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ELEMENT 2015春号  作者: ELEMENTメンバー
二次創作「竜人王国と純白の竜」
13/14

森の泉の白き竜(作:美汐)

 僕はきみを救いたかった。

 黙って死んでいこうとするきみを助けたかった。

 そのためになら、すべて滅んだってかまわない。

 なんの罪もないきみを殺してしまう国なんて、なくなってしまえばいいと思ったんだ――。






 深い森の中、泉のほとりで僕は座っていた。ぼんやりと、木漏れ日の落ちる泉の揺らぎを見つめている。

 すると後方から、透き通るような声が聞こえてきた。


「双樹」


 そちらに目を向ける。

 そこには、森の妖精のような彼女が立っていた。

 蜂蜜色の髪は腰まで伸び、光に透けてきらきらと輝いている。瞳の色は新緑色で、吸い込まれそうな美しさをたたえていた。


「うん? なに、森羅」


 僕は美しい彼女に向かって微笑みながら、答えた。


「なにしてるんだ?」


「ああ、ちょっと考え事」


「考え事?」


「うん。でも、もう忘れちゃった」


「なんだそれ」


 へらりと笑う僕につられるように、森羅もくすりと苦笑を浮かべた。

 そんな彼女に、僕は少しだけちくりと胸が痛む。




 彼女は竜と人の血が混ざった竜人ドラゴニュート

 元は人だった彼女を竜人としたのは、この僕だ。

 神竜である僕の血を口にしたことによって、彼女は今の彼女に生まれ変わった。

 しかし、あれ以来、彼女は人であったころの記憶をなくしてしまっている。

 そのことに、僕はずっと複雑な思いを抱いていた。




「それより、さっき傷ついた小鳥を一羽手当してきた」


「そっか。相変わらず優しいなぁ。森羅は」


 僕は素直にそう答え、隣に座った彼女にぎゅむっと抱きついた。


「ちょっ! すぐに抱きつかない!」


 僕の抱擁から逃げだそうと森羅はもがくが、僕はもう少しそのままでいたくて少しだけ力を強めた。


「だって、寂しかったんだもん」


「まったくもう。双樹はすぐに甘える」


 森羅は呆れたようにそう言い、結局その抱擁から逃れることをあきらめたようだった。

 しばらくそうしていると、ぽつりと彼女がこんなことを言った。


「そういえば、この間また変な夢を見たんだ」


「夢?」


 僕は瞬間、どきりとする。


「うん。ほら、前にも話した、金色の温かい光の夢」


 その夢の話をするときの彼女の表情は、どこか優しげで、そしてとても遠くなる。


「その夢を見ると、すごく懐かしい感じがして、すごく切ない気持ちになるんだ。どうしてなんだろう」


 僕は胸が苦しくなり、ぎゅっと彼女をさらにきつく抱き締めた。


「え? 双樹?」


「……ごめん。あともう少し、このままでいさせて」


 彼女がどこか遠くへ行ってしまうような気がして、そんな彼女を繋ぎ止めておきたくて、僕はそう言った。

 それから森羅はなにも話さなかった。

 ただ、僕にずっと寄り添ってくれていた。


 僕はわかっていた。

 彼女が記憶を取り戻したがっていること。

 忘れてしまっているはずの記憶を、彼女自身の力で呼び戻そうとしていることを。

 彼女が記憶をなくしてしまったのは僕のせいだ。

 彼女がそれを取り戻そうとしているのなら、それを止める権利は僕にはない。


 ――だけど。


 それを取り戻してしまったら、彼女は僕をどう思うだろう。

 彼女は僕から離れてしまうんじゃないだろうか。


 僕はゆらゆらと揺れる泉を見つめた。

 それは彼女の心の揺らぎのようでもあり、僕の迷いのようでもあった。

 木漏れ日が、きらきらと水の表面を光らせた。

 まぶしくて、僕は目を細める。


「森羅」


 僕は言う。


「ずっとずっと一緒にいようね。この先もずっとずっとこのままでいようね」


 それに、彼女は困ったようにこう答えた。


「当たり前だろう。私はずっと双樹と一緒だよ」


 その言葉に、僕は彼女の肩に顔をうずめた。


 その願いは叶うのだろうか。

 僕は彼女に許してもらえるのだろうか。

 いつか、僕の目の前から彼女がいなくなってしまうかもしれないと、そう思ってしまう。

 それはきっと、そう遠くない――。


 僕は彼女の肩で、少しだけ涙をこぼしていた。


  FIN





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