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魔法少女マジカルでぃすぺあ  作者: アカバコウヨウ
第三章天才である事の意味
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第十五話

「俺だ、入る……ぞ……」

 そして、俺は自分の目を疑った。

 テーブル挟み、椅子に二人の人物が腰かけていたのである。

 一人は真夜中真夜、この工房の主人であり、ほとんど俺専属の錬金術師だ。彼女はご自慢ツインテールを漆黒に輝かせながら「お兄ちゃんだ!」などと笑っている。

 うん、別にこっちはいい。

 居てもなにもおかしくはない。

 問題はこいつだ。

「何でお前が居るんだよ? っていうか、何してんだお前?」

 俺はこめかみをヒクつかせつつ、目の前で優雅にお茶をしているバカ女、胡桃夏音に声をかけた。

 若干イライラしつつ声をかけたのにも関わらず彼女は、

「何って……お茶をしているに決まっているでしょ?」

 などという、俺をおちょくっているかのような答えを返してきやがった。

 わかってるから、お茶してるのわかってるから。俺が聞きたいのは、人が散々探し回ってやったのに、こんな所で何をしているのかだから――もちろん皮肉的な意味であって、さっきの胡桃のような返答を望んでいた訳ではない。

「何見てるのよ?」

「あぁ? 別にみてねぇよ」

「…………」

「…………」

 俺と胡桃はしばらく睨み合う、本当に可愛くない奴だ。

 そんな俺達の空気を察してか、もしくは完全に素か、真夜が声を出す。

「お兄ちゃんとお姉ちゃんは知り合いなの~?」

 これ以上、胡桃と話……睨みあっていても仕方がないと思った俺は、未だにこっちを睨んでいる彼女から視線を外す。

「一応知り合いだよ、同じ部隊の仲間だ」

「違うわ」

 と、せっかく無益なにらみ合いを終わらせてやったと言うのに、またしても絡んでくる胡桃。

「そいつは奴隷よ、それにそいうつはもうエクスでも何でもない。叢雲隊長が言っていたもの」

「お兄ちゃん奴隷なの~? エクスじゃなくなっちゃったの~?」

 くおっ……事実無根の事とはいい、幼い女の子に心配そうな視線を向けられるのは、なんだか心に響くものが有るな。

「そうよ、そいつはエクスじゃなく、わしたの奴隷に昇格したの」

 自慢げな顔をしながら、お茶を一口――うん、どう考えても降格だ。

 俺と胡桃を見ていて不安になったのか、真夜が何だかソワソワしている。

「真夜、胡桃が言ってくることは嘘だから気にすんな。確かにエクスではなくなったけど、実質エクスと似たような権限は持ってるしな」

「ちょっと!」

「あぁ?」

 一段落させようとしたところで、またしても口を挟んでくる胡桃。そろそろ本当に面倒くさくなってきた。

「胡桃胡桃って……勝手に呼ばないでよ!」

「じゃあ、何て呼べばよろしいんですかねぇ?」

 俺が皮肉たっぷりに言うと、

「え、えと……ご主人様……とか?」

 はぁ? 何を言ってるんだこのバカ女は?

「胡桃、お前はバカだとは思っていたが、どうやら俺の手に余るほどのバカらしいな」

「また呼んだ、あんただけ勝手に呼ばないで! それに誰がバカよ!?」

「お前だよ、バカ! それに、俺にだけ勝手に呼ばれるのが嫌なら、お前も俺の事を勝手に呼べばいいだろ? 巻坂~とか……っぷ」

「~~~~~っ!」

 怒ってる怒ってる――でも待て、あんまり挑発するとまたどっかに走り去っていく可能性が有る。少し注意おこう。

 俺が先ほどの件から得た教訓を生かして、今後の胡桃との付き合い方について考えていると、

「ま……き……か」

「は?」

「っ! なんでもないわよ! 巻坂のバカ!」

 言って、胡桃は音を立てて椅子から立ち上がり、俺が止める間もなく真夜の工房が走り去って行ってしまった。ここまで来ると、胡桃は情緒不安定なのではないかと疑いたくなる。

「……真夜」

「なに~?」

「意味わからねぇんだけど」

 俺は居なくなった胡桃の代わりに、真夜の対面の席へと腰掛ける。

「そうかな~? 真夜は胡桃お姉ちゃんの事わかるけどな~」

 真夜は意味深な笑みを浮かべながら言う。

「二人は仲いいんだね~」

「どこがだよ?」

 俺と胡桃の仲がいい? 一体どこをどういう風に見たらそうなるのだろう。

 まぁいい、今は胡桃の事より大事な事が有る――ここからまたしても逃走した奴の事なんて知らん。もう俺には関係ない、どうしても案内が必要ならババアにしてもらえ。

「それより真夜、今日は右手の診断に来たんだけどさ」

 右手をテーブルの上に載せると、真夜が小さなな両手で俺の右手首に触れ、まるで羽毛のような優しさで軽く撫でてくる。

「う~ん、特におかしいところはないかな~。でも気を付けてね、お兄ちゃんは右手を折りすぎだよ~」

「わかってるわかってる、気をつけ……」


『あぁ~っと、クソガキ共へ命令だ……さっさとあたしの所に来い! いいか? このあたしを待たせるなよ?』


 響き渡ったのはシュプレンガー各所に設置されたスピーカーの音だ――そして、そのスピーカーから流れてきたのは、間違いようもないあいつの声。

「っ……何の用だよ、クソババア」

 クソガキ共って言うのが、俺と胡桃の事なのは百歩譲ってまだわかる。だが、「あたしの所」ってどこだよ? どこに行けばいいんだよ? 放送で呼び出しするなら、もっと明確に場所とかを指示しろよ! 本当にダメなババアだな。

「……たく」

 今更クソババアに文句言ったって仕方がない、第一相手は放送なのだから文句の言いようがない。

「真夜、ちょっと用事出来たから行ってくるわ」

「うん、頑張ってね~」

 万歳するようなポーズでこちらに手を振っている真夜に背を向け、俺はクソババアの所(おそらくクソババの部屋だ)に急ぐ。

「しまった」

 真夜の工房を出たところで俺は重大な事に気が付いた。

「胡桃の奴はどこに行った?」

 さっき真夜の所から飛び出して行って、それから……それからどうした?

 これはアレだろうか? 俺が探さなければいけないパターンだろうか?

 ……うん。

「もう知らん!」

 いつまでも付き合ってられるか!

 俺はそう判断して、ババアの所に向ったのだった。

 これは余談だが、探す気のなかった胡桃はすぐに見つかった――俺が真夜の工房から歩き出してすぐ、前方からしょんぼりした胡桃が「ま、迷った」と、小声で言いながら歩いてきたのだ。まぁ、何にせよ結果オーライだ。


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