第九話
「で、しばらく歩き回った訳ですけど」
「新人さんどころか、他の生存者さんの存在も感じ取れません。」
姉妹の言う通りだ。
俺が作戦開始を告げてから、すでにに十分以上が経過している。その間、新人含む生存者は一人も発見できていない。しかし、何も発見できていないのかと問われれば、その答えは否である。
今からおよそ三分前くらいだろうか、岩陰でシュプレンガーの男性職員の遺体を発見した――発見した遺体は胸い大きな穴があけられており、魔法少女のステッキから発射されるビームによるものだと推測できる。これは完全に予想になってしまうのだが、その職員は魔法少女から隠れていたところを発見され、一撃のもとに殺されたのだろう。
魔法少女の中には人を散々痛ぶってから殺す奴も存在しているので、その点を考慮するのなら、その男性職員は幸せな方だっただろう。なんせ痛みをほぼ感じずにいったはずだから……。
「巻坂」
「さん」
姉妹からの呼び声に俺は顔を上げる。いつ間にか二人は俺のすぐ横まで歩いてきていた。
「なんだ? ……っていうかさ、二人で喋るのは良いけど、今なんか切るところがおかしくなかった? 別に無理して二人で喋ることなくないか?」
「巻坂さんはいずれ部隊長として」
「復隊する可能性はあるのですか?」
あっそ、無視ですか。俺の言う事は無視かよ……だったらこっちも考えが、
「マジカルマジカル☆」
「あなたの悩みを消し去ります☆」
俺達の前に舞い降りたのは良く似た二人の魔法少女、
「むしろむしろのむしろしろ」
「あなた自身を消し去って……」
「「全ての悩みからおさらばバイバイ☆」」
二人は地面まで届きそうな黒い髪を、さながら絹糸のようになめらかに揺らしながら、
「魔法少女マジカルらんちゃん参上☆」
「同じく、魔法少女マジカルれんちゃん参上☆」
深淵を映すかのような、黒く美しい瞳をこちらに向た。
魔法少女一体でも手こずるってのに、今度は二体……やれるか?
いや、今度こそやってやる。
それに今度の俺達は、あの時とは違って満身創痍ではない――しいてあげるならば、錬金術師に無理を言って直させた、右手首の骨折が気になる。だが、ここまで何の問題も発生もしなかったことを考えると無事くっついてはいるようだ。
余裕だ。
今回は余裕で勝てる。
「エリス、レイナ……準備はいいか」
俺は両サイドに控えている姉妹に声をかける。
「私たちはいつでも大丈夫です。むしろ」
「あいつら何だか、私たちとキャラが被っていて」
「「ムカつきます」」
「はは、それは頼もしい事で……じゃあ」
「行くぞ!」
俺は天魔の心臓を動かし、二人同時に切るつもりで水平に一閃する。しかし、身体能力の差はどうしようもないものがあるらしい。
二人の魔法少女はそれぞれ――らんちゃんは後ろへ後退して躱し、れんちゃんは垂直にジャンプして躱す……が、
「避けられるのはこっちだって想定しているんだよ!」
俺はとっさに左手でれんちゃんの足首を掴み、地面へと叩きつける。
「わわ、放せ~☆」
「こら~、れんちゃんを虐めるな~☆」
目の前からはらんちゃんが、ステッキを昔あった野球というスポーツのバッターの様に振りかぶって突進してくる。そして、らんちゃんのステッキが俺の脇腹を捕える瞬間、
「やれ!」
「言われなくても」
「わかっています」
戦斧を担いだ二人のエクスが、俺の背後から飛び出し……、
「らんちゃん!?☆」
俺をホームランしようとしていたらんちゃんを三等分に切り裂いた。
おそらくらんちゃんは、れんちゃんが狙われていると思って突っ込んできたのだろう。だがしかし、実際に狙われていたのはらんちゃんの方だ。れんちゃんが窮地に陥れば、確実に助けに来ると踏んでの行動だったが、どうやらうまい具合にハマったらしい。
俺の作戦のおかげで、今残っているのは……、
「い、いや~~~~~~~~~~~~~~~っぶ☆」
「黙りなさい」
「うるさいです」
今日初めて知った事が有る。
例え魔法少女であろうと、動揺すれば戦力が大幅に低下するという事だ。それは目の前の状況――地面に転がって泣き叫んでいた魔法少女を、姉妹がみじん切りにし始めた事から推察する事が可能だろう。
「……うん」
なんかあっけない程簡単に勝ってしまった。
魔法少女相手に、こんな簡単に勝ったのは初めてかもしれない。
「えい」
「えいえい」
姉妹はれんちゃんの死体を永遠と切り刻み続けている――エクスに居る者は、誰しもが魔法少女に恨みを持っているので、姉妹のこの行動はわからなくもないが、こうも楽しそうに死体を切り刻んでいると、いったいどちらが魔法少女なのか分からなくなる。
まぁ楽しそうとはいっても、ほとんど無表情なんだけどね。俺が「楽しそう」と判断した理由は、なんだか二人の表情が生き生きしているからだ。
「もう粉々すぎて切り刻めません」
「木端微塵です……困りましたね」
「あ、そうだ」
「もう一人の死体を同様にしてしまいましょう」
姉妹は阿吽の呼吸で即断即決すると、らんちゃんの死体に駆け寄って行く。
俺はそんな姉妹を横目で追いながら思う。
なんか任務成功みたいなノリではしゃいでいるけど、実際は全く任務成功何かではない。むしろ、俺達はスタート地点から全く進んでいないのだ。
「新人エクスはどこにいる?」