なのだ。故に「殺す」なんて選択肢ありえない。

 口で何と言おうとも、それだけはありえない。その点だけはクソババアも同じ気持ちだろう……おそらくだが。

 ならばどの様にして、

「む! む~~~! む~~~~っ!」

 ならばどの様にして打ち倒すのか?

 簡単だ。

 どんなにセコイ手を使ってもいいから、一回だけ勝てばいい。そうすればクソババアの意識の中に、「俺に負けた事が有る」という事実を残せるので、今よりは調子に乗らないはずだ。

 つまり、俺は今日クソババアんを精神的に打ち倒すの、

「む~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」

「うるせぇええええええええええええええええええ!」

 胡桃がさっきからあまりにもうるさかったので、俺はババアから視線を外して胡桃を怒鳴る。すると、胡桃はようやくクソババアの拘束から脱出し、荒い息を付きながら、

「~~~~っぷは! はぁ……はぁ……」

「何そんなに疲れてんだよ、胡桃?」

「その点はクソガキに同意だなぁ」

「っさい! あなた達のせいでしょ! ……じゃなくて! 来てる! さっきからこっちに来てるわ!」

 こっちに来てる?

 俺とクソババアは再び視線を合わせ、同時に胡桃へ問いかける。

「「何がだよ?」」

 すると胡桃は湖の方をスッと指差し、告げる。

「……魔法少女」

 胡桃指をさした方に居たのは――。


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